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第4章 第5話 鳴鐘(その3)

「姫殿下にはご無事であって欲しいし、お身体の具合もよくなって欲しい。でも、そのために母さんが無茶をしないといけないわけではないわよね……?」


 北の塔で今まさにユーライカは病に伏せっているという話だった。それから数日が経過しても、ユーライカが快復したという報はいっこうに届けられなかった。彼女の収監に対し実際に非難の声をあげた者は誰彼となく捕縛される憂き目となったが、それでもそういった批判めいた風評を止める事は出来ず、彼女を北の塔とは別の場所に移管しまずは体調を整えるのを優先すべし、という声が王宮内からも上がるようになった。ともすればそれは、シャナン・ラナンらがユーライカに味方する貴族らに声がけを行い、そのような折衝が行われた成果と言えた。


 罪状のほどはすでに明らかになっているのだから、彼女を元の離宮に戻し、近衛による見張りをつけて離宮からの出入りを制限する、それだけでよいのではないか――そのような声すら上がっていたが、結局どこに移送するのかという話がなかなか決定事項として伝わってこなかった。


 離宮での唐突な逮捕、北の塔への幽閉から、二週間が過ぎようとしていた。


 民衆が事の成り行きを見守る中で、その日報じられたのは――そのユーライカ王姉殿下の唐突な死去についてだった。


 最初は噂話であった。だがそれは瞬く間に王都じゅうを駆け巡った。伝えられる所によれば、その日の朝に食事を運んだ獄吏が、独房で一人静かに眠ったように息を引き取っている彼女を発見したのだという。


 誰しもを驚かせるに足る噂話だった。あまりに衝撃的な内容故に、嘘偽りの流言のたぐいではないかという懐疑の声も多かった。まだ正式に王宮から何の通達も出ていない状態で、結局姫殿下は苛烈な拷問によって亡くなってしまったのだ、とか、あるいは食事に毒を盛られるなどして密やかに暗殺されたのだ、という根も葉もない話が王都じゅうを飛び交う事となり、やがて王宮から正式にこの件が公布されるに至ったのだった。


 夜のうちに眠るように亡くなったこと。噂にあるような拷問や毒殺があった事実は認められず、その流言を口伝した者たちの妄想であること、等など――。


 その公布の中に、葬儀の日取りについて言及が無かった事がまた物議を醸した。


 反逆の嫌疑をかけられていたとは言え王姉には違いない。本来なら王都をあげて街中で喪に服すような大掛かりなものになりそうなのに、そういった発表が何もなかったのだ。


 確かに、仮に疑われていたそのままに国王の地位を脅かそうとしていたのであれば、それを悼むのは憚られるという論調にも一理ある。だがその容疑を濡れ衣だと信じる者たちにしてみれば、そのような説明ではとうてい納得は出来なかった。


「国王陛下とて、おのが兄から無法に王位を簒奪したではないか。姫殿下はそのような野心を持つ方とも思えぬし、仮に野心があったとして、それを非難しうるお立場なのか」


 先の兄弟間の跡目争いはあくまで両者を推す貴族や領主たちの対立がもたらしたものだ。農民たちは蜂起したが、それはそのいくさ自体が農民たちの暮らしを圧迫したからで、先のオライオス王の頃からの、元々の王国の統治に不満があったからではない。蜂起した農民たちにしてみればまだ、自分たちを弾圧した側ではない為政者を彼らで推したという意識はあったろうが、戦禍をまぬかれた王都の民草ともなればその意識はより希薄と言えた。戦後の復興期には善き王として尽くしてくれたとは思うが、今になって振り返ってみればやはり、彼ら民衆が自分たちで強く押し立てた王というわけではなかった。


 その王権が民衆を守るのではなく、民衆を敵とみなし矛を突きつけるようになった今、そのように民草の不満が噴出しつつあったのが王都の現状であった。


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