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ギルダ、あるいは百年の空白  作者: ASD(芦田直人)
第2章 ユーライカ
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第2章 第6話 ロシェ・グラウル(その4)

「まあ、お前さんになら話しても問題ないか……お前たち人造人間が戦場で魔女と呼ばれ恐れられていたのは俺も伝え聞いてはいたが、本物を目の当たりにしたのはお前さんが初めてだった。あのときお前が崖から足を踏み外していなかったら、おれの命は恐らくなかっただろうな。単に運がよかったという話だったのだが、どうもおれの知らないところで話に尾ひれがついて、おれが人造人間を一刀両断に切って捨てたという話にいつの間にかなっていてな」


「それは豪儀な話だ」


「そうなのだよ。……それで、そういう人造人間が戦場に送り出されたまま、それが全部で何体いてどこでどうしているのかの消息も詳細も分からずじまいで、これを何とかした方がよいのではないかという話になってな」


「それで、討伐を命じられたという次第か」


「命じられたというか、適任であろうと推挙する声がどこからか上がったのだ。……まあ、あのまま王都で将校になれなどと、面白くもない話を持ち掛けられたりもしていたからな。肝心のアルヴィン王子の行方も、ようとして知れぬままであるし、残党がいずこかに隠れ潜んでいるという噂も根強くあったので、それも含めておれの方で引き受ける事にしたのだ。どのみち、おれが軍の要職につくなどという話をあからさまに煙たがってる連中もいたし、そこで変に揉めたくもなかったからな」


 クラヴィス王子が内戦で勝利を収めた要因の一つは言うまでもなく蜂起した農民軍との和睦にあった。その農民軍を率いていたのが他の誰でもないロシェなのだから、下々の民草、とくに農民たちはロシェこそが国を救った英雄とみていたが、王都から見れば事情はいくらか変わってくる。彼はあくまでも反乱を起こした農民たちの頭目であり、そういう見方をすれば王国を荒らす無法者に過ぎない、という事になるのだった。


 各地の蜂起が農民軍を編成する中で収束していったこと、逆にアルヴィン王子派にとっては散発する農民蜂起の対応に戦力を割かざるを得なかった事など、クラヴィス王子軍としては利するところは大きかったが、仮に王都で最終的に武力衝突する事になっていた場合に農民軍がどの程度の戦力になっていたかは未知数であったし、そんな弟王子の側についた者たちの中にも農民どもの働きこそが勝利の要めであった、と考えるものはごく少数だった。包囲された側の王都に住む民衆たちから見ても、包囲に関わった軍勢は必ずしも解放軍ではなく、王都の安寧を脅かす存在と捉えていた者も少なくはなかったのだ。


 人々の中にどこかそういう意識があったから、王都が無血開城したのちにクラヴィス王子が入城したさいも、農民たちは王都へは一歩も足を踏み入れる事が適わなかった。いくさで負傷した者も王都には収容されずに城門で門前払いを食わされた形となり、それが勝利に貢献した農民たちをないがしろにしていると一部で不満がくすぶる遠因ともなった。そののちにロシェ・グラウルがあらためて王城に迎え入れられて、叙勲を受けたり王国軍の要職に就いたりというのは、働きに対する彼自身への論功行賞も去ることながら、その辺りの農民たちの不満が再度の蜂起につながらぬように、という配慮から来るものでもあった。別段恩賞が目当てではなく成り行きで頭目についていたロシェにしてみれば、自身があれこれと引き立てられたところでその立場はあくまでも名誉職と割り切っていたつもりだが、英雄として祭り上げられるなら祭り上げられるで、色々思惑を持った者たちがすり寄ってきたり逆に余計な恨みを買ったりするのに煩わされるのは致し方なかったのかも知れない。


 残党狩り、という話はそんなロシェを王都から厄介払いしたい勢力の思惑と、王都でのそのような煩わしい諸々から距離を置きたいロシェ自身の思惑が、都合よく一致しての事なのだった。


「お前たちを作ったのは魔法使いクロモリ。これは間違いないな? この魔法使いから近衛に何体引き渡されて、そのうちさらに何体が戦場送りになったのか、はっきりと教えてくれるものが少なくてな。これは人に頼んで委細を調べてもらったりしていた」


「……」


「最終的に完成にまで至った人造人間は全部で五体。一体は戦場で命を落とし、一体は処刑され、一体は獄中で自刃し、そして一体は――コッパーグロウはつい先日お前とおれとで討ち取ったばかりだ。そして、最後に残った一体が、お前という事になる」


「ジャスパー、グラファイト、スレート、それにコッパーグロウ……そして、私。生き残ったのは私一人ということか」


「そういうことになるな」


 ロシェはギルダがつぶやいた名前を一つずつ独り言のようにぼそぼそと繰り返して、何かを確認するように一人頷いた。今自身が語って聞かせた話と名前が一致するかどうかを確かめていたのだろう。

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