悪役令嬢になりましたが、前世クソニートの私にそんなお役目が務まるとでも?
はじめまして、天塚黒子、27歳、前世就労経験ゼロ、最大バイト継続日数3日のクソゴミ雑魚ニートです。
階段から滑り落ちて死んだと思ったら乙女ゲームの悪役令嬢になってました。
鉄板ですね。
この世界の神様のキャスティングセンスを疑います。
ちゃんと三途の川に流して魂からリセットしてくれや。
さて、乙女ゲームの悪役令嬢になった私ですが、何分前世が社会経験ゼロの何の取り柄も才能もない、友達ゼロ、そもそも人間との会話を忘れたスーパード陰キャです。
お外怖い、人怖い、報連相って何?ニンゲンの99%がこんな高等テクニック使ってるってマジ?
と、そんな私なので、破滅フラグ回避だのなんだの言ってる次元ではありません。
そもそも令嬢としての適正が皆無です。
社交無理お茶会無理訪問無理。
次期王太子妃?なにそれ新しいお菓子ですか?
8歳ぐらいまでは親にもワーギャー怒鳴られてどうにかこうにかこの陰キャ無能ぶりを改善させようと、無理矢理社交界に引っ張り出されたりお茶会を開かされたり親戚の家に引き摺られたりしてました。
むしろ失敗に失敗の連続で、公爵令嬢であるにも関わらず周りの令嬢から馬鹿にされ見下されコケにされ、それをされても文句も言えないほどの恥の積み重ねぶりだったので両親もいよいよ諦めてしまいました。
王子との婚約?
侯爵家のご令嬢に決まりましたよ?
晴れてゲームの破滅フラグ回避です、やったね。
……やったんだけど全然嬉しくない。
それからは社交界にも出ずお茶会も開かず訪問に出掛ける事もなく、とても快適な引きこもりニート生活を送っていました。
両親には「24時間も部屋の中に居続けるとか正気か?囚人でもあるまいし」と呆れられました。
まぁ、陰キャボッチは妄想力豊かなんで。
その気になれば1日を妄想だけで潰す事も簡単です。
刑務所と違って本や紙とペンはありますし、これさえあればオタクの時間は無限に潰せます。
しかしそんな平穏も7年後、15歳の日に崩れます。
この国では15歳の貴族王族は学園に入らなければならないからです。
それは公爵令嬢でありながら王子の婚約者候補から除外されるレベルの問題児である私も同様なのです。
冷静に考えて、ゲーム中でありとあらゆる嫌がらせや犯罪行為、差別発言を公言して来た悪役令嬢でさえ、婚約は出来ているのです。
私、アレ以下だと……。
いくらゴミクズニートでも人を見下して踏みつけて愉悦に浸る犯罪者よりはマシだと思いたいです。
ニートは陰キャは人類に何の益ももたらさないけど、犯罪者やいじめっ子みたいに積極的に人類に害をもたらす人間よりは救いがあると思います。
焼却処分予定のゴミと、焼却処分も出来ない産業廃棄物ぐらいの差はあると思ってます。
……どっちもゴミじゃねぇかとか言わないでください。
私達ゴミカスは自分より下のゴミカスを見て「あれよりはマシだ」と思う事でしか自己肯定感を上げられないんです。
幸い学校生活はとても静かで平和でした。
私の陰口を叩く人間はいますが、そもそもどれだけ無能でゴミでカスでも曲がりなりにも公爵令嬢である為、堂々とイジメなんてできるわけがないのです。
しかしヒロインは違いました。
なんと彼女も転生者だったのです。
しかも、ネット小説でよく見るような、王子様落として玉の輿乗りた〜いとか言い出すヒドインタイプだったのです。
「なんでシナリオ通りに動かないのよ!」と言われても知りません。
シナリオ通りに出来るだけの能力がなかったからとしか言いようがないんです。
正直休み時間や昼休みの度に「シナリオ通りに動きなさいよ!」「あんたが動かなきゃ王子とのフラグが立たないでしょ!」とか言い出す彼女は煩いです。
彼女は男爵令嬢なので、私が家の力に縋って「学校に面倒臭い子がいるんだけど」とか一言言えば明日にでも学園から姿を消します。
でもそれはしたくありません。
私の精神は前世の陰キャニートです。
陰キャニートに人を殺す覚悟はありません。
人を見殺しにする事は出来ても自分の手で人を殺す事は怖くて責任重大で出来ません。
よく私をイジメてきたクソ同級生どもに関しては地獄に落ちろと常々呪いを掛けていましたが、復讐の為にそいつらを殺せるかといえばノーです。
たとえ実行に移すのが他人だったとしても、私の意図的な言動で人が死んだらそれは私が殺したのと同じです。
私は人殺しになりたくありません。
たとえ、罪にならないとしても。
そもそも、そんなに王子と結婚したいなら私に対してじゃなく、王子にアプローチを掛ければ良いのに。
シナリオなんてなくても魅力的な女の子なら王子も振り向くだろう。
それを聞いたヒロインは天啓を得たとばかりに口を止めました。
「そうよ……!
