第2章 第6話 ロシェ・グラウル(その1)
結局、ギルダが目をさましたのは傷を負い倒れてから五日後の事だった。
起き上がった直後、状況がしばし飲み込めずにいる彼女の元に、様子を見に来たアンナマリアが顔を見せる。
「……あれから一体どうなった? 姫殿下は? コッパーグロウはどうした?」
「大変だったのよ? あなたがこの診療所に担ぎ込まれて、姫殿下も一緒にこの村に戻っていらして……じっさいにこの部屋に立って、あなたが目を覚ますまでどうあってもこの場を離れないと言い張って聞かなかったんだから。お付きの方々がどうにか説得されて、結局出立されていったけど」
「では、姫殿下は無事だったのだな? 何もお怪我などされてはいなかったか?」
「無事よ。でもあなたがここに担ぎ込まれたあと、姫殿下も少し体調を崩されて一日天幕でお休みになられていたわ。大事を取ってハイネマン先生も診察に呼ばれたけど、旅の疲れが出ただけだろう、って」
「そうか」
ギルダは短く頷いた。
「思い返せば私が王都にいた頃の姫殿下も、あまりお身体が頑強とは言えず、お疲れになってお休みになられる事が度々あった。……こたびのように長く馬車の旅などして、お身体は大丈夫なのかと元より心配ではあった」
「そう。……でも殿下を襲撃した曲者にまだ仲間がいたりする可能性もあるから、旅程を切り上げて、なるべく早めに王都にお戻りになるそうよ」
「それは、そうなるであろうな」
そういって頷いたギルダの元に、ハイネマン医師がやってきて、傷の経過を確認する。
かつて彼女が初めてこの診療院に運び込まれた折は、広範囲に火傷を負い右手と右足を失い、そのうち右足は今を持って再生せぬままになっている。その時と違うのは今回は直接的に深い刀傷を負った点だった。脇腹も胸部も人間であれば致命傷と言えたし、炎が内から噴き出してきたという右腕も、裂傷と火傷で複雑に負傷していた。失血、と言ってよいかどうか分からなかったが、大量に体液が流出したのも人造人間としての生命活動には大きく支障をきたしたであろう。その上で軽度とはいえやはり自らが放った炎で火傷も負って、ユーライカを安心させるために以前よりも軽傷だとハイネマンが告げたものの、その実態は今回もまた生死の境をさまようほどの重傷と言っても過言ではなかったのだった。
それでも、ハイネマンたちの懸命の処置もあって、その後の経過も順調で、彼女が目をさます頃にはそれだけの大きな怪我も、すっかり傷跡が塞がってうっすらとした痕として残るばかりだった。もう数日もすれば、怪我があったかどうかもわからなくなるかもしれない。
その驚異的な回復を成し遂げるために必要だ、とでもいうように彼女は傷の処置後も泥のように眠り続けた。ユーライカが呼んでもアンナマリアが揺すってもまるで目覚めようとしなかった彼女が、五日ののちについに目覚めた折、二人の客がその目覚めを辛抱強く待ち構えていたのであった。
そのうちの一人は、ユーライカのお付きの女官、シャナン・ラナンであった。
「ああ、シャナン殿」
「護衛の都合もあるのでいつまでもこの村にご滞在されるわけにはまいりませんとお伝えしたら……ギルダ、お前が目を覚ますまで代わりに待て、それまで王都に帰ってくるな、と言われました」
「それは難儀なお話」
「いずれにせよ姫殿下のご伝言を他の者に託すのも憚られます。……殿下は怪我を負ったお前のことをたいそう気にかけておられました。最初のうちは、お前が目覚めるまでてこでも動かぬと言い張ってきかなかったのですよ」
「それはアンナマリアからも聞いた。姫殿下はご無事だったのか? 体調を崩されたとも聞いた」
「お前の働きのおかげで、曲者が殿下に害をなす事なく、ご無事でおられます。村に戻ってから少しお加減を悪くしましたが、快復して今は王都に向かう途上にあります」
「そうか、それはよかった」




