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ギルダ、あるいは百年の空白  作者: ASD(芦田直人)
第2章 ユーライカ
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第2章 第5話 命尽きるまで(その1)

 人造人間コッパーグロウが討ち果たされたことで、ユーライカ一行を狙った曲者たちの残りはもはや目的の達成は困難とみて、思い思いに離散していった。


 そこまでの間に、彼らの大半は旅団の護衛の近衛騎士とギルダの働きによって討ち取られ、身柄を生きながらに捕らえられた者たちも忠義にも自刃し、残るごくわずかな者たちが道なき森へ向かって潰走していったのだった。地の利にうとい近衛では追跡も難しかったが、それよりもユーライカの身の安全を確保するために、護衛は馬車をいったんウェルデハッテに引き下げることとなった。


 同時に、負傷し意識を失ったギルダについても、その場に駆け付けたロシェの部隊によって村に搬送され、診療院に担ぎ込まれる事となった。


「ロシェ、あなたはギルダに世話を焼くのが本当にお好きなのね」


 久々に村を訪れたかと思えばこのたびもまた血だらけのギルダを伴っての来訪である。アンナマリアがそうこぼすのも無理はなかった。


 ギルダの驚異的な回復能力をかつて目の当たりにしたことのあるハイネマン達だったが、このたびのギルダの負傷も決して浅いとは言えなかった。とくに重篤なのが刀傷で、左の脇腹がざっくりと裂けているばかりか、胸にも別に深い刺し傷がある。


「人間でいうところの心臓の位置を狙ったようだが、これは外したようだな」


 もちろん、ギルダの身体の内部が人間と同じつくりかどうかまでハイネマンが把握していたわけではない。そこに急所があったとして、コッパーグロウが狙いを外したのか、ギルダ自身が辛うじて身をよじるなどして決定的な致命傷を回避したのかは分からないが――いずれにせよ胸部を貫通する刀傷が浅い傷と言えるはずがないし、わき腹の裂け目はもっと深い。その深刻な傷跡から、人間と同じように赤い血のような体液が大量に流れ出していたのだった。


 他に目を引くのはやはり右腕の傷で、表面が火傷のようにただれているのみならず、手首から甲にかけて縦に大きな裂傷があり、苛烈な炎が彼女の身体の内側から傷口を割って噴き出してきたものであることが傷を診たハイネマンやアンナマリアにも窺い知れた。何より至近距離でコッパーグロウを焼いたその炎が、腕といい足といい、それなりの範囲に新たにやけどの跡を残していた。


 それら以外にも、針葉樹の森の木々の間を懸命に飛び移り斜面を駆け抜けたせいで、全身が擦り傷だらけだった。比較的無事だった左手も、手のひらが掴んだ木の枝でずるずるに擦り剥けており、脚の不自由な彼女がここまで傷だらけになるまで奮闘出来た、その事実にハイネマンは大いに驚かされたのだった。


 そうやってギルダの処置に当たる中、ハイネマンたちが忙しく立ち回るさなかに不意に駆け込んできたのがユーライカであった。


 とっさの事に、その場にいる者たちも貴人への礼など取ってはいられない。見咎めたハイネマンが、一歩身を乗り出し毅然とした口調で告げる。


「姫殿下、恐れながらいかに人造人間たるギルダとて、傷の回復のためには早期に処置が必要であります。我らも貴人に対するご挨拶などしている余裕がありません。どうか、ここはお下がりくださいませ」


「そのような事はどうでもよい! はやくギルダを助けるのだ!」

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