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第3章 第2話 出征(その5)

 このいくさに、何を思ったのか志願兵として加わると言い出したのが、フレデリクであった。


「うちの娘にな、父ちゃんの立派なところをみせてやりたいんだ」


 そのようなことを言って、手柄をたててくるぞと意気揚々と村を出立していった。


 王位を巡る争いでは王国は二つの陣営に分かれて熾烈ないくさとなったため、かり出された農民のみならず正規の王国軍にも少なからぬ損耗はあった。いくさの後に帰るあての無くなった農民兵の中には、そのまま王国軍に志願し兵士となった者も少なからずいたが、それとは別にこのたびの臨時の徴発に応じる形で、フレデリクは自ら進み出て戦地に赴くこととなったのだった。


 アンナマリアはどうにも心配でならなかった。ギルダに至っては終始冷ややかな態度で、志願するというフレデリクの言い分に否という以外の言葉をかけた事がなかった。


「俺達で新しい王様をたてて作り直した国だ。それをまた、俺たちの手で守るんだ。それの何が悪いってんだ?」


「その新しい王様をたてるいくさでお前はどんな武勲をあげたのだ。次また戦場に行ったところでどのような働きが出来るものか」


 せいぜいが馬の代わりに荷物でも担がされるのが関の山だ、とにべもなく言い放つものだから、それで逆にフレデリクがむきになってしまったということもあったかもしれない。後にして思えばギルダなりに彼を慰留したつもりだったのかも知れないが、まったくの逆効果だった。


 彼が村を出ていってから程なくして、王国軍が辺境の城塞を奪還し、騎馬の民を北方へと押し戻したという報が届けられた。いくさは王国軍の勝利に終わり、兵士たちは帰還を果たしたが、その中にフレデリクの姿はなかった。


 代わりにウェルデハッテのギルダ達の元を訪れたのは、事務方のくたびれた下士官だった。彼の口から淡々と、フレデリクが行軍中に命を落としたことが告げられた。


「戦死……なの?」


 アンナマリアが恐る恐る問う。下士官にしても報告書に書かれている以上の事を把握しているわけではなかっただろうが、説明によればフレデリクが死んだのは、国境地帯の城塞にたどり着くより以前の話だという。部隊の物資を運ぶ荷馬車が、山越えの難所に差し掛かったところで悪路に足を取られて身動きできなくなり、車輪をぬかるみから押し出そうと作業する中で、一人車輪に挟まれて運悪くも落命したというのだ。


「戦闘で命を失ったわけではありませんが、行軍中の落命であるわけですから、戦死という言い方をしてもあながち間違っているわけでもないかと」


 記録上は事故死、弔問の手続き上は戦死と同じ扱いである旨、下士官は淡々と説明したのだった。形ばかりのお悔やみの言葉と幾ばくかの見舞金を残し、次の訪問先へと急ぐべくそそくさと村を去っていった。


 そこまでの説明をアンナマリアの隣で終始無言で聞いていたギルダが、ぽつりと呟いた。


「礼拝堂の雨漏りの修繕費、どうやって捻出すべきかと、以前言っていたかと思う。……少し足りないが、それに当ててしまったらどうか」


「ギルダ……?」


「そういう使いみちの方がよかろう。あのような愚か者でも、最後にはそのような形で人の役に立てるというのであれば、それがよいのではないか」


 淡々としたギルダの物言いに、さすがのアンナマリアも、それはあんまりではないか、と声を上げそうになった。だがギルダは意に介した風でもなく、娘の手をとり、その席を立ったのだった。


 アンナマリアは慌ててギルダの背を追った。彼女が後ろにいることに気づいているのかいないのか、戸口を出たギルダは、遠くの山並みを見つめながらぽつりとつぶやいた。


「馬鹿者だ……リアン、お前の父親は最後まで本当に馬鹿者だった」


 それは果たして傍らの幼い娘に語りかけた言葉だったのかどうか。その呟きがなんとも寂しそうに響いて、アンナマリアはかけるべき言葉を持たなかった。






(次話につづく)

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