私は見ての通り美少女だし、可愛いし、愛らしいし、王子の好きな食べ物もデートスポットも知ってるし、シナリオなんかなくても好感度を貯める事は出来るわ……!」
自分を表す魅力の全てが外見関連です。
でも外見は武器です。
王子の婚約者は……確かボンキュボーンの美女タイプです。
ヒロインとは正反対です。
ゲーム知識からすると王子はヒロインみたいなタイプが好みだったはずなので、もしかするともしかするかもしれません。
それからヒロインは教室を訪れなくなりました。
良いことです。
平和が再び訪れました。
え?男爵令嬢が王子を口説こうとするとかアウト?ヒドインの暴走を許すな?あの女に王妃の素質があると思うのか?
知りませんよ、そもそも私は次期王妃が誰でも構いません。
そもそも前世クソニートの私はどちらかといえば平民思想です。
下位の身分の人間が王族と結婚、良いじゃないですか、ロマンがあります。
そもそも貴族の女の価値の大半なんて子供を作る妊み袋なんですから、ぶっちゃけ健康な母体を持ってりゃ誰でも良いんです。
政治なんて男どもに丸投げすりゃ良いんです。
社交なんて全部病欠すりゃ良いんです。
なんで城に沢山人材がいるのに王妃が働かなきゃいけないんですか、全部丸投げすりゃ良いんです。
……っと、ついクソニートの本性が出てしまいました。今のは忘れてください。
結論から言えばヒロインは王子の婚約者の侯爵令嬢に敗北したようです。
まるでザマァ小説のテンプレを読んでいるかのような王道展開です。
男爵令嬢の分際で王子に取り入ろうとした事を断罪され、しかも処刑までされそうになりました。
いや、待ってください。そりゃ彼女さんのいる男に手垢付けようとしたのは駄目だと思いますよ?
でも殺されるほどの事ですか?
そもそも王子だって、ヒロインの事割と気に入ってましたよね?
中庭で鼻の下伸ばしながらヒロインにウィンナー食べさせてもらってたの、教室の窓からも見えてましたからね?
何気まずそうにそっぽ向いて時が過ぎるの待ってるんですか?
親に叱られて後悔はしながらも反省はせず、時が過ぎて説教から解放されるのを待ち望む私みたいですよ?
というか、これは良くないです。
何が良くないって、そもそも王子にアプローチしろとけしかけたのは私です。
これはつまり、私が間接的にヒロインを殺そうとしたという事になります。
ヒロインはウザいしお花畑だし他人の男を奪おうとするカスとはいえ、処刑されるレベルのカスではないです。
私や侯爵令嬢に濡れ衣を着せた訳でもないし、クズレベルもあまり高くないです。
死なれたら罪悪感が湧いてしまいます。
「異議あり!」
……処刑を止めようとして思わず声を上げてしまったものの、次に続く言葉を考えていなかった。
「…………あ、あっと〜……し、処刑はやり過ぎかな〜、なんて、えっと、思ったり……。
ほ、ほら、若い内は失敗と経験、トライアンドエラーの連続と言いますか?
この失敗を糧に、彼女も成長していけば、それでよろしいのではと、思うわけで……あ、いえ、別に、ミルゼリアさんに異議があるわけではなくってですね……」
「今、異議ありとおっしゃいましたわよね?」
ひぃぃぃ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!
もう五体投地して土下座して泣いて謝りたいよぉ!
でもそうしたらヒロイン処刑されるんだよなぁ……!私が、王子にアプローチしろなんて言ったせいで……!
「あ、あ〜、えっと、あ、そうだ、か、彼女、私のお友達?みたいなもので、わ、私、見ての通りお友達いないので、彼女にいなくなられると、困るなぁ、と」
「……とてもそんな風には見えませんが?
