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第4章 第2話 求婚(その2)

 その場の話の流れもあったとはいえ、さすがにユーライカにまでそのように言われればメルセルにも思うところはあったのだろう。そのように周囲からそそのかした格好ではあるが、彼はある日いよいよリアンに求婚を申し出たのだった。


 事の成り行きに、今度は求婚された側のリアンが大いに慌てる番だった。どう返事してよいかどうか考えあぐね、ユーライカが政務が一段落して自室に一人下がったのを見計らって、声がかりも無いのに自分からユーライカの元を相談に訪れたのだった。無論女官である彼女の立場で許される事では本来無かったが、人生の一大事であるからそのような事を言っている場合では無かった。


「お前はどうしたいのだ?」


「それはメルセルはいい人だと思いますけど……私が結婚相手であの人、それで大丈夫なのかしら?」


「リアンよ、お前は自分の出自を気にかけているのか。……いや、もっとはっきりと言えば、そなたの母のことを」


「……ええ、それもあります」


「つかぬ事を聞くが、メルセルはそなたの母の正体を知っているのか?」


「そうなんです……姫殿下の衛士だったとまでは話してあるんですけど……」


 そのようにもじもじとふさぎ込んでしまったリアンを見て、ユーライカはふと思う。


「リアンよ、仮にそなたが……メルセルで無かったとしてもいずれ誰かこれぞという伴侶を見つける事もあろう。その時に、その相手にギルダの正体を打ち明けぬわけにはいかぬであろう?」


「それは……そうでしょうね」


「ギルダは私の大事な友だ。そのギルダが人造人間だからどうだとそしるものがあれば、私はギルダの名誉を守るためにいかようにも手を尽くす覚悟はあるつもりだ。だが娘のお前に、おのが母を恥じる思いが欠片でもあるとしたら、それは私が非難する筋合いではないな。何故生んでくれたと、自分の親に恨みごとを言うくらいのことは、子であれば許されようからな」


「姫殿下は何がおっしゃりたいのですか?」


「メルセルはお前の母の秘密を託すに相応しい男か?」


「それは……」


「メルセルばかりがどうだとは言わぬ。だがそなたに相応しき伴侶となる相手は、おそらくはその秘密を分かちあうに相応しい者であろうと私は思う」


 ユーライカも思いつくままにつらつらと喋ってみた末に自身たどり着いたその結論こそが、正鵠を得ているものと一人納得して頷いた。リアンもまた、彼女の言葉には何か思うところがあったようだった。


「秘密を、分かち合う相手」


「そうだ。それこそが、そなたの夫に相応しい男、ということだ」


 わが意を得たり、とユーライカは得意げにそう言い切ったのであった。


 


      *     *     *


 


 王都での様子を時折文にしたためてウェルデハッテに送っていたリアンだが、ある日届けられた手紙に、そのメルセルとの縁談の件がさらりと触れられていて、それを読んだアンナマリアが途端に色めき立ったのだった。その一方で、ギルダはと言えば文面の該当箇所を何度読み返しても、今一つぴんと来ていない様子だった。


「このメルセルという男は、いったい何者なのだ?」


 あらためて、そんな風に問いかける。無論、文を書いたリアンはこの場にはおらず、その質問にはっきりと答えられるものは村には誰もいなかったのだが。


「離宮に出入りしている商家の方ですって」


「それは分かっている。リアンからの手紙に過去何度か記述があったのを覚えている」


「離宮や王宮と取引のある商い人という事であれば、身元は間違いないでしょう。田舎住まいの私たちが気を揉むような、うろんな相手ではないと思うから、安心していいと思うけど」


「そういうものか」


「リアンは良い相手をみつけたようね。……あまりうれしくない?」


「どうだろうか」


 今更人造人間のギルダが大げさに声をあげて喜びを表現する事などないのはアンナマリアにも分かっていたから、意外な反応だとは思わなかったが、それにしても彼女が思っていた以上にギルダは困惑しているようだった。


「まさか娘を王都にやっておいて、こういう展開を予想してなかったとは言わないわよね?」


「いや、正直この成り行きは思ってもみなかった」


「……じゃ、いったい何のために?」


 アンナマリアの口から、至極率直な問いがこぼれ出た。


 彼女は彼女でこれまでずっと独り身を貫いているから、女が自身でその身一つを立てる難しさはそれなりに知っているつもりだった。仮にリアンが王都へ出るのを嫌がって村に残る事を選んでいたとしても、いつまでもギルダやアンナマリアが面倒を見るわけにもいかず、何かで自身の生計を立てる必要があっただろう。さもなくば村の中で誰かしら嫁ぎ先を見つけるか、だ。ギルダが彼女を王都へやると聞いたとき、ギルダもまた人並みにその点を懸念していたのだとばかり思っていたのだが、どうやらそうではないと知って拍子抜けしたのだった。

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