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ギルダ、あるいは百年の空白  作者: ASD(芦田直人)
第2章 ユーライカ
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第2章 第1話 コッパーグロウ(その5)

「ギルダに警護を命じた誰かは、彼女が宮廷で壁の花ぐらいになればよい、ぐらいにしか考えてなかったかも知れないがね。当時は内乱のさなかにあって王都は半ば封鎖されていたから、例えば国外使節との交流だの貴人同士のサロンだの、警護が求められる局面もさほど多くはなかったかも知れないが、何も失礼がなく警護の任をつつがなく務められたというのであれば、ギルダにしてみればそういった機微を身に着けるための良い機会であっただろうとは思う。それに、王国が置かれていた情勢を思えば、二人の王子が敵味方に別れて争っていたのだから、事と次第によっては昨日命を守っていたものを今日には殺せと命じられることにもなっていたかも知れん」


「どういうことです?」


「ユーライカ姫殿下は兄と弟、どちらにも与せずに中立を表明しておられたはず。だが仮にどちらを支持するのか明確に表明していたとして、いくさの勝敗がその表明とは反対の結果になっていれば、敗軍の一派として責を問われていたやも知れぬ。これが無血開城ではなく王都が戦場になっていて、ギルダがそのまま警護の任に当たっていたとしたら? 姫殿下を守って戦う分にはいいとして、昨日まで守っていた姫殿下の身柄を拘束したり、御身を害したりという命令が下されていたとしたら? 仮にそうなっていたら、ギルダはその命令に従っていられたかどうか」


「人造人間だもの。言われるがままに従っていたのではなくて?」


「もう一人の人造人間については、おそらくそのように判断するのかもしれないが……ギルダはもう少し、命令の妥当性を自分で判断するような能力というか、分別を、離宮での警護の任を経験して身に着けていたのではないかな」


「……そうかしら」


「実際、この件を私や君に相談すべきかどうか、ギルダは相当に迷ったはずだ。だから昨日の夕方すぐには来なかった。診療院の普段の仕事については私や君が監督者であるから、問題があればすぐに相談や報告があっただろう。だがこの件に関しては、必ずしも我々は彼女にとって指示系統の上位にいるわけではないということだ」


「では、どうして話す気になったの?」


「ユーライカ姫殿下を守る、という任務を遂行する上での、ある種の協力者という認知なのではないかな。彼女の脚はああであるし、話に出た人造人間が単なる諜者ではなく刺客でもあるという事になれば、一人では対処しきれないと踏んだのだろう」


そこまでの話を聞いて、アンナマリアが急に露骨に顔をしかめて、反論するのだった。


「先生。その話だと、命令の妥当性を自分で判断出来る彼女が、どうして言われるがままに戦場で沢山の人を殺したのか、説明がつかないんじゃありません? 先生はギルダが魔女だった事をもう忘れてしまってるんじゃないですか」


 めずらしく鋭い口調で反論するアンナマリアに、ハイネマン医師は鼻白んだ。


 彼女にしても、何もギルダに親しい誰かを殺されたわけではないはずだった。にしても、救命にあたり医師が人を生かすためにいくら治療をしても、結果として助からぬものを座して見送るのは現場の患者により近い看護婦の彼女の方だったかも知れない。いくさで幾多の人命が失われたこと、ギルダもまたそれに加担した者の一人であることを忘れてはいけないと、ここでアンナマリアは思うのだった。


 その点が、おそらくはアンナマリアとハイネマンの間で意見を異にするところではあった。


「……それは、むしろ我々が医療者として人命を軽んじる事を厭うからこそ、そのように思うのではないかな。水が豊かに湧き出る土地と枯れ井戸を巡って諍いを起こす土地では、水の貴重さに対する認識は自ずと異なってくる。彼女の魔女としての働きはあくまで近衛がそのように人造人間を運用していたという、命じた者の方針によるもので、その責を彼女自身に問うのは少々酷ではないかという気もするがね。むしろ人の命は大切なものだという見識を、まさにこの村での暮らしや診療院の働きの中で見につけてくれればと、私は期待するが」


「……だと、いいんですけど」


「いずれにせよ、彼女が姫殿下の御為に働こうと考えるのは殊勝というものではないかな」


「そうかしら……」


「心配かね?」


「まあ、何を考えているか分からないままに、王国軍だとか王族の方々にむやみに襲い掛かるようでは困りますけどね」


「うむ」


「……もしかして、ギルダが勝手に何かしでかしたら、私や先生が反逆罪で縛り首になったりします?」


 何気ないアンナマリアのその一言に、ハイネマンはぎょっとした表情になった。


「おいおい、そういう心配がなくてよかった、というのが今しがたの話ではなかったのかね。脅かさないでくれたまえ」


 そういって肩をすくめたハイネマンに、アンナマリアは呆れてたただ首を振るばかりだった。




(次話につづく)

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