第2章 第4話 襲撃(その3)
ギルダは聞き逃しはしなかった。その別働部隊を率いていたのは他でもない、コッパーグロウであった。
このさい潰しても仕方がないという勢いでギルダは馬を飛ばし、その一団に追いすがる。その馬が今にも力尽きようとしているのを知ると、ギルダは最後に一つ鞭をくれて敵兵と馬首を並べ、隣の馬の首をめがけて飛びかかる。
驚く馬上の兵士を勢いに任せ引きずり落とし、器用にその馬に走ったまままたがり直すと、あらためて敵に追いすがる。
曲者どもとは言え、彼らの馬は最初にギルダがここまで駆ってきたような荷運びの駄馬ではない。いずれも鍛えられた精悍な軍馬であり、手綱を振るい急かしに急かせばどうにかして先行するコッパーグロウに追いすがることが出来た。その馬首が並んだ瞬間に、ギルダはもう一度相手の馬に飛び乗り、そのままもつれるようにして両者ともに地面に転がり落ちるのだった。
「おのれシルヴァ! 何故我らの邪魔をするか!」
「コッパーグロウ、貴様こそ何故姫殿下を狙う!? 人造人間のお前が何故王家の高貴な御方に仇なそうとするのだ!?」
両者とも大慌てで身を起こし、急ぎ繰り出した互いの太刀筋が真っ向からぶつかり合う。数合切り結んだところで、ギルダの剣は根元からあっさりと折れてしまった。
ギルダの投げた問いにコッパーグロウはすぐには応えなかった。だがその表情にも太刀筋にも動揺は見られなかった。王太子アルヴィンの軍勢に兵士として配属され、弟王子クラヴィスを敵として戦うように命じられた彼女にとっては、現在の王宮で民草のために尽力するユーライカもまた、主君を脅かす敵として映っているのであろうか。
「王太子殿下の御為に働くのが私が受けた命令だ。殿下をないがしろにする簒奪者どもを王宮から追い出すまで、いくさは終わらぬ!」
コッパーグロウの一太刀を身をすくめ寸ででかわし、一歩身をひく。コッパーグロウはちらりとギルダの義足に目を落とすと、次の一閃を低い位置に繰り出した。ギルダはこれをかわす事が出来ずに、前に踏み出した義足が一刀のもとに切り落とされてしまう。
どうせ歩くための補助具にすぎないと、実用一点ばりのただの硬い樫の棒切れに踵を打ち付けた簡素な義足だ。多少の山歩きにも耐えるようにとつくりだけはやたら頑丈に作らせたものだったが、人造人間の一太刀の前にはただの木切れに過ぎなかった。先端を斜めにすっぱりと切り落とされて、ギルダは大きくバランスを崩す。
次の一閃がそんなギルダの腹部に真っ向から叩き込まれた。あわや胴を両断されたか、と思ったが、ギルダは折れた剣を投げ捨て、大急ぎで張り巡らせた魔導の障壁で、その一撃を真正面から受け止める。物理的な打撃を魔導の技でもって、軽くいなすでもなくまともに防いでみせたのは見事の一言だったが、それで形勢が好転するわけではなかった。
ギルダはとっさに地面を転がってコッパーグロウと間合いをとると、横たわって半身を起こした姿勢のまま、目の前に炎の幕をさっと張り巡らせた。その炎をかいくぐったコッパーグロウもまた、剣を握るのとは反対の手で印を組み、砂利の上をのたうち回るギルダに向かって雷撃を幾度も重ねて繰り出してくる。
「いつまでも虫けらのように這いずり回っているつもりか! 立ち上がって向かいかかってくるがいい!」
無論、そのままでは反撃も出来ない。印を組んだギルダの手からコッパーグロウの足元をめがけてさっと炎の紗幕が走ったかと思うと、コッパーグロウが反射的に後方に飛びのいた一瞬をついて、ギルダもまた両腕を地面について腕力だけで跳ね起き、義足ではない脚の方で樹木の幹を蹴って、太い枝の上にひらりと飛び上がったのだった。




