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3:キリル文字、書きにくい

こうして、第1章。


ロシア語だと……グローク? ゴローク?

なに言ってるのかわからんが、とにかく最初から覚えることにする。


だが――


早くも、問題発生。


キリル文字、書きにくい。


こんな記号みたいな文字をノートに書いていると、すぐに手が疲れる。

形が独特すぎて、アルファベットみたいにスムーズに動かせない。


これは、何か……工夫が必要だ。


そう思って、ネットでロシア語学習者のブログや動画を探してみた。


すると、何人もの学習者が「筆記体」を使っているのを見つけた。


――これだ。


キリル文字の筆記体は、アルファベットとはまるで違う。


でも、明らかにこっちの方がスラスラ書けそうだ。

何より……見た目がカッコいい。


まずは、この未知の文字を、身体に覚えさせなければならない。


Pはエル。

もう二度と「ピー」なんて発音してやるもんか。


Hはエヌ、Yはウ、Cはエス。


俺の脳内にあるアルファベットの概念を、

ぶち壊すところから始める。


そして、筆記体をスラスラ書けるようになれば、

多少は楽になるはずだ。


そうと決まれば、次の行動だ。


土曜日。


俺は、神保町へ向かった。


さすがは本の街。

ここには、ロシア語専門書店「ナウカ」がある。


店に入るなり、カウンターへ突進。

俺は声を張った。


「すみません! ロシアの子供が字を覚える本をください!!」


カウンターの向こうの店員――どう見てもロシア人――は、

一瞬、驚いたような顔をした。


だが、すぐにふっと笑って、

棚から何冊かの本を取り出して見せてくれた。


その中で、ひときわ俺の目を引いたのが――


『ロシア語習字ノート』


ナウカ出版から出ている、簡素でストイックな一冊。


価格、600円。


装飾もなければ、余計な配慮もない。

ただ、文字の練習のためだけに存在する本。


そのストイックな感じが、なぜか今の俺にはしっくりきた。


レジへ向かうと、店員がふと尋ねてきた。


「どうしてロシア語を勉強しているのですか?」


言葉に壁はないようだった。

年齢や背景に関係なく、ロシア語への熱意を歓迎している……そんな空気があった。


でも、俺の答えは決まっている。


真剣な目で、言った。


「ナスターシャ・フィリポヴナを救うためです」


店員の目が、すこし見開かれた気がした。

でも、何も言わず、静かに頷いてくれた。


600円の本を抱えて、

俺はナスターシャへの道を、また一歩進んだ。


ナウカは実在する書店ですが、この作品はフィクションです。

なお、入門書等を相談すると親切に教えてくれます。

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