今、この場で思い付いて言ってません?」
ヒィィィ!ジト目が怖い!
ごめんなさい嘘です!本当は友達どころかめっちゃ苦手な子です!
どっかで野垂れ死んでもなんとも思いません!
でも自分が原因で死なれるのは嫌なんですぅぅぅ!
「わ、私が学校でまともに会話を交わした事のある生徒は、彼女だけです。
他の生徒とは、最低限の挨拶ぐらいしか、してません。
つ、つまりこれは、か、彼女と、私が友人である証明に、な、なるかなぁ?なんて、思います、です、はい」
「たかだかそれだけで友人の基準となるなら貴族令嬢皆親友となりますが?
はぁぁ……。
アシュリア様が何故彼女をお庇いになるかは分かりませんが、所詮は一男爵令嬢のつまらないやらかしです。
アシュリア様が彼女の処刑を不服と仰るなら、従いますわ」
やった!
勝利!私勝利!
勝因?やっぱり私のこの土壇場で覚醒した天才的な話術と頭の回転が…………んなわけないですよね、はい。
シンプルに、私は公爵令嬢。彼女は侯爵令嬢。
身分で殴り合いをすれば私が勝てる。
どれだけレスバゴミの無能な私でも、「処刑は止めてください」と訴えれば割と強力な発言になるんですよ。
「しかし、王子を誑かした狼藉者に何の罰も与えるわけには参りませんわ。
よって、彼女は修道院送りとして、無期限の奉公をさせる事にします。
よろしいですか?」
「あ、は、はい、それで……」
死なないなら別に良いです。
修道院暮らしなら衣食住保証されてるし。
むしろ羨ましいくらいです。
修道女は神に身を捧げないといけないから結婚も出来ないし、外界から隔離される為一度修道院に入ると外に出る事もまず無理です。
毎日決まった時間に起きて掃除して食事取ってお祈りして聖書読んで掃除して食事取ってお祈りして聖書読んで掃除して食事取ってお祈りして聖書読んで風呂に入って寝る、というサイクルです。
…………結婚しなくて良い、毎日同じ事を繰り返すだけで飯を貰える…………。
あれ?修道院って天国では?
学園卒業後、私は修道女になりました。
結婚したくないし仕事したくないし何もやりたい事ないから修道院入れて欲しいと言ったら即座に北の雪国の修道院に入れられました。
ここ、問題のある令嬢が多く入れられるタイプの修道院だったはずなんですが?
実質少年院です、なんてところに入れやがるクソ親父。
でも、問題児は多いけどその分見張りのシスターも厳しいし、ヤンチャした時の懲罰も厳しいので、皆大人しいものです。
刑務所の如きこの修道院では不必要に集まって私語を喋るだけで咎められるし、喋らなくても変な子だと思われない。私には嬉しい話です。
ニートは刑務所適性が高い。
……尚、私が庇った男爵令嬢もここにいました。
まぁ、私語があんまり許されない環境なので、それで言葉を交わし合う仲になったとかはないですが。
ただ、一度だけ掃除ですれ違う時に
「…………一応、お礼は言っとくわよ」
と言われました。
前世と合わせて初めて人に感謝されたかもしれません。
これだけで生まれ変わった価値あったのでは?
尚、その後男爵令嬢と話す機会はありませんでした。
まぁ、私もあの子苦手だし、良いんですけどね。
最終的に私は修道女としてこの修道院で生を終えた。
〜〜〜〜〜〜〜
とある公爵令嬢の遺体が修道院の墓地に入れられた。
後日1本だけ、百合に似た白い花が献花された。
ガチのクソニートが貴族令嬢になったらこうなると思います。
貴族令嬢って社交が一番の仕事なところありますし、コミュ力ゼロの陰キャやニートには荷が重いよなぁ、と。
ドロップアウトを考えるのは自然な事と思います。
貴族用の修道院であれば衣食住は確実に保証されますし。
何の意味もない人生でしたが、前世ほど人様に迷惑をかけずに生きれたので本人的には満足してます。
修道院に娯楽品はありませんが、写経と反省文の為に紙とペンは常備されているので、自給自足は出来る環境だったので苦痛は少なかったです。
男爵令嬢は、もう少し頑張っていれば友情フラグが立っていたはずですが、人との付き合いを極度に嫌がる陰キャ性質により、死ぬまでフラグが立つ事はありませんでした。
順位確認してみたら異世界転生部門週間ランキング8位(2/11)になってました!
読者の皆様ありがとうございます!