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◯監査のお仕事 実地検査その1


「監査の枠組みの次はその方法についてです、これも大きく分けると2つになります。それは書面検査と実地検査です」

 ナツメはまた、初日に受けたティオの講義を思い出す。

「文字通りですので、説明することも少ないのですが、この居室で各所から提出された書類を検査することを書面検査、実際に現地に向かって書面に加えて様々な情報に触れるのが実地検査です」

 上部組織の検査を思い出す。会議室を用意して、膨大な書類を準備して。でも監査係の実地検査でそんな大仰なことをされた記憶はない。ってか、あれのお守りと差配も監査係でやってたよね。うげぇ。

「建前というのでしょうか、教科書通りであればそういう、現地で組織対組織の取調べをするのが実地検査なのですが、当係のがわざわざ各部署にそこまで負担になることはさせません」

「要は、部屋で監査するか、外で監査するか。それくらいの違いやわ」

 と、最後にシンの横槍?が入ったところで、まぁそういうことね。と理解をした。


---


 ということで、いま相沢がテーザー銃を無くした現場、強盗未遂の現場に監査係の3人全員で

やってきた。裏路地の古い小さな時計店の前だ。

「何が、点と点が繋がっただけですよ。だよ。銃無くしてる癖に」

 彼の自信に溢れた、浮ついた物言いを思い出し、すこしイライラする。実は現地に向かう前についに相沢と対峙した。対峙とは言っても、名目上は定期監査で物品の管理について、実際に無くした人から話を聞くという体裁だった。ただ彼は聞いてもない自分の手柄を延々と話し、本命の話にたどり着くまでにずいぶんと時間がかかってしまった。

 なんで狙いも外してるのに、あんなに偉そうというか自信だけはあるんだろうか。無くしたのは銃だけ、弾は相沢曰く撃ったけど外してしまったとのこと。実際は外した弾は回収されている。どちらにせよカッコいいわけでもないんだけどなぁ。

「しかも途中から完全にティオとしか話さないって、何様なのよ」

 こちらの質問について全てティオの方を向いて答える、途中から意図を汲んだティオが、彼とのやりとりの中心になった。

「若気の至り、というか痛いんだけど、見た目と実績でなんとかなってるって感じやな」

 ナツメのイライラを察したシンが言葉を投げかける。

 残念なことに見た目も好みじゃないんだよなぁ。すらっと長い手足、清潔感のある黒髪のボブヘア。流し目が似合う切れ長の目と女子なら憧れになるほどの長いまつ毛。少女漫画にいそうという表現がピッタリだ。相沢自身もそれを理解している節があり、所作も予想どおり少しわざとらしく魅せてくる。落ちる子は多いだろうね。ティオだけに向けて話をする感じ、自分より弱そうな子しか狙わないというのも、自分の武器が通じる相手を選んでいて、かつ、監査係に対して横柄な態度は刑事部の気持ちの代弁でもあるので、それは許されるものとしてちゃんと計算している。

