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第18話 エピローグ

「――こうして、聖女さまは騎士団長といつまでも幸せに暮らしましたとさ」


 ぱたん、と絵本を閉じる。

 胸元では男の子と女の子の双子が、目をきらきらに輝かせて父を見つめていた。


 獣人のような耳が女の子の頭上でピコピコと揺れ、男の子のお尻から生えたふさふさの白い尻尾がぶんぶんと振られている。


 眠気なんてどこかに忘れてきてしまったと言わんばかりの表情に、父は思わず苦笑する。


「パパ、もういっかい! わたし、聖女さまが狼さんとであうところがいい!」

「えー、ぼくは騎士団長が悪い奴をやっつけるところがききたい!」

「まったく……任務で遠方まで足を伸ばしたかと思えば、わざわざ持ってきた絵本がコレとは」


 ちょっとした仕事で外に出た侍女たちが土産にと送ってきた絵本。その内容に思うところがあるらしい父は微妙な顔をしていたが、双子にとっては最高のお土産だった。

 一番面白くて大好きで、何度でも聞きたくなるお話なのだ。もう一度、もう一度、と二人そろって父親に飛びついたところで、寝室の扉が開く。


 入ってきたのは夜着にガウンをまとった女性だ。髪を簡単にまとめてすぐにでもベッドに入れる姿の彼女に気付き、子ども二人がベッドから飛び出した。


「ままー!」

「ままだっ!」


 それぞれが左右の手を取ってベッドまでぐいぐい引っ張る。


「いまね、絵本読んでもらってたの!」

「もう一回読んでもらうの!」


 いつの間にかもう一回が決まっていたことに父が苦笑し、それに合わせて母も穏やかに笑った。彼女がベッドに腰を下ろすと、その体が夜の空気で冷やされていたことに気付いたらしい父が心配そうな顔をする。


「外に行ってたのか。寒くなかったか?」

「ええ。寝る前にちょっと気になる仔がいたから厩舎に」


 相変わらずな言動に、父が苦笑を浮かべる。


「警備もつけずに。何かあったらどうする」

「あら、何かなんてないわ」


 ハッキリと言い切った彼女は、思わずどきりとするような笑みを零した。


「世界一勇猛な騎士団のいる地だもの。公爵領の犯罪率はほぼゼロだし、他国にまで『怒らせたら国が滅ぶ』なんて言われてるじゃない」

「私よりも、奥さんを怒らせた方が魔獣たちは本気を出しそうだけどな」


 苦笑気味に返すが、母はニッコリ笑った。


「あっ、でも少し冷えちゃったかも」


 舌をぺろっと出して、父の胸板に頬を寄せた。


「あったかいもふもふに包まれたら、きっとすぐあったまるんだろうけど、このままじゃ寒いなぁ」

「……それじゃあ温めないとな」


 意図を察するとにっこり微笑み、優しく抱きしめた。


「もふもふは?」

「ベッドに入ったらな」


 仲睦まじい二人のやりとりに、双子がくすくす笑う。

 両親をベッド中央へと引っ張っていった二人は、侍女に貰ったお気に入りの絵本を差し出した。

 ぼんやりとしたランプの灯りに照らされて、グリフォンの背に乗って抱き合う男女の表紙が静かに光る。

 国を越えて大人気となっているこの絵本は、グリフォンに乗った騎士が冤罪で追放されてしまった聖女を助け、紆余曲折を経て結ばれるという物語だ。


 この絵本は、この国で初めて獣人にして侍女長にまで出世したという女性が、自身の先輩とともに書き上げたものだという。

 印税で左うちわのはずの作者は「お嬢様をひとりにできません」などと言い張って未だに侍女を続けているらしい。


 献辞(けんじ)に綴られた『坊ちゃまとお嬢様へ』という文字に苦笑しながらもページをめくり、題名を読み上げる。


 待ちわびた物語の始まりに、騒いでいた双子がぴたりと声を止める。

 ふかふかのもふもふになった父をまくらにした双子の耳に、幸福に満ち溢れた母の声が静かに響いた。


「――その日、大聖堂には……」


〈Fin〉

最後までお付き合いいただきありがとうございました!


元々、中編向けコンテスト用に書いた本作でしたが、いかがでしたでしょうか?

楽しんでいただけた方は下の評価欄から★★★★★評価を下さると、新作への励みになりますのでよろしくお願いします。


それではまた新作でお会いしましょう!

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