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第4章 第2話 求婚(その4)

 つづら折りの街道の難所をひたすら登っていった先の山間にあるウェルデハッテだったが、ロシェ・グラウルに率いられた農民兵の軍勢が峻嶮な山道を何日もかけて往来していた頃から比べれば、その後の復興事業の中で、主街道から外れるとはいえ相応に整備は進んでいた。ギルダにしてみれば馬に乗っての旅も久しぶりで、念のためあまり急がぬ旅程ではあったが、それでも村を出て二日目には主街道に合流し、そこからさらに三日目の昼には王都の壮齢な威容が遠くに見えてきたのだった。


 城門をくぐるにあたっては騎士オーレンの随伴もあり、とくに不審ありとして咎められるような事も何もなかった。あらかじめハイネマン医師宛に立ち寄る旨を文を送り伝えてあったので、一行は私塾にほど近い医師の邸宅に身を寄せた。


 思えばハイネマンとも久方ぶりの再会だった。医師自身はウェルデハッテを引き払ってのちも幾度か診療院の様子を見に来ることもあったが、それもいつが最後だったかすぐには思い出せないくらいには久しく会っていなかった。


「ハイネマン医師、随分とご無沙汰している。健勝であったか。……リアンは?」


「結婚式の準備があって、アルマルク商会の方に出向いている。夜までには戻ってくるとは思うが」


 そのように挨拶の言葉を交わすのを横目に、騎士オーレンは改めて口上を述べるのだった。


「ギルダ殿には改めて離宮への出仕の委細をお伝えする使いの者がやってくると思います。それまではこちらに滞在する旨、私からもシャナン様にご報告申し上げておきますので、お待ちいただくようお願いいたします」


 騎士オーレンはそのように言い残すと、到着の報告のため一人離宮へと向かっていった。


 道中の護衛役としてはそこまででお役御免であろうと思われたが、何故かそれから程なくして騎士オーレンはハイネマンの邸宅に引き返してきたのだった。


「騎士殿、いかがした? 忘れ物か?」


「いいえ、そういうわけでは」


「使者が来るといったが、騎士殿がその使者か?」


「そうではなくて、ですね……実は、娘さんの結婚式まではこのままギルダ殿の身辺警護を続けるようにと言われまして」


 そのように説明したオーレンだったが、なぜか困惑を隠し切れないのだった。


「何か、あったのか」


「何かあったというか。姫殿下御みずから、私めに強く念押しをされまして。あなたの身辺をお守りするに当たって、たとえ私自身が国法に背く事になろうとも、そもそもの騎士の誓いに従いご婦人の身柄と名誉を必ずお守りしろ、と……姫殿下はあなたを何から守れとおっしゃっているのか、どうにもぴんと来なくって」


 そのように困惑顔の騎士を前に、アンナマリアがギルダに耳打ちするように呟いた。


「姫殿下は、どうやら騎士様に法を破れと教唆しているようね」


「そのようだな」


「……??」


 二人が訳知り顔で頷いてみせるが、オーレンにはいったい二人が何を言っているのかが釈然としない。見れば傍らのハイネマンも意味を把握しているのかいないのか、納得顔で無言で頷くのだった。


 一人だけうろたえるオーレンに、ギルダが事もなげに言い放った。


「私は、かつての内戦の折の脱走兵だからな」


「ええっ?」


「それを理由に今の今まで王都に戻るのを拒んできたのよね、この人は」


「まあ、今更罪人として追訴される事はないと思うが」


 アンナマリアとギルダのそのようなやり取りに、オーレンはあからさまに困惑する。現クラヴィス王即位のさいに兄王子との間で跡目を争う熾烈ないくさになった、という事はもちろんオーレンも知っていたが、それでも小さかった少年期の事でありそこから二十年が経過している。今更内戦がどうの、という話が出てくるとは彼も予想していなかった。


「はあ……」


「もし仮に何かあった場合に、この人が娘の結婚式への参列をつつがなく終えるまで、その身柄を官憲に取り押さえられる事のないように、間に入って彼女を守れと、あなたは厳命されているのよ」


 責任重大よ、とアンナマリアが言う。


 そこまで説明されて、ようやく騎士オーレンは自分が何を命じられたのかを知ったのだった。


 知ったところで、それがどこまで本気の話なのか、それともユーライカ流の悪い冗談だったのか、判断しかねてただただ困惑するより他に無かった。


「それでは、私はどうすればよいのでしょう」


「姫殿下のご命令だ。そなたも我らと一緒に、結婚式に参列することだ」


「……そうか、娘さんが結婚されるんですよね」


 オーレンは何をいまさら、という分かり切ったことをあらためて呟くと、間の抜けた表情で、ギルダに告げたのだった。


「それは、おめでとうございます」


 どういたしまして、とギルダに代わってアンナマリアがふざけた調子で会釈を返すのだった。





(次話につづく)

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