18話 A級会議
ギルド本部の巨大な建物の一室。
そこに、ギルドランクA級の10人が集まり、会議が開かれようとしていた。
「あれれー? いつも『こんな会議やってられっか』って不機嫌丸出しで、偉そうにふんぞり返ってる、我らがA級1位さんが居ないじゃないですかー」
A級3位カスピリス・ロンドが、A級1位のガルフィアの不在を戯けるように口にする。
「勇者を騙る、得体の知れない輩に負けて、見せる顔が無いんだろ」
A級4位ヤンバラ・ヴァストも、それに同意するように嫌味を言い放つ。
「そうですよねー。唯一の取り得である、ご自慢の腕力で負けたんだから、恥ずかしくて出て来れないですよねー。魔法が使えないからって、病的なまでに身体を鍛えていた可哀想な人の末路……哀れですねー」
泣き顔を作りながら、カスピリスは声のトーンを落として同情して見せる。
「……いつも隅で、オドオドしてる5位も居ねーな」
A級2位エルナイト・ミラージュが、気だるそうにあたりを見回して呟くと、カスピリスが知ってるとばかりに答えた。
「例の勇者センスと、魔物の森に出かけたそうですよ! 本の監修したおかげでA級になったんだから、センスが本当に登場したとあっては、腰巾着になるのは当然ですねー」
「2人も居ないのでは、会議など開かなくて良かったのではないか?」
A級6位ナミツキ・カイムが、カスピリスに問いかける。
「だって、色々あるんですもん。腕相撲でA級1位に勝ったあれは本物のセンスだから、ギルドで協力する……なんなら、本の通りにギルドから仲間として3人差し出すとかなんとか。ギルド長も何をとち狂ったのか、随分と思考がファンタスティックですねー」
「反吐が出る話だ。あんなのを認めて、のさばらせるなど……ギルドも地に落ちたな」
ヤンバラの言葉に、A級9位ネーネ・デルモックが諭すように話す。
「それに関しては、個々の判断に任せるって言ってるんだから、嫌なら断ればいいだけでしょ。それより気になるのが、魔王派のスパイがいるって話。そっちのが大問題でしょ」
「どうせ見習いか、D級の仕業だろ。俺達には関係ない話だ」
「そうですねー、どうせ小物のでしょうし、すぐに犯人は見つかって捕まるでしょう」
エルナイトとカスピリスが、立て続けにスパイの件をあしらう。
「それより、僕らに関係ある話をしましょうよー。3人選ぶって、どうせS級とA級から選ぶでしょ? 本ではそうだったんだから、絶対そうですよ。どうせなら、我らがA級1位を持って行って欲しいなー。魔法を使えない無能が1位にのさばってるなんて、A級の名が廃るからさっさと消えて欲しいなー。2位さんは、余計そう思うんじゃないですかー?」
「別に、A級の1位も2位も興味ねーよ。S級しか眼中にねー」
「あら、意外ですねー。S級なんて、あんなの人間じゃないですから。人間やめてまで、魔物殺戮兵器になりたいと私は思いませんねー。2位さん、人外になりたいなんて酔狂な価値観だ。A級こそが、最もエレガントな人間の魔物ハンターの姿じゃないですか!」
その言葉に、エルナイトは嫌悪感剥き出しでカスピリスを睨んだ。
当のカスピリスは、我関せずと言った様子で喋り続ける。
「まっ、本音を言えば、勇者センスが実際に現れたとあっては、人外S級を駆逐して欲しいところだね」
「何言ってんだ、気でも狂ったか。あり得ん」
A級7位コッぺ・フーガが呆れた様子でため息を吐く。
「S級が消えたところで、勇者センスが魔王を倒せば問題ない。魔王が消えれば、魔物も200年前以前のようにおとなしくなる。凶暴化は無くなり平和が戻る。……そうなれば、今度は人外の力を持ったS級が害になりかねない。前回のように、魔王と一緒に勇者は消えるかもしれないだろ? その前に、害を片付けといてもらいたいと考えるのは自然じゃないかい?」
薄笑いを浮かべて、カスピリスは続ける。
「私は、魔王が死んだ後のことまで考えているんだよ。平和な時代にS級など要らない。A級こそが、ギルドの礎だと思うんだよ。どうだい? A級愛に溢れてるだろ?」
「お前が言うと、冗談か本気か分からん」
A級8位シュプーレ・オミナが苦言を呈すと、カスピリスはケラケラと笑う。
「まあ、とにかく勇者センスには、ちゃんと魔王の息の根を止めてもらわないとね。200年前の勇者ハーベルのように、仕留めそこなったらいい迷惑だ」
ガン!! ヤンバラが机を蹴ると、部屋に激しい音が鳴り響いた。
「勝手な事をべらべらと……センスなどは、小娘が書いた低俗な書物の産物でしかない! 馬鹿馬鹿しい……」
「あららー、そう言えば4位さんて、ハーベル教徒でしたっけ? 駄目ですよー、ハーベルがちゃんと魔王を殺し切らないから、魔物の凶暴化が解けずに、この200年苦労したんですから。その尻拭いで、センスが生まれたんだから、恨むより感謝しないと! ハーベルと違って正真正銘、全ての人に愛される勇者なんだから、セ・ン・ス・は」
ブチギレて、ヤンバラが立ち上がり喚きたてる。
「ふざけるな!! ハーベルこそが、唯一無二の勇者だ! 勇者とは魔王を倒す者の称号だ……まがい物の空想勇者など言語道断! 魔王が復活する時、ハーベルも復活する! 今度こそ、勇者ハーベルが魔王を駆逐するんだ!」
「あらー、イカレた考えですねー。死者は蘇ったりしませんよー。それこそ空想ですよー。ハーベル教だから頭がおかしいのか、頭がおかしいからハーベル教なのか、興味湧きますねー」
「なんだと! てめえ!!」
「あららー、怒らないでくださいよー。だって、ロビーでセンスに絡んで大恥かいたB級のマー3兄弟……あれもハーベル教徒でしょ? 小説だって、そういう三下は街のチンピラか、下っ端騎士団の役なのにー、まさかギルドでA級に次いで地位があるB級がやるなんて、ハーベル教の低能さには呆れ果ててるんですよー。ギルドの人間として、恥ずかしい限りですよ全く。皆さんも、そう思いますよねー」
「……すべては、センスとかいう偽物のせいだ。あんなのが登場したから、世界はおかしくなった。勇者はハーベルのみ。それが世界の理。その血を受け継ぐハーベル5世が、勇者ハーベルの代わりに、センスも魔王も駆逐する……!」
そう吐き捨てると、ヤンバラは部屋を出て行った。
「まあ……本の人物である、センスが現れるなんて非常識が起こったんだ。ハーベルが復活しても驚きはしないよ」
A級10位ワンダ・ビスキットが、おどけるように軽口を言った。
「勇者対決なんてのも、実現したら面白そうだよね」
ネーネが言うと、冗談のような空気になり 緊迫感は無くなった。
「カスピリス……たとえ本当の事でも、言っていい事とそうでない事があるぞ」
ナミツキが真面目な口調で窘めると、さすがに苦笑いをしながらカスピリスは反省を口にした。
「いやいや、調子乗っちゃいましたねー。実はセンス実体化で、私も舞い上がってるんです。これでもファンなもので……仲間になる気は、一切ありませんけどね!」
「センスだって、お前だけは絶対に仲間にしたくないだろ」
ナミツキの言葉に、全員が深く頷いた。