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ゆめうつつをつづる  作者: 稲波 緑風
2023年12月
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2023年12月5日 語り

 扉は閉まっていた。鍵はかかっていなかった。人が生活していたのは昔のことなのだろう、埃がうっすら積もっていた。

 静かに歩く。歩いた後に足跡が残る。床板や柱はまだ寿命が残っているのか、たわむことも揺れることもない。この様子なら、今日明日で崩れることはないだろう、と一安心出来た。

 家の中を一周し終わり、土間へと戻ってきた。勝手口の横に積まれていた薪を使い、竈に火をつける。一晩過ごす位ならば、竈の火だけで十分だ。

 山から流れてきている清水を汲み、湯を沸かす。手持ちの干物や乾物を煮込んで夕飯にする。•••残りは朝飯用だ。

 食事を終えて外へ出る。周囲に家の影はあるが、人工的な明かりはない。自然の音しかしないので自分の呼吸すら違和感を覚える。

 ここは数年前に住民が消えた村。減っていっていた人口の理由に不可解なものが混じっていたために、夏に胆試しと称して訪れる者が存在する。帰ってこなかった者がいないので、昔にあった話にしかならない、忘れられていく村だ。

 私は胆試しに来たのではない。祖母の依頼で物を取りにきたのだ。幸い分かりやすい場所に置いてあり、また目立つものでもあったので、一晩過ごす必要もなく帰ることは出来るのだが、ついでとばかりに元村役場の職員に様子を見てくるよう頼まれたのだ。

 無人である村を野生動物が時折やって来ているのだろう跡を見つけながら一周する。

 半日もあれば廻りきる広さの村で何故突然人がいなくなるのか。そんな話を思い出す。いなくなった人に一見して共通するものと言えば、年齢だろうか?確か80を越えた人がいなくなることが多かったらしい。

 姥捨て山か?そんな疑惑すらあがった事があって、村の周囲の山を手分けして捜索したこともあったらしい。何もなかったそうだが。

 ••••夜、電気も無い中で長々と起きていることもないので、持ってきた寝袋に入り込み就寝した。


 朝、蚊に刺されたかゆみで起きた。朝飯をして山の清水で顔を洗う。寝袋を片付け、荷物を持ち、火を消して、再度忘れ物がないか確認し、扉を閉める。庭に停めていた車に荷物を詰め込み自宅への帰路につく。

 自宅に到着後、元村役場の職員に電話で報告を済ませると、祖母に荷物を届ける為に実家へと向かう。徒歩数十分の距離だ。

 祖母に荷物を渡す。祖母は笑顔で受け取り、

「やっぱり私が最後ねぇ。」

と不思議な形をした木像を撫でていた。


 数日後、祖母の代わりに金剛夜叉明王像が蒲団に寝ていた。

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