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◯優木ハルカという人


「タイミング。最悪だべな」

 正直に言って、顔は良いんだからもっとちゃんとすればモテるよ。とか、言われても。そうする意味を感じなかった。なんならそういうのは嘘だと思っていたからだ。

 この仕事も憧れの延長線上だった。だからそれとこれが点と線でぶつかることなんてないと思っていた。確信に近い何かを持っていた筈だった。

 女子としての基礎素養なんていらねぇべと人生を歩み、そして入学した訓練学校で私は天啓を受けた。彼は試験会場にいなかった。本当に、本当に、訓練学校の入学式で初めて彼を見た。一目惚れを通り越した何か。彼を見た時に身体の底から込み上げる渇望が自分を揺らした。そこまでの衝撃だったが、自分を客観視する能力だけはあったので、すぐに声をかけるとなんかしない。自分がどういう見てくれだというのもわかっていた。自分にそういう変な冷静さがあったことは別の神に感謝した。最悪だって言った次に自分の口から出た言葉には心底驚いた。昔から頭より心が先に動くことはよくあった。だから変に客観視できる能力も備わった。しかしいつも心が頭を追い越していく。誰にも聞き取られず、自分だけの魂に刻む一言が漏れる。

「ここから始まるべ。自分の2度目の生誕が」

 今までの生を否定するようなものだが、気しない。もう切り替えた。そう言ったら早かった。自分は狩人でありつつ、彼にだけ捕食されたいと願う不思議な獣になった。口から出る汚い方言はさっさと封印し、成績だけは上位にいて意識させる。価値観が狭い学校という空間でこの芋っこ娘がどうなるか見せてやるべ。おっと出ちゃった。

 訓練学校の半分が過ぎ、仕事のための教養だけなく、女の子としての基礎素養から発展までマスターした私は、本当に化けの皮を少しずつ、少しずつ剥がしていった。体型を絞り、髪の手入れをして、化粧も少しずつしていった。共同生活の中で、少しずつ少しずつ。


 先に気が付いた男どもは全部撫で切ってやった。

「ごめんなさいね、先に惚れた人がいるの」


 調子に乗ったと蔑む女子は返り討ちにしてやった。

「目指す世界が違うので」


 圧倒的なプリンスの彼、訓練学校でも常に先頭で前だけ見てる。だからその後ろにいるのが誰なのか。彼は一切気づかなかった。


 良いよ、それで良い。食いもんは日陰で熟成するほうが美味しいべな。おっと出ちゃった。


 人生で一番勉強した訓練学校が終わり、彼はやっぱり主席だった。最高だった。自分は次席。目立たなくて良い。でも、卒業式での彼の隣は私のもの。近くの空気を吸えるだけで僥倖だわ。

「あれ?優木さんってそんなんだったっけ?」

 彼が訓練学校で私にかけた最初で最後の言葉、甘美な響き。これだけでいける。何回も。

 そして彼はやはり刑事になった、もちろん私もついていく。


「なんだよ自分が可愛いとでも思っているのか」

 また彼に声をかけてもらえた。何度聞いても良い。堪らない。


「こんな女を見過ごしてたっていう事実に腹が立つ。殴って良い?」

 彼が私に触れてくれる。とてもいいことだと思う。頬が紅潮する。蕩けそうだ。


「僕は優秀だからね、別に一緒に仕事してあげても良いよ」

 やった。一緒にいて良いんだって。


 嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい。


 彼の役に立ちたい。彼に叱責されたい。彼に触れて貰いたい。


 でもなんかおかしい。でもここで出来るワタシは、すこし小さな策を打つの。大丈夫、大したことにはならないから。褒めてくれるかな?けなしてくれるかな?どっちにしても、彼はワタシに意識を向けてくれる。それが良いべ。おっと出ちゃった。

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