第4章 第1話 出会い(その2)
そのリアンの現在の仕事は、当初シャナン・ラナンから申し渡されていたように被服室に配属となっていた。
日々の洗いもののみならず、衣服やシーツなど綻びがあれば修繕が必要だし、破損や汚損がひどければ代替も必要である。初日に彼女の身体に合わせた制服がすぐ支給されたように予備として置かれているものもあり、そう言った細々とした補充については月に何度か出入りの商家の者が王宮にやってきて、商いをしていくのだった。
アルマルク商会は、そのような糸や布地、服飾の全般を扱う商家であった。
ユーライカのような王族に限らず、高貴な貴人であれば普段着にせよ公的な場で着る豪奢なドレスにせよ、それを仕立てる専門の職人が王都にはそれこそ何人もいた。布生地にせよ糸にせよ、そういった職人が自身の目利きで付き合いのある商人から取り寄せるか、そういった商家の側で逆に腕利きの職人を雇い抱えているかのいずれかである。アルマルク商会はどちらかというと後者のような商家で、練達の仕立て人を何人も抱えてユーライカの装束の数々を離宮に納める傍ら、併せて離宮詰めの勤め人の制服など、下々の職人に縫製させたものを離宮からの要望に沿って納めており、そういった物品のやり取りもまた、離宮の女官たちの仕事であった。
納入された衣服や細々とした日用品の、数量や仕上がりを確認するのに時折リアンも駆り出されていたが、その日に限って先輩の女官が忙しくて手が回らないとの事で、一人で対応するように言いつけられてしまったのである。
「ええっ? でも、私……」
「このたびの発注はそれほどの数ではなかったはずから、あなた一人で大丈夫でしょう。委細は向こうの商い人が心得ているから、あなたは数だけ数えられればそれで構わないから」
そのように言われて、一人で商い人の前に立たされることとなったリアンであった。
アルマルク商会からやってきたのは、時折出入りしていて顔は見知った若い青年であった。この青年も普段はもう少し年かさの商い人に伴われて来ていたと思うが、一人で来るのは初めて見かけた。
「申し訳ございません。色々立て込んでおりまして、今日は僕一人でやってきました」
そのように丁寧に頭を下げる若者に、リアンもうろたえながら挨拶を返す。
「こちらこそ、人手が回らなくて今日は私一人なんです」
相手の若者の方もリアンには見覚えがあったのだろう。それとなく顔を見知った者同士、愛想笑いを交わしあうのだった。
「私はリアンと申します。あなたは?」
「僕は、メルセル。メルセル・アルマルクと申します」
その名乗りに、リアンは極めて率直に驚いた顔を見せてしまった。たどたどしい態度からてっきり見習いの奉公人かと思っていたが、アルマルク商会のアルマルク氏というならただの奉公人ではない。思わず居住まいをただしたリアンだが、それを見て相手の青年の方が弁明するのだった。
「お察しの通り、ぼくはアルマルク家の者ですが、商いの方は今年から見習いに入ったばかりで右も左も分からぬ若輩者です。離宮の女官の方にそこまでかしこまっていただくようなものではないので、どうかお気を楽にしていただいて構いませんので」
「いえいえ、私こそまだお勤めに入ったばかりの未熟者でして、そんな風に丁寧なご挨拶をいただくような立場ではないのです」
そういって恐縮するリアンだったが、相手は丁重な態度を崩さないのだった。
「そうは申しましても、離宮勤めの女官の皆様はいずれもひとかどの名家の子女ぞろいと聞き及びます。一介の商い人の身で、おいそれと気安い口を利くのも本来は憚られますので」
「はあ。……私もここに入るときは同じような事を言われましたけど、でも私もそんなたいそうな生まれではないんですよ。たまたま、母がユーライカ姫殿下に覚えがあった縁で働き口を都合付けていただけで、本来はこのようなところに置いていただける事の無いような田舎育ちなんですよ」
そこまでのお互いのやり取りを振り返って、ついにメルセルの方が我慢出来ずに笑い出したのだった。




