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ゆめうつつをつづる  作者: 稲波 緑風
2024年1月
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2024年1月4日 語り

 『旅先にて』


 風の向きが変わった。山から吹き降りる乾いた風が止まる。少し湿り気をおびた風が向かいから吹く。

 鈴の音が聞こえた気がした。「バイバイ」と「こっちへおいで」。どこから聞こえてくるのだろう。


 南中を過ぎた太陽が山の端に近付いている頃、私は今日の宿へと向かって自転車を押していた。

 近くの山の中腹にある集落から、自転車で2時間。のんびりとこいできた。

 住宅街というか、漁村と言ってもいいような田舎の港町。家々のカーテンの隙間から漏れる明かりが、道を染めている。そして、夕飯を作っているのだろう香りが漂っている。

 そんな中を進むと、民宿のささやかな看板が見えた。今日の宿だ。


 おかみさんの案内で、今日の部屋へ。

 夕飯はもうすぐ出来るとのことなので、荷物を置き、少々服を着替えたら向かうことに。

 港町ならではの新鮮な魚介類の夕飯。民宿ならではの子どもの声、家族の雰囲気。

 夕飯の後は、大人が一人入ればいっぱいになってしまうお風呂にのんびりと入る。

 他にも2・3組のお客がいるが、そちらは大風呂(大人3・4人で入れる)を使っているようだ。

 お湯は温泉ではないが、長時間の移動をしてきた身にはじわじわと温かさが入ってくる。


 夜も遅くなると、町全体の音が消えて波音だけが聞こえてくる。

 私は夢を見る。毎晩見ている夢だ。悪夢と言っていい。うなされて飛び起きてしまう日もある。旅の日々でも、悪夢は離れてくれない。他人に迷惑をかけていないことが、不幸中の幸いではある。

 今晩も見るだろう。そう思って布団にもぐる。眠りはすぐにやってくる。穏やかな眠りはすぐにやってくる。


 「あーーーーーっ、またトトここに来てるーー!」

 朝、悪夢を見ることもなく熟睡した私を起こしたのは、ふすまを勢いよく開けた音と、民宿の子の大声。

 悪夢を見なかったことに、驚きながらも身を起こせないことに戸惑う。

 「トト、お客さんの上で寝ちゃダメだってばー」

 そんな言葉につられて、お腹の上を見ようと首だけ持ち上げるが、それより早く白い猫が、民宿の子に抱き上げられる。

 「重いでしょー。トトが脱走しないように、毎晩鍵かけてるんだけどなぁ。時折、こうやってお客さんの上で寝てるんだもん。・・・・ごめんなさい。アレルギーとかない?」

 身体を起こして猫を見つめる私に降ってくる謝罪と問い。大丈夫だよと答えると、笑顔と猫の鳴き声が返ってくる。

 「朝ごはんまではもうちょっと時間あるので、ゆっくりしてください。失礼しました」

 子どもらしい元気のよさに、お客へと見せる宿屋の顔。しっかりと民宿の一員なのだと思う一面だ。部屋から出ていく子と猫を見送った後、時計を確認すると、確かに昨夜教わった朝食の時間までは余裕がある。二度寝をしてもよさそうだ。


 宿を出て、自転車を転がす。次はどこへ行こう。なんとなく気分が軽い。悪夢を見なかったからだろうか。また鈴の音が聞こえる。あっちへ向かおうか。




 「にゃ~(ごちそうさまでした)」

 昨夜のお客さんもなかなかのご馳走(悪夢)の持ち主だったにゃ。それだけじゃなくて、導く方も付いていたから、また来てくれそうだにゃ。にゃ、うちが行ってもいいかもにゃ。

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