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異世界転移は犯罪ですか?はい、犯罪です。

作者: 霧間愁

 男が自身の所属と名前を告げるとその場は騒然となった。当然の結果だよな、と男は思う。

「ご静粛に!静粛に願います」

 軍服の着崩れをなおし男が、荘厳な演台で大きな声を上げた。

 静止画の露光をあげようと、静止画用の幾つもの録画機が刹那の閃光を点灯させる。

 顔には、大きな傷跡が印象的だ。男は少し瞼を閉じたが、真っ直ぐに正面に立ち自分の前にいる人間たちを見据えた。

 ゆっくり見渡してから、手元のメモに視線を落とす。

「昨今、十代の失踪事件が相次ぎ、社会問題になっています。この件の原因は、国会やメディア等で取り沙汰され、多くの方が知るところでしょう。多くの少年少女たちは、自身の意志とは関係なく異世界に転移させられ、戦闘行為を強制されています」

 男は正面に顔をあげた。

「これは我が国、国民への侵略侵害行為であり、我が国はこの侵略行為に対抗し、そして、我が国民である彼らを救出するために、軍事的行動を起こします」

 侵略という言葉に幾つかの通信社と新聞社がざわつく。

「安心してください、異世界へ侵攻作戦を行う、という事ではありません。我々は先取防衛を主としていますが、侵略行為は行いません。野蛮な国ではないのですから。この場は、少数精鋭の組織を正式に発足させたという報告です。具体的な活動は、後ほど発表させていただきます。唐突に異世界、転移と言われても、突拍子もないと思いますので、一度先に説明させていただきます」

 記者たちのうろんな視線の中、男は目配せをした。

 しわだらけの白衣を纏った女が、大きめのモニターと共に現れて、一礼した。

「防衛省特殊装備課第七研究室室長の田中です。まずはじめに、幾つかの学問上の問題に矛盾点が現れたのが始まりでした。気がついたのは、カラウィーイーンとMITの……」

 軍服の男が咳払いをすると、田中は大げさなため息をついて説明を省くことを了承する。すかさずアシスタントが田中にアタッシュケースを手渡す。

「まぁ、見て貰った方が早いでしょう……第七研究室が開発に成功した次元移送装置です。まぁその試作機ですね」

 アタッシュケースを開くと黒い板が一枚収まっている。田中が指で軽く触ると、黒い板に赤い幾何学模様が現れて、田中の姿を忽然と消した。

 軍服姿の男以外、その場にいた誰もが息を呑んだ。

「この世界に、数年前に特異点が現れたという事実があります」

 記者席の後方から田中の声が聞こえてくる。「あ、すいません、まぁ、推測というか推論なんですが……あ、通ります。通してくださーい。すいません」と、人と放送機材をかき分けながら田中が前方のモニター前に戻ってきた。

「この装置は一年前ほどに作られた試作機で、現在使われている運用機とは異なります。あー、えーっと特異点の話しに戻りますが、表現するなら、次元の特異点と言うべきなのでしょうが、まだ正式な共通名称がありませんので、ここでは特異点とだけ言います。この特異点は現れてから、時間を遡り大体1500から2000年前ほどの時間軸で“何か”を起こしました。特異点が何で、特異点が起こした“何か”については、多くは語れません、何故なら観測できないからです。後ほど述べますが、我々は世界間の移動……移送は出来ても時間軸の移動と観測は出来ないのです」

 白衣の女は大きく息を吸って、吐く。

「特異点はミッシングリンクですが、必ず存在していました。もしかすると今現在も存在しているかもしれません。仮説仮定の話ではないのです、でなければ先ほどお見せした装置は存在しえないのです。この装置は異世界といまこの世界の狭間を使い、移動することが出来たんです、皆さんの眼に映らない……、この世界の物に影響もしくは観測されない形で移動することが出来たのです。もしも、世界が一つだけ……この世界だけなら、狭間にすらいけないということは、イェール大学の……」

 咳払いが聞こえて、田中は少し眉をあげて吃驚したような顔を作った。

「まぁ、つまり、世界は多重であり、幾つもの平行世界が存在しているということが証明されたということです。お互い重なり合い、世界を膨張させ萎縮させ、それは、あー(ちらりと、軍服の方を確認して)、確かなことです。推論としては、特異点が起こした“何か”の結果は、世界を枝分かれさせたということになります。大きく枝分けて5つから7つ、八つと言われています。観測されるまで世界数は確定できません。付け加えるなら、今も生まれている可能性もあります。観測を続ける我々は、その中の四つの観測と移動を可能としました。それぞれの世界名を、ウ・ヨジイレ・クヤクア、エツレオ、トーチヰセ・イナ、鷽無予示為背(ウソムヨジイセ)、と呼称しています。この四つを観測出来た理由は、数百回の転移の痕跡があり、そこから逆探知の要領で……まぁ方法は全く違いますが、……転移移送の方法を確立しました」

 田中は一区切りをつける。軍服の男は、頃合いとして話を引き継ぐ。

「この四つの異世界に対して、……その中に存在している幾つかの国家に対して、現在、防衛省と国家公安委員会等の各省庁出向と協力を得て、防衛省異世界対策室準備室防衛班、という名称で活動中です。が、おそらくのちに変更されて、内閣情報調査室付異世界対策防衛班になる予定です。正式な発表は内閣府からあると思います。この場では、防衛省異世界対策室準備室防衛班、通称DD、その活動内容や今後の展望を話させていただきます」

 話の段取りを間違えたのか軍服の男が、「これまでの実績を交えてお話ししていきます」と前置く。

「この組織は、まずは異世界への転移をさせないために、幾つかの次元干渉観測装置を設置して、事前に阻止、防衛につとめています。この装置は非常に大型で、秘匿性があるため、この場で公開は出来ません。実績の数字だけ申し上げますと、都内だけですが、100件以上の転移を未然に防ぎました。代表的なものとしては、我々の存在を世間に認知していただいた事件、2ヶ月ほど前です、都立第4高等学校3年4組転移を未遂に終わらせました。他には、トラック事故を起こさせる“先兵()”の排除、……失礼、先兵とは現場で使用される名称ですね、vanguardの略称です。あとは、専門的になりますが、転移儀式の解析によって得られた情報を使って、転移儀式の術式阻害による妨害と術者への過負荷。転移で出来た世界の穴の修復。これらを全国規模で行い、転移による被害を防いでいきます」

 「これらも先ほど見ていただいた装置の機能の延長線上と拡張で対応し、それらを扱える人材の育成も進んでいます」と軍服男。

「次に、次元移送装置を使用し、強制転移させられた少年少女たちの救出。これは、世界に点在する転移痕を追い、異世界の特定と分析を行って、所属する隊員を3人体制で派遣しています。実績としては、年間で2000人弱になります。連れ帰った保護対象者の多くはPTSDや急性ストレス障害になる場合が多く、そちらのケアや対応も医療機関の協力を得て行っています」

 男は一通りの説明を終えて、息を吐いた。

「この国は、侵略されつつあります、異世界に。いえ、もう侵略されているのです。未来の有望な人材を拉致されているのですから。幾つ

かある異世界の中には、もしかしたら友好