2.帝王学園
「…えっと、まずは学園長室か。」
十日前にもらった入学資料と校内地図を見ながら、学園長室を探す。
「あった、ここだ。」
広く入り組んだ構造をしている割に、すぐに見つかった。学園長室は一番わかりやすい場所に設置してあるみたいだ。
俺は学園長室の戸をノックし、返事が聞こえたことを確認して、ドアを開ける。
「失礼します。」
俺が学園長室に入ると、豪華な椅子に座る綺麗な女性が目に入った。
黒いロングヘアを優雅にまとめ、スーツのような服を着ている。耳や尻尾がないので獣人ではないと考えられるが、背筋の伸びた姿勢と鋭い目つきには、ただならぬ威圧感があった。
「…帝王学園にようこそ、猫宮クロ。私は獅子堂コウカ。君がどんな人物かはすでに把握しているから、自己紹介は必要ないよ。」
少し緊張しながらも、俺は学園長の目をしっかりと見つめる。
「初めまして、獅子堂学園長。これからよろしくお願いします。」
「ああ、よろしく。…ところで、君はこの学園についてどれだけ知っている?」
「…えーっと…あまり知らないです。」
あはは、と苦笑しながら学園長の様子を伺う。
「ははは、そりゃあそうか。今年設立したばかりだから、あまり情報は出回っていないだろうしね。では、簡単に説明しよう。」
「あ、ありがとうございます…」
悪い印象を持たれたわけではなさそうで、少し安心する。
「まず、帝王学園は未来の帝王や高位貴族を育成するための学園だということを理解しておいてほしい。この学園は、君たちに学び、成長し、最終的には帝国を支える存在となるために必要な力を養ってもらうために設立された。今年から毎年、約千人がここに集まる。だが、最も重要なのは君自身がどれだけ成長し、君自身の価値を私達に示せるかが大切だ。」
学園長はそこで一旦言葉を区切り、何かを持って立ち上がった。
「帝国は獣人が支配する国家だ。獣の因子に覚醒した者は無条件で爵位を与えられるし、その力が強ければ強いほど高い地位が与えられ、特権も手に入る。しかし、そのためには学園で競い合い、勝ち抜く必要がある。」
「競い合う…?」
俺が眉を顰めると、学園長は何かを…紙の束を手渡してきた。
「これは…」
「この学園についての詳しい資料だ。それを見ながら私の話を聞いて貰えば良い。」
俺は資料を見る。
その表紙に描かれていたのは、トランプの四つの柄だった。
「…帝王学園には四つの寮があり、それぞれの寮ごとに派閥がある。スペード、ハート、ダイヤ、クローバー。君にはまず、どの派閥に入るかを決めてもらいたい。まあ、詳しいことは教えられないので完全に直感になるがな。」
「派閥、ですか…」
「ああ。この学園では、総合評価をもとに派閥ごとのリーダーが決められる。そして、君の総合評価はSSS+。十段階で最も高い評価だ。選んだ派閥によって今のリーダーの総合評価は異なるが、君の総合評価ならおそらくほとんどの派閥でリーダーとなることができるだろう。…しかし、それだけではない。君自身がどれだけ成長できるかが最も重要だ。実力主義のこの学園において、怠け者はお荷物にしかならん。早急にリーダーから外させてもらう。」
「…と、言うと?」
素の能力は、覚醒した時点で決まってしまうはずだ。それなのに、成長…?
「…ふむ、君は獣人についてあまりよく知らないようだ。まあ良い、説明しよう。次のページを見てみると良い。」
「あ、はい…」
ページをめくると、そこには、総合評価から予想される成長限界、因子解放レベル、ステージなどという、よくわからない単語がずらりと並んでいた。
「まずは因子解放レベルから話そうか。因子解放レベルとは、獣の因子の本来の力の解放段階のことで、これが上がることでさまざまな能力が向上する。しかし、それには限界があってね。それが、総合評価から予想される成長限界だ。本来、因子解放レベルの上限は獣の因子の種類によって決まっている。しかし、クラスによってその上限が高まるんだ。最も上限を高くするのがクラスⅠ、そしてその次にⅡ、Ⅲと続くことから、クラスの優秀さが決まっている。」
「なるほど…」
全く知らないことだったけど、学園長の説明のおかげでなんとなくわかった。簡潔に言うと、因子の種類によって決まる成長限界を引き上げるのが、クラスの役割ってわけだ。
「…しかし、クラスが高ければ高いほどレベルの成長速度は遅くなる。つまり、君は成長限界は高いが、成長速度は遅い…いわば、大器晩成型だ。派閥のリーダーの決定には因子解放レベルの高さも加味されるので、その面では君は少し不利になるな。だがそれに関しては、私はどうにもできない。頑張りたまえ、猫宮クロ。」
「っ…。」
…なるほど。
おそらく、帝王になる権利があるのは派閥のリーダーのみだろう。
つまり、これからの俺の行動次第で俺の理想を実現できるかできないかが決まってくる可能性があるということだ。
…因子解放レベルか。俺のこれからの最も大きな課題になりそうだ。
「…で、ステージだな。ステージというのは、因子解放レベルの区切りひとつひとつのことだ。レベル1から5はステージ1、レベル6から10がステージにというふうに、5レベルごとにステージで区切られる。そして、レベルがステージの上限に達すると新たな能力が与えられる。その能力は本人の性格・得意分野によって異なるんだが、ステージ1から2になるときには必ず、統一して獣化の能力が与えられる。…まあ、成長についての説明はこれくらいだな。わかったか?」
「はい、よくわかりました。説明ありがとうございます。」
「ああ。…とにかく、これが帝王学園の大まかなルールだ。…あとは、今日から約一か月後…四月一日に派閥ごとのリーダーが仮決定すると言うことかな。」
「一か月後!?」
「ああ、そうだ。」
くそっ…俺の誕生日が遅いのが不利になった。リーダーの決定までに因子解放レベルを上げられる時間が、他の奴らよりも短い。
もっと早く覚醒していれば…いや、そもそも俺が覚醒なんかしなければ、こんなことで悩まなくてもよかったのに……
「…まあ、そういうことだ。何度でも言うが、頑張ってくれ。この学園では、派閥選択をするまで寮には入れず、待機専用の部屋で寝泊まりしてもらうことになる。派閥の選択期限は明日のこの時間だ。派閥の変更は学年の変わり目にしかできない。君が、これだ、と納得できるものを選んでほしい。…自分の直感を信じろ。それが私からできる最大のアドバイスだ。その他重要な事項については、その資料に全て載っている。元々知っていたことだったとしても、再確認しておくことをお勧めするよ。」
「…はい。ありがとうございました。」
…学園長室を出て、俺は思わずため息をつく。
ここに来て早々、大きな試練に立ち向かわなければならないようだ。
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