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第5章 第1話 東への旅(その2)

「姫殿下はあまり行き過ぎた華美は好まれなかったけど、それでも最上の品を身に着けていただきたく、離宮にはうちの商会で扱っている最上級の品を納めさせていただいていた。この絹は遥か東方の国より、砂漠を超えて長き道のりを通って、王国にもたらされたものなんだ」


「これを持ってくる商人がいるのね?」


「そうだね。さっき父も言っていたけど、あの人は元々自分が仕立て職人になりたかっただけあって、入ってくる物に対する目利きは本当に鋭いんだ。でも、じゃあ職人がこういう布が欲しいと言った時に、ではどうやって入手するのか、その手立てには少し無頓着なところがあってね。父の無茶に応えてきたのは叔父さん……ほら、結婚式にいたでしょう。あの、ほら、髭の」


「髭の……ああ、あの髭がすごい人。イザークさんのことね?」


「そう、そのイザーク叔父さん。父のすぐ下の弟にあたるんだけど、あの人は自分でも遠くまで旅をして、草原の方の商人にも顔が利いて、こういうものを買い付けるつてをいくつも知っているんだ。うちはユーライカ殿下のお眼鏡にかなうような腕利きの仕立て職人を自前で抱える一方で、こういう貴重な布地の買い付けまで自分の所でやっていて、店の規模からいってそこまでを一緒にやってる所は他にはないんだけどね」


「へえ……」


「父は父でやりたいようにやって、叔父は叔父でやりたいようにやってる結果がこれなんだけどね。……それでこの間、君がハイネマン先生のところに行っている間に叔父がやってきて、少し話をしたんだ。叔父は草原の商人と同行して、草原までこういうものを買い付けに行った事は幾度かあるんだけど、本当に良いものはやはり砂漠まで行かないと手に入らないんだって。離宮相手の商売もどうなるか分からないし、そのうちこういう買い付けのための出国もあまり自由に出来なくなるんじゃないかって。それで叔父は、近々草原の方に向かって隊商を組んで出かける計画を立てているんだ。……それに、一緒についてこないかと誘われてるんだ」


「それに私も一緒に行けばいいの?」


「えっ」


「えっ?」


 リアンの返事にメルセルは驚いた声をあげて、その声につられてリアンも驚きの声をあげた。そしてお互いに、相手をじっと見やる。


 最初に驚きの声をあげたメルセルが、動揺した声で問いかける。


「い、いや……どうしてそういう話になるの?」


「え、だって、わざわざかしこまってこんな話をするくらいだから、私も一緒に行けというのかと」


「いやいや、そうじゃない。そうじゃないんだ。……僕が実際に叔父について行くとなると、長く王都を留守をする事になるから、その間の事を君にお願いしたかったんだよ」


「その間の事って、私はどうすればいいの……?」


「えっと……それは。君の事は父と母にお願いしていくから、店の手伝いを……」


「手伝いって言われても、今でもする事がなくてハイネマン先生のところに通ってるくらいなのに」


「じゃあ、ハイネマン先生にお願いして、何か仕事を……」


「この際だから言っておくけど、ハイネマン先生だって大変なのよ? 先生の私塾は姫殿下のご支援があったから、あちらはあちらで、今後どうするのかでてんやわんやになってるのよ。先生はお優しいからはっきりとは言わないけど、向こうだって私の相手をしている場合なのかどうか」


 ハイネマンは私塾の件で何くれと離宮に顔を出す機会が多かったように、彼の私塾に公的な支援があったのは、実質的にはユーライカの判断があったからだった。彼も直接確かめた事はないし、リアンがユーライカから何を聞いたわけでもなかったが、ハイネマンが王都に私塾を開設するに至ったのには多分に、二度に渡ってギルダを重篤な負傷から救命した彼自身の働きに対する、ユーライカなりの褒賞という意味合いもあったのではないか、とリアンは今更ながらに邪推するのであった。


「……じゃあ、どうすれば」


「もうこの際、私も一緒に行ってしまえばいいんじゃないの? 駄目?」


「いやいや、そんな簡単に決める事じゃないよ。旅は決して楽ではないよ?」


「それを言い出したら私はメルセルの方が心配よ。あの叔父さんはちょっとやそっとでは死ななそうなお人だったけど、ああいう人ではないと務まらないような危ない旅に、あなたがついていって本当に大丈夫なの……?」


「うーん……」


 メルセルは難しい表情になったまま、何も言えなくなってしまった。


 結局この日はそのあとに、問題の「髭のイザーク叔父さん」が店にやってきたので、クロードも交えての話し合いの場が持たれたのだった。


「話は分かったが、兄上。メルセルの嫁を一人店に置いていって、何かさせる事があるのか?」


「元々は離宮でメルセルの相手をしていたという話だったから、そこの仕事を丸々任せられるんではないかと期待はしておったのだが……」


「でも、そっちは注文がぱったり途絶えてしまっているであろう?」


「いっそハイネマン先生にお願いして、そちらで働かせてもらった方がいいかも知れん。……なあリアン殿、先生にお願いは出来ないだろうか」


「先生は先生で、私塾の援助が打ち切られるかも知れないっていって、向こうもてんやわんやなんですよ。これ以上ご迷惑をおかけするのも忍びなくて」


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