第3章 第4話 謁見(その2)
その場でしばし待っていると、程なくしてユーライカ王姉殿下その人が、供を従えて颯爽とその部屋に現れたのだった。
そのような高貴な身分の人に対面すること自体がリアンには初めてであったので、あらかじめ教えてもらった貴人への礼もたどたどしい。隣のハイネマン医師をまねようにも、男女でしぐさが違うのだからあてにはならなかった。
それでもハイネマン医師は自身の学校の件で幾度となくユーライカには対面していたので、厳かな面持ちではあったが落ち着き払ったものだった。
ユーライカが二人を、席に着くように促す。座っていいのかとみていると、医師はその場に直立したままだった。姫のお付きの女官が咳ばらいを一つして、座ってよいと横柄に告げる。医師は簡単に会釈して椅子に浅く腰かけ、リアンにも隣に座るように促した。
そんな二人の所作をじっと無言で見ていたユーライカが、不満げに声をあげた。
「宮廷の作法とは実に面倒なものだ。この私が座ってよいと申しておるのに、誰も私の言う事など直接には聞いてくれないのだ」
「恐れ入りますが、本来であれば私もこの娘も、このような席にお招きいただける立場ではございませんゆえ、融通の利かぬこと何卒ご容赦いただきたい」
「何を言うか」
苦笑いするハイネマンに、ユーライカは詰め寄るように身を乗り出して、反駁した。
「何せギルダからの手紙となれば受け取らぬわけにはいかぬ。私の手に渡るより前にこの文を損なうものがあれば、その者にはどれだけ叱責を重ねても足りぬほどであっただろう。ハイネマンよ、そなたもよくこれを持ってきてくれた。そのことに千金の褒美を取らせたいくらいだ」
「ありがたいお言葉ですが、姫殿下にはすでに私塾に過大な援助をいただいておりますので」
「ときに、リアンとやら」
「……は、はい!」
「王族の姫と会うと聞いて、今のそなたは相応に緊張しているであろうな。……だが実を言えば、私もそうなのだ。そなたの母は何物にも代えがたい私の大事な友である。その娘に会えると知って、この時を本当に待ちかねた。そなたの母とはずいぶん会っていないが、元気にしているのだろうか」
「あ、はい……」
リアンはもじもじと返事を返すと、助けを求めるようにハイネマンを横目で見やった。そんな風に落ち着きのない彼女を、ユーライカは遠慮なしにしげしげと眺めまわすのだった。
「確かに。それとなく面影が似ているように見える」
「はい……?」
「娘が生まれたと聞いたときはさすがの私も大いに驚いたものだ。それがこのように立派に成長して、我がことのように喜ばしい。そなたは……そなたは、おのが母からこの私の事を聞いたことはあるか?」
「えっと……はい」
「ギルダからは私のことをどのように訊いていたのか?」
「この離宮で、姫殿下をお守りする任に当たっていたと」
「……それだけか?」
「ええと……正直、母が姫殿下のことを話してくれたことはほんの数えるほどなのです。ですが母は、姫殿下のお声がけにこたえて王都に帰ることがついぞ果たせずじまいなのを、とても申し訳なく思っているようでした。だからあまり話してくれないのかも」
「そうか。……であれば、そなたも私に会いに王都へ行けと言われて、相応に困惑したであろうな」
「姫殿下、それどころかギルダは、殿下あての書状を私宛に寄越して、このリアンには私に書状を渡せとだけ申し付けて村から送り出したのですよ」
「それは何とも、ギルダらしい」
ハイネマンの言葉に、ユーライカはそう言って貴婦人らしからぬ豪快な笑いをこぼした。




