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第1章 第1話 戦場を駆ける(その4)

 人造人間ゆえに、見た目の体格の細さに反してその一撃は剛腕だ。だがロシェもさすがに筋骨隆々たる偉丈夫である。渾身の一撃を真正面から受け止め、身じろぎもしない。


「なかなかやるな。今度はこちらからゆくぞ!」


 そういってロシェは返す刀でギルダに向かって打ち込んでくる。流麗な剣さばきとはいかず、いかにも田舎剣士らしい荒々しい殴打に近いものだったが、さすがにその腕力から繰り出される斬撃はギルダをも圧倒した。


 むろん、それに手をこまねいて何も出来ないギルダではなかった。数合を受け止めたのち、次なる一太刀をざっと受け流しつつ大きく一歩を踏み込んで、ロシェの懐へと一気に間合いを詰める。そこでもう一太刀を繰り出せば、ロシェは無残にも脇腹を掻っ捌かれて、そこで終わりのはずだった。


 だがごつごつとした岩の足場が、ギルダに充分な踏み込みを許さなかった。ロシェもまた、一歩後ずさった足が思いがけず岩のくぼみに取られる形になり、危うく後ろに転びそうになる。慌てて足を踏みしめるが、その動きが幸運にもギルダの一撃を寸でのところで回避させてくれたのだった。


 狙いを外したギルダは慌てることなく次の一撃を繰り出そうとするが、彼女にしてもさらに一歩を踏みしめる足場をしかと目視で確かめる必要があった。ロシェだけに注意を払って、そのままおのれが崖下に滑落していく愚は彼女としても避けたかった。


 見下ろせば、岩場のすぐ下は切り立った崖になっており、はるか眼下に谷川が白い波を立ててさらさらと流れているのが見えた。


「魔女め、お前の噂は色々と聞いているぞ。このロシェを確実に仕留めんとわざわざ寄越したのがお前だったというのはなかなかに光栄な話だが、果たしてこのように足元が悪い中、存分に力が振るえるかな?」


 ロシェはそのように口上を述べると、力任せに剣を振り上げ、再度重い斬撃を繰り出した。ギルダがそれを受け止めることは承知の上で、斬り結んだというよりは身体の軽いギルダを力任せに向こう側へ押しやろうという狙いがあったのだろう。


 実際、よろめいたギルダが数歩後ずさったのを見て、ロシェは今度はギルダに背を向け岩場をよじ登り、すぐ後ろの木立に駆け込んでいく。ギルダは印を組み、急ぎ火球を放つが、下生えの草を焼いて逆にロシェの姿を見失ってしまった。


 だがロシェも突然炎に巻かれてたまったものではなかったのだろう、すぐに森を出て岩場の方に戻ってきてしまった。それを目ざとく見つけて、今度はギルダの方から一気呵成に斬りかかっていく。


「ええい、面倒なやつだ」


 数合切り結び、間合いが空いたところでロシェはまた木立に飛び込んでいく。これが近衛騎士であれば苛立たしさのあまりに、正々堂々と戦え、などと叫んでいたかも知れない。


 だがたとえ田舎剣士と侮られようが、彼がそうやって死線をくぐり抜けてきた歴戦の猛者であるのには違いなかった。

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