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ゆめうつつをつづる  作者: 稲波 緑風
2024年1月
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2024年1月29日 語り

 『逆転の禁忌』


 愚かな操り人形になってしまえば、民に恨まれるのだと何度も伝えた。なのに、私の言葉は届かなかったらしい。欲にまみれた貴族どもが国を喰らうために弟はあっけなく操り人形になった。私の周りに味方はいない。一瞬のうちに命は消えてしまった。そして、私も消されるのだろう。民衆が騙されて騒いでいる。この夜を超えても私に朝は来ないだろう。それならばいっそ・・・


 ほとりの森でレクシアラ王女の消息は消えた。イズズヤ国が荒れ始めるその前夜に。

 貴族たちは自分たちが楽しく過ごすために、増税も、誘拐も、強姦も、殺人も、とりあえず罪が明らかにならない程度に隠してなんでもやった。国王についたベギズドヤ王子は貴族たちにそそのかされて、操り人形でしかなかった。


 10年。民は苦しみ続けた。飢饉や洪水などの天災がなかったのは幸いだっただろうか。他の国からの侵略もなかったから、貴族は安穏とし続けたのが、本当に幸いだったのだろうか?長い時間苦しみ続けた民は、トラルという名の青年が、圧政を敷く貴族を討つ為に立つ意思を固めて呼びかけた声に、恐れつつも応えていったのだった。

 民衆のリーダーに立ったトラルという青年は、平民のはずなのに貴族のやり方を知っていたし、貴族の手の内を知りすぎていた。貴族たちはどれほどあがこうと、罪が正しくあばかれていった。貴族は裏切り者か内通者がいるだろうと互いに疑心暗鬼になって、罪を認めていくしかなかった。


 罪を犯していた貴族を根こそぎ討った後、トラルは民衆に問いかけた。

 「イズズヤ国は悪徳貴族の餌になっていた。だが今、罪を重ねていた貴族はいなくなった。我々は明日の食べ物を心配することも、妻が、娘が、奪われることも、夫が、息子が、殺されることも、おびえなくてよくなった。今、我々は奪われる日々から、おびえ続ける日々から、心配する日々から抜け出すことができた。我々の勝利だ!

 しかし、世界にはこの国だけではない。他にも国が存在する!我々は飢えから抜け出すための武器は持てた。だが、この国を守る武器は持てるのか?この国を守る武器を持つ意思を持てるか?まさに今、今すぐに、この国を己のものにしようと他の国が攻めてくるかもしれない!今すぐに、我々は、飢えていない、訓練をした兵士に、騎士に勝てるか?

 傷付き倒れた後に、手当てをする技術も、道具も満足にない我々では、他の国に飲まれていくしかない!だが、もしも許されるのなら、私は皆の命のために王となろう。この国が他の国に飲み込まれなくなるまで、皆が満足に食事をし、家族と笑いあえるまで!私が王として、この国を守る盾になってもいいだろうか?」

 民衆は答えた。かまわない。と。トラルが立ち上がらなければ、誰一人として立ち上がらなかっただろうから。と。


 トラルは国王として即位した。王制を守り、他国からの侵略を防いだ。トラルの補佐官は貴族の血筋をひくものも、平民も平等にいた。だが、国の運営など誰も承知していなかった。トラルは王政を行い、学舎を開設し、国の運営を誰でも行えるように学べるようにした。

 トラルは国として壊れてしまったすべてを新たに作り直していった。

 そして30年。トラルは王位を退こうとした。国は活気づき、他国とも友好的な関係を続けている。今自分が退位しても、国を運営していける人員は揃った。民主制である。血ではなく、皆で王を選ぶ仕組みすら基礎が出来始めていた。しかし、まだ民はトラルが王であることを望んだ。さらには、その血筋が出来ることすら望んでいた。でも、トラルの隣には誰も立たなかった。


 さらに10年。民はトラル以外の王を選んだ。トラルは退位してほとりの森へ行った。その後のトラルの行方はわからない。

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