○冒頭
○冒頭
ナツメが久しぶりに着るコンバットスーツ、復帰すると決めてからトレーニングはして来たが、新品のこの感じ。ずいぶんと違和感を覚える。
体の筋繊維に沿った圧力が程よくかかるが、少し馴染んではいない。素材が擦れる音も、自分の素振りが空を切る音も、どこか真新しく、大きく聞こえる。
馴染ませる、合わせて行く、そう言った作業をこれが終わったら積み上げ直すか。
古傷の首、左手、右足はそんなに大きな誤差を出してはいない。意外なような、そうでもないような、傷というものは回復するようだ。内面の傷もそうだろうか。
場所は道場、以前と変わらない景色がそこにあった。ただ、壁や梁にほんの少しだけ時の流れを感じる箇所もある。前からそうだったと言われればそうかも知れないという、その程度。ここは、自分とエリ、そしてサヤカとティオがいる。サヤカとティオは道場の端に黙って座っている。
「準備が出来たら言ってください。」
嫌に丁寧な、自分の元バディ、エマの双子の妹が声をかける。彼女の隠そうともしない寂しさの一因が自分であると思うと少し情けない。
しかも自分が離れていた間、彼女はずっと自身の姉の姿を探していたと言う。負い目と言えばそれまでだ。彼女とどれだけやり合えるか、あんまりにも歯が立たないなら、それはそれで彼女に対して失礼だと思う。
自分の準備運動の間、彼女を観察する。些細な癖すら逃さない。体格が不利な自分はそうやって生きて来た。
彼女はとても直線的な、強情な動きだ。真っ直ぐに貫くような突きと蹴り、小さなステップでじわじわと前に出て、次の手を繰り出す。
「昔の動き方はとは全然違うのね、昔はエマと一緒だったのに」
声が漏れてしまった。彼女の中の寂しさが増す。
「まぁ、そうですね」
彼女が返したのはそれだけだった。
「なんや、まだ始まってなかったんか」
道場の入り口から蕩けそうな美声が聞こえる。その声の主は、銀色の髪を後手に纏めて、若干のつり目に黒い瞳、支給品の詰襟がまるで特注品のようにハマっている。
シンさん、とティオが声をかける。
「あぁ、アンタね、ちょうど良いわ、審判でもしてくれない?」
先ほどの丁寧さは影を潜めてエリが言う、言い方がキツいが嫌味はない.これが彼女のほんとの物言いだろう。
ええでー、軽く応じ、道場の中央に歩いてくるシン。つられるように仕切り線へ歩く。
あ、すいません大丈夫でしたか。と少しバツの悪そうに言うエリに、構わないと返す。
これから戦うと言うのに、確かに気配は穏やかに、ゆるゆると三者が立ち位置に向かっている。
「え。これから始まるんですか?」
ティオが間の抜けた声で言った、三人ともどこか、殺意と言うか真剣味すら感じない。
そうだよ、始まるんだよ。とサヤカが一言だけ言う。
まだポカンとしているティオを見て、説明を加える。
「スイッチは、今から入れるの。それで充分」
道場の中心から2歩引いた位置に立つシン、それを挟んで正体するエリとナツメ。
両者が仕切り線につく。
エリは軽く目を閉じてから、開く。明らかに目つきが変わった。
ナツメは軽く2度跳ねる、着地後両手を広げ息を吸い、吐く。目つきが鋭くなった。
シンが人差し指と中指を揃えて両手を開く。
一拍の間。
「始め」
シンが両手を合わせる。




