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第4章 第1話 出会い(その1)

 そもそも振り返ってみれば、ロシェに敗れたギルダが救命されたこと、命拾いしてのちに人を助ける仕事に就いたこと、そこで生まれたリアンがこのような利発な娘に育ったこと、そのすべてはウェルデハッテのような寒村にたまたま診療院のような施設があり、ひいてはそれを開いたハイネマンに先見の明があったのだ、と言えなくも無かったかもしれない。


 だが……ハイネマン本人にそのことを問いただせば、ただただ謙遜の声が返ってくるばかりだった。


「たまたま無人で放逐されていたあの僧院の建物があったから、それだけでございますよ。南で戦火を避けた農民たちが北の山地へと多く流れていた事もあり、どこかにはああいう救済の拠点が求められていた、ただそれだけの話でございます」


 ある日、私塾の件で定例の報告のため離宮を訪れたハイネマンは、気まぐれにユーライカ当人の元に通され、その席でそのようにしどろもどろに回答したのだった。


「まさか本日、姫殿下に直接お目通りいただけるとは思ってもおりませんでした」


「リアンは今のところ元気に働いておるようだ」


 そう切り出されて、なるほど、と声をかけられた理由を察したハイネマンであった。


 離宮に見習いとして職を得てからしばらくはハイネマンの邸宅から通いで出仕していたリアンだったが、程なくして離宮付きの宿舎の方に移るように、とシャナンから指示があり、それ以降はハイネマンも彼女が一体どうしているかと、様子を案じてはいたのだった。


「何か失礼でもないかと、気がかりではありました」


「色々失敗はしでかしているようだが、それもまあ勉強のうちであろう。……時にハイネマン、そなたに相談するような話ではないかも知れぬが、一つよいかな?」


「何でございましょう?」


「リアンを、このまま離宮で下働きさせているだけで本当によいのであろうか」


「と、申しますと」


「ダンスの一つも覚えさせて、どこかのサロンにでも顔を出させて、爵位のある結婚相手でも見つけてやらねばならぬのかと思案していてな」


 ユーライカが真面目くさった調子でそのような事を言い出したので、これは不遜ながらつい吹き出しそうになるハイネマンだった。


「いやいや、姫殿下……ギルダは別にそのような恐れ多い事を要求しているわけでは無いと私は考えますが」


「無論、ギルダがそのような厚かましい俗な事を自分から要望するような事は確かに無かろう。……だがこの私が身柄を預かるとひとたび約束をしたのだ。どこまでの事をしてやれば、その約束を果たした事になるのかと、気が気では無くてな」


「この離宮でお勤めがしっかり果たせるようなら、世間では立派な婦人という事になるのではないですかな。それでよいのではないですか」


「そのようなものか」


 離宮に限らず、王宮に仕える女官はいずれも身元が確かな名家の子女揃いではある。とはいえそもそも本当に裕福な家の者はそのように職を得る必要も本来はなく、家名ばかりで実を伴わぬようではいずれどこか有望な嫁ぎ先を得るのも難しい、という子女たちに向けて、体の良い花嫁学校のように機能してるという側面も宮廷の女官職にはあったのだ。


 無論、必ずしもギルダがそのような世の習いを知った上でユーライカを頼ったわけでもなければ、ユーライカ自身そのような世情をよく知っているわけでもないから、ハイネマンの言葉にも今一つ釈然としないのだったが。


「相手を探すと言っても、どのような肩書を与えてそのような場に出入りさせたものかが分からぬ。私の身の回りの世話をさせるとして常に帯同するのであれば、私自身がそのような社交の場に進んで出向く必要があろうが、今更そのような席に誰も招待などしてくれなくてな……」


「であれば、姫殿下の御立場でそのように気弱になられずとも、必要とあれば殿下ご自身で離宮でそのような集まりごとをお声がけすればよいのではないですかな。委細について殿下が気を揉まずとも、シャナン様のように充分に心得のある有能な方々を姫殿下は何人も従えておいでのはず」


「だがあの女に頭を下げてそれを頼むのも癪に障る」


 ユーライカはそう言って、ハイネマンの前だというのに露骨に顔をしかめるのだった。そのように煙たがられている女官長シャナン・ラナンの気苦労に思い至って、ハイネマンはただただ苦笑いするばかりだった。


「まあ、リアンがそのように姫殿下に格別にお引き立ていただいているというのであれば、ギルダに代わって深くお礼申し上げなくてはならないでしょうが……さすがに結婚相手の件はギルダの希望とは違う気もします。リアンにはやはり、目の前の仕事をきちんとこなせる才覚を身に着けてもらいたいと、私も考えます」


 そう言って、ハイネマンだけが一人勝手に納得したように頷いてみせたのだった。


 


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