第2章 第5話 命尽きるまで(その4)
「ご本心からの謝罪であればよいのですが」
冷ややかな皮肉めいた返答だった。そのようなささやかな抗議を許さないほど度量が狭いつもりもなかったが、もちろんそのように返されて面白いわけではない。
だがそこに不服を漏らすのをぐっとこらえ、ユーライカは先を続けた。
「この村にギルダがいるのを知って、私に隠していた。そのことが腹立たしいのは今でもそうだ。だが私も少し考え違いをしていた」
「考え違い、ですか……?」
「ギルダとて人造人間であるから、兄上の軍勢の残党とやらにそそのかされて、討てと命じられればこの私であっても討ちに来るのではないかという思いもあった」
「ギルダが、姫殿下に仇をなしにやってくる、と?」
「そのような形でもよいから、ギルダがもう一度私のところに来てくれて、相まみえる事がかなうのであれば、それでもかまわぬとさえ思っていた」
ユーライカのその発言は、シャナンをはっとさせた。視察にかこつけて帰参しないままの護衛役を気まぐれに捜し歩くというなら王家の姫のわがままに過ぎなかっただろうが、討たれてもよいとまでなれば話は変わってくる。
「私を守る盾となり、剣となる……私が無理やりに、戯れに誓わせたのだ。その結果がこれだ。そのような事を誓わせてしまったせいで、ギルダに無理を強いてしまった。そのギルダの忠誠を片時であれ疑うなどと、なんと私はおろかであったか」
「……」
「ギルダをあのような目にあわせたかったわけではないのだ……」
そこまで自分の思いを吐露したところで、ユーライカはそぞろ歩きの足をその場で止めてしまった。その後ろ姿に、シャナン・ラナンはかけるべき言葉がなかった。
「ギルダに報いたい。傷が癒えるのを待って、王都に連れて帰ってやりたい。逆賊として処罰などど誰がそのような愚かなことをいうのだ。私のために身を粉にして働いてくれた忠義者ではないか」
「恐れながら」
そこまでのユーライカの言葉はギルダに対する彼女の覚悟を語ったものだったが、それに対し、シャナン・ラナンは本当に申し訳なさそうに言い返すのだった。
「恐れ多くも王姉たるユーライカ殿下に対するこのたびの狼藉、その襲撃者が生き残っていた人造人間であったことは、同じ人造人間であるギルダの立場にもあまりいい影響をもたらさぬのではないでしょうか」
「……何が言いたい?」
「ロシェ・グラウルです。あの者が部隊を率いて駆け付けたのは、おそらくは偶然にはございません」
「何か知っているのか?」
「この私も、姫殿下が必要以上にギルダに肩入れなさるのはあまり好ましくはないと思いながら、そのギルダの所在について私なりに手を回して調べなかったわけではないのです。あのロシェ・グラウルのような者でも、いくさの功績を思えば王都にあればそれなりの要職に付けて報いる必要はある。それを面白く思わない者たちが、体のいい厄介払いとして魔法使いクロモリが造りし人造人間の行方を捜索するように命じた、という噂話にございました。つまりはロシェがここにやってきたのは、元々ギルダかコッパーグロウのいずれかを討伐するつもりで捜索していたのではないでしょうか」
「……その話、本人に聞いてみるとしよう」
ユーライカはそういうと踵を返し、村はずれにあらためて設営し直しされた天幕へと引き返すのだった。
王家の天幕の隣に、ロシェが率いてきた部隊の者たちも野営をしていた。逃げた数名の残党に関して、おもに村の周辺の捜索を続けていたのだった。
シャナンがそちらに赴き、部隊の者にロシェに会いたい旨を告げると、伝令がどこかへと駆けていって、それから程なくしてロシェ・グラウルが姿を見せたのだった。
「ご無沙汰しております。ロシェ・グラウルにございます。お呼びとの事で参上いたしました」
「ご苦労。そなたとこの地で相見えることが出来たのは僥倖であった。……訊くが、そなたはギルダを討伐に来たのか?」
単刀直入なそのユーライカの質問に、ロシェはいきなりにやりと笑った。
「何か、噂話がお耳に届いたようで」
「どうなのだ?」
「噂話と言えばもう一つ、私が人造人間を斬ったという話はご存じではありませんかね」
「それも小耳に挟んだことはある。いずれにせよそなたにまつわる噂であるから、このさい真偽を確かめたい」
ユーライカの言葉に、ふむ、と小さく頷いて、ロシェは事の次第について説明を始めた。




