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第3章 第2話 出征(その2)

 そこに至ってギルダも自分の身に何が起きたのかを理解したようだが、彼女の表情は複雑だった。


「理解に苦しむ。私は人造人間だぞ?」


 真顔でそういったギルダをまじまじと見ながら、アンナマリアが一人呟くように言う。


「まあ、器量良しだとフレデリクがいうのなら、そうなのかも知れないけど……」


 彼女がかつて魔女と呼ばれていた経緯を知っていれば、下世話な興味を持って近づこうなどというのは確かに恐れ知らずと言えたが、頬にうっすらと残る火傷のあとが無ければ……いや、それがあってもなお、端正な顔立ちは美人と形容して差し支えなかっただろう。なのでフレデリクがそんなギルダを女性として好ましく思い、平時にギルダが物好きにも求めに応じたのだというのであれば、これほど大騒ぎする事ではなかったのかも知れない。


 だが、ギルダが気にかけていたのは別の点にあった。


「そもそも人造の兵士としてつくられた私に、子を為す能力が備わっている道理が分からない。クロモリは何故そのように私をつくる必要があったのか」


「あなたを作った高名な魔法使いが一体何を考えていたのかは、私のような凡人にはわからないけど」


「第一、そのようにつくったつもりであったとして、試しもしないで大丈夫などと言えるものか」


 その言葉を聞いて、アンナマリアはそこで初めて、ギルダが何を懸念しているのかをそれとなく把握した。


「……試すとは言っても、そういう事はあらかじめ試しようがあるものでもないでしょう。人間にしてもそれは同じはずよ」


「人の女の腹から、人の赤子が出てくるのは、今までにそうであったと分かっているからだ。だが人造人間はそうではない。前例がないのだ。腹の中に何がいるのか、分かったものではないのだぞ?」


 ギルダの不安も最もと言えば最もではあった。彼女は人を模して造られているからこその人造人間であったが、見た目がそうであったとして、では本来生き物としては何者と言えたかは分からない。いざ生まれてくるのがどんな悪鬼であっても、それはたしかになんとも言えない話だった。


 だがアンナマリアは、その点についてはそこまで深くは憂慮してはいなかった。ギルダに手伝わせた事はなかったが、看護婦の彼女はこの村にやってきてからもお産に立ち会った事も何度かあったし、あまり愉快な話ではないがこれまで死産や産褥死への立ち合いも経験が皆無というわけではない。


 だから女の腹から何が出てきても大丈夫と、職業柄腹は括っているつもりではあった。よしんば人の赤子の体を成していなかったとしても、獣の赤ちゃんだって母親の腹から出てきたからといってすぐさま人に食らいつくと限ったわけではないだろう。


 ともあれ、そもそもの懐妊という話自体がハイネマンの見立て違いであればいいのに、と思わなくもなかったが、それから日数を経るにつれて膨らんでいくギルダのお腹を見れば、いよいよ現実のものと思うより他に無かった。


 どちらかといえば膨らみは目立たない方ではあっただろう。それでもギルダにしてみれば普通の母親のように生まれてくる命への期待よりも、あからさまに不安の方が強いように思われた。人造人間が子を為すというのも意外な話なら、彼女が露骨に不安を示すことがある、というのも意外な話であった。


 一方のフレデリクはといえば元より美人のギルダを女房に出来た、と周囲に誇らしげに吹聴するような具合で――必ずしもギルダが両者の婚姻に同意したわけでもなかったのだが――この件についてあまり深く責任を感じたりしているような素振りは一切なかった。それもまたアンナマリアには頭痛の種であったが、独り身の彼女が親になることの責任をくどくど説教したところで説得力があるとも思えない。とにかくどこかへ人夫に出して真面目に日銭を稼がせて、それを無駄に浪費しないように細々と苦言を浴びせるより他に手立てはなかった。


 やがて季節がめぐり、アンナマリアは産婆がギルダのお腹から子を取り出すその場に立ち会うことが出来た。人造人間というだけあってときには確かに人の心などないかのように見受けられるギルダでも、お産に臨んで不安に押し黙る様子は普通の人間と変わりはないように見えた。アンナマリア自身はここまでの人生で夫を持ち子を授かった経験はなかったが、これまで立ち会ってきたお産とそう変わりはないように思えた。

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