「優秀って言いたくないけど、評価が良いのも分かりますね」

 優秀っていう言葉を彼に当てるのは、優秀っていう言葉に対して失礼だと思った。そして続ける。

「あれに付き合わされる優木さんが可哀想だわ」

 先日、合同稽古で対峙した時に感じた彼女の素直さを思い出して、言葉を吐く。

 爛れた恋する女の子の瞳から、馬鹿にするなという真剣な瞳、彼女はいまその二つに挟まっているようだ。

「係長、優木さんと話す機会ないの?」

 シンは顎に手を当て考える。久しぶりにおじさん姿がだがどうも最近女性スタイルが長かったようで少し仕草が女性っぽい。歌舞伎の女形とでもいうのだろうか。

「これ終わったら考えるわ。ティオ、カメラあったか?」

 呼ばれたティオは少しキョロキョロしてから、指をさす。そこにはこの路地を監視するのにはバッチリのところにあるカメラがあった。そして告げる。

「あそこですね、あのカメラが事件の数日前から映らなくなっています」

 確かによく見ると線が切られている。ナツメはティオが何をどうしてそう言い切れるのかはもう聞かないことにして質問を投げる。

「えっと計画的に切ってからここを襲った?」

 さっきと変わらない態勢のシンが答える。

「どっちでも構わんやろな、たぶん。だから相沢は、点と点が繋がった。とか抜かしよるんやろな」

 あまいなぁ、あまちゃんやわぁ。と誰にいうわけでもなく。声に出してから二人に指示を出す。

「そんだら、聞き込みやるか、ナツメとティオはペアで」

 ほな、と言ってシンは時計屋へ入っていった。残されたナツメとティオ。お互いに顔を向かい合わせる。ナツメはなんとなくわかってしまった。

「たぶん、この聞き込みは本気じゃなくても大丈夫よ」

 ナツメの言葉にキョトンとするティオ。

「やったって言う事実が大事なの。もうだって何か掴んでるんでしょ。あなたも」

 ティオの瞳孔が少し開く。あれ?気づいてないのかな。そんなことないわよね。

「すいません、少し遠回りな表現には理解が追いつかないので…」

 なるほど、そう言うことね。でも、ここは外だし、誰がどこで聞いてるかわからないから、こまここで言うわけにはいかないの。

「大丈夫、ティオは充分役に立ってるよ。後でちゃんと説明するから。じゃあやりますか、私が聞くからティオは記録係ね」

 役に立ってる。その単語でティオの顔が晴れる。ティオは、はい、と返事をしてついてきた。

 いま居る路地は、お店や住宅やビルが密集しているが、規模自体は小さいので、聞き込みの対象は多くはなかった。おかげで割とすぐに聞き込みは完了した。

 その結果は、相沢と刑事部が言うとおりだった。細部は異なるが、皆の証言は一致する。

 今まさに店を襲わんとする集団に、たまたま通りかかった男女の警察官が応戦し、すったもんだの上に制圧したと言うものだった。

 そして肝心なことに誰もテーザー銃がどこあったかなんか知らないと言うことだ。それもそのはず、それは事件の細部の細部だから。そこを覚えていろって言う方が酷な話というものだ。

「予想どおりや」

 話をまとめたシンはニヤついて言う。

「じゃあ、やっぱり優木さんにも話を聞きますか」


---


「出来ればその、相沢さんと同席でお話しさせてもらえませんでしょうか」

 爛れた目で寝ぼけたことを言う優木ハルカ。蕩けすぎ。という表現もできるかな。刑事部で許可を貰い、優木ハルカを見つけ、シンが声をかけたらこの返事だった。係長は真顔で続ける。ように見えるが若干、ほんの少し口角が上がっている。彼女の態度に対する苛つきか、それとも何か予想どおりだったと言う満足感か。

「いや、お二人はずいぶんと親密そうですので、せっかくですから別々でお話しを伺えませんか」

 冷静に聞くとよくわからない理屈だが、優木ハルカは腕を組み顎に手を当てて考える素振りをする。直後、顔がにやけた顔で返事をする。

「そうですか、親密だなんてそんな」

 皮肉もわからんのか、この娘は。こんなに顔やスタイルが整っているなら、いわゆる恋愛巧者のように見える。しかし、いま目の前にいるコイツは初恋に飲まれた田舎の芋っこ女子高生じゃないか。

 いや、まさか。そうか、事実は意外にもつまらない答えなのかもしれない。

「優木さん、空蝉です」

 私の声を聞き驚く彼女、いま思い出したかな。あ、どうも先日は。と少しまともな応対になる。彼女の目に光が宿る。

「優木さんがテーザー銃を紛失した時の話を教えてくれますか?」

 私が話を続け、彼女はその時の状況を答える。さっきの爛れた目はどこかに行き、優秀そうな新米女刑事として逮捕当時の様子を的確に話す。すごくわかりやすく的確だ。そして話にボロはない。が、前回もそうだが、あなたは一歩遅いのよ。意識だけでティオを見る。ティオは多分真剣に聞いているはず。もう目的は果たされつつある。優木ハルカの容姿、それを彼女がインプットする。それが出来たら、あとはもう好きなだけ話させるか。

 相沢より、この娘の方が優秀という言葉に相応しいと感じてしまった。勿体無いな。ほんと。

「わかりました。ありがとうございます」

 話が終わり、少し大仰に頭を下げる。顔を上げて、念の為の確認をする。

「そういえば、優木さんって相沢さんと同期でしたよね」

 また、彼女の目が爛れ、えぇ、とだけ返事をする。やはり真実と言うのはつまらない。

「彼、格好いいですもんね」

 思ってもいないことを投げかける。彼女の爛れた目がさらに蕩ける。あぁ、そうか。

「えぇ、とっても」

 この娘は一体どこ見てるんだろう。

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