第4章 第3話 結婚式(その2)
「それは、そうだが……クロード殿はその話をきいてどのように思われたのか。不審に思いはしなかったのですか」
「それはまあ、驚きはしました。……ですが、王都で生まれ育った私めにすれば、魔法使いクロモリの高名は当然聞き及んでおりますし、実際に姫殿下のお命を身を挺してお救いなされたという武勇も伝え聞いております。いささか奇妙には思いましたが、実際にリアン殿にお会いしても、訝しいところなど何もない可愛らしいお嬢さんですし、息子がこれと決めたのであれば老骨が要らぬ口を挟むものでもなかろうかと」
クロードはそのように滔々と語ったが、ギルダが傍らのメルセルにやんわりと問いかける。
「メルセル殿、父君のこの言葉は本心であろうか?」
「……正直に申せば、おかしな女に騙されるよりは、と半ば諦めたような形で結婚の許しをいただけました」
「まあ、そうであろうな」
ギルダがそのように頷くと、クロードは余計な事をいうな、とメルセルに苦言を呈した。
そんな彼らのやり取りを笑って見ていたリアンが、言う。
「私は別に母さんが何者であっても、何も不安に思った事も無ければ、それを恥ずかしいと思った事もない。……これは姫殿下に言われてあらためて気付いたことではあるのだけれど、だからこそメルセルにもお父さまにも、事実をありのままに伝えただけ。それだけの話よ」
「だが、人が聞いて驚かぬと思っているわけでもないのだろう」
「それは、まあ、そうだけど」
そういってリアンは笑ってごまかすのだった。
ともあれ、彼女の出自については今しがたの話の通りにメルセルとリアンの口から事前に伝えられ、ギルダが彼らの前に立った時点ですでに商会の親族関係者一同がすっかり承知している事実だった。中には内心薄気味悪く思っているものもいたかも知れないが、ギルダはまだしもリアンについてはやはりユーライカの元で離宮で女官として働いていた実績が大きくものを言った。何とはいっても、なかなか縁談が決まらずに思い悩んでいた所に、実質的にユーライカの仲立ちがあってまとまった話だと分かっていたので、クロードら親族にしてみればむげに断りづらい話ではあった。
これがウェルデハッテのような山村や農村部であれば、ギルダがかつての戦場の魔女と知れば農民たちは誰しもが震え上がったものだが、戦火を免れた王都に住む者からはまた違った見方があったのだろう。ここで久方ぶりに挙がったクロモリにしても王都では高名な魔法使いとして庶民にも名が知られていたし、そもそもギルダやリアンの氏素性が知れぬと言っても、そもそもが商人というものからして、いかに大店を構え贅をこらした暮らしを送っていても結局は庶出の有象無象に過ぎないという事なのだった。当の花嫁であるリアンが屈託のない笑顔を振りまけば、こうやってギルダを取り囲むに至っても、恐れや怯えよりもやはりその場の一同にしてみれば好奇心の方が勝っているようだった。
あらためて見やれば、ウェルデハッテから出てきてすぐに離宮勤めとなったリアンの側はさほど知人も多くはない。出席者もごく限られていて、今日のために村から出てきたギルダとアンナマリアのほかは、ハイネマン医師とその私塾の関係者が参列しているくらいで、それに護衛として随伴している騎士オーレンを加えればそれで全員だった。一方のアルマルク家の方はメルセルの両親であるクロード夫妻の他、まだ健勝たる祖父母、メルセルから見て叔父にあたるクロードの兄弟らとそれぞれの家族、メルセルの従兄弟たちの中にはすでに所帯を持ったり他家に嫁いだりした者もいる。さらには祖父の兄弟の血縁者もいたし、祖母方、母方の親類も式の手伝いにとおもに女手が多く駆け付けてくれていた。これら親族以外にもアルマルク商会の奉公人たちもまたおもに手伝いのために列席していた。王国軍に志願して父親と大喧嘩したというメルセルの弟だけが残念ながら欠席だったが、ともかく親族関係者一同、大勢の老若男女がその場には寄り集まっていたのだった。
そのような親族の態度をあらためて見渡して、クロード・アルマルクは咳ばらいをして口上を述べる。
「我がアルマルク商会は長らく離宮に出入させていただいておりますが、決して大店として手広い商いを手掛けているわけではありませんでして、せっかくの結婚式もこのように慎ましやかなもので、母君には大変申し訳なく思います」




