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第4章 第5話 鳴鐘(その1)

 リアンの結婚にも暗い影を落とす事となったユーライカの投獄だが、彼女を告発したのは他でもない、弟である国王クラヴィス陛下その人だという。


 父王亡きあと、周囲の者たちに担ぎ上げられる形で、兄アルヴィンを追い落として王位についた。望まれてついた王座とはいえ、兄から簒奪したという罪悪感は二十年経っても拭い去る事が出来ず、時を経るごとに周囲への猜疑の心は大きくなっていくのだった。


 内戦ののち、アルヴィン王子はいずこかへ消息をくらましたきり行方知れずのままだった。一時期は残党と思しき者たちの動きも見られたが、それも鳴りを潜めて久しい。かつて兄王子に加担した王都の有力貴族らは、一部は王都開城の折にいくさの責任を問われるのを恐れて王都を去っていったが、逆らう者を処刑していては国の立て直しもままならぬからと、そのほとんどは要職を追放される、あるいは財貨を没収されるに留まっており、そんな彼らがいつか結託して現王の王権に逆らうのでは、という不安もまた根強くあったのだ。そのような懸案がなければ、そもそも兄アルヴィン王子の許嫁だった現王妃カタリナとの婚姻も無かったかも知れない。


 一方で、独身を貫き貧民救済につとめるなど政への関与も大きい王姉ユーライカは民衆の支持も厚い。自身の王座もまた誰かに簒奪されるのでは、という不安に日々怯えるクラヴィス王が、そんな姉を無情にも投獄してしまったのを皮切りに、その非情さに異を唱える者たちもまたまるで見せしめのように同じ反逆の罪科で次々と投獄されてしまうのだった。もはや若き日のような賢き王ではない、と人々が悟ったころには、だれも反対の声を上げる事が出来くなってしまっていた。


 投獄されたユーライカの成り行きを、人々は息を詰めて見守るより他になかった。何より反逆罪での告発となれば、言いがかりであれ何であれ、まったく何の証左もないようでは罪状が成立しない。当人の証言を得ようにも、濡れ衣で逮捕されたユーライカにはその罪状を素直に認める理由が何もない。


 となれば、よもや王姉殿下ともあろうお人に、無理矢理に虚偽の自白を強要するような事になるのであろうか。クラヴィス国王はそこまでの事をおのが姉に強いるであろうか――。


 人々がそのように憂慮する中、次に王都にもたらされたのは渦中の王姉ユーライカが、獄中にあって病に倒れた、という報だった。


 事の成り行きを、リアンは夫となったメルセルとともに息をひそめて見守るより他に無かった。離宮を離れたリアンにはアルマルク商会での新しい生活が待っていたはずだが、その商会の一番の大口客は、何と言ってもユーライカ王姉殿下その人であり、その離宮であったからだ。


 もちろん、豪奢なドレスを必要とする女性は王宮や貴族のサロンなどに他にいないわけではない。しかしその全てを寡占出来るほどアルマルク商会は大店ではなかった。他の官吏の制服、軍服のたぐいはそれぞれを得意とする大店が王都には軒を連ねており、女官の制服も、王宮は王宮で別のもっと大店が出入りしていて、アルマルク商会が今更付け入る隙も無かった。また政治家として王宮に出向く事も多々あったユーライカは、年頃の若い娘のように可愛らしく着飾ったり、貴族の奥方のように家勢を競うような豪奢さは求めず、代わりに男の政治家と立ち並んでも侮られる事の無いような、凛とした立ち振る舞いに重きを置いた。それに見合った装束を、という事でアルマルクの職人はサロンの流行にとらわれる事なく自由な発想でユーライカの要求に応えてきたが、一方で王宮のサロンの中心人物たるカタリナ王妃などは王道ともいえる分かりやすい華やかさ、豪奢さを好み、それはアルマルクの職人の得意とするところとはいささか方向性が異なっていた。


 そうでなくても、これまで懇意にしてもらったユーライカが罪人扱いとなる事は商会の評判にも響く話で、投獄以来の彼女の動向についてクロード以下商会の面々は本当に気が気ではなかったのだ。


 またリアンにせよメルセルにせよ、ユーライカ当人に大きく引き立ててもらっていた事は父であるクロードも重々承知しており、商売の事を脇においても姫殿下にはご無事であって欲しい、と単純に考えるのだった。


 無論、ユーライカの事を誰よりも案じていたのは他でもないリアンであった。結婚式で、彼女の事を母親のひとりとまで言い切ったのであるから、無理もない。


 とは言え、気落ちしている彼女を気遣ってメルセルの父母も商会の他の者たちも声もかけずそっと触れぬように置かれている有様だったので、店にいてもすぐにやる事があるわけでもない。仕方がないのでリアンは王都にあるハイネマンの私塾に日参し、そこで雑用をこなすなどして過ごしていたのだった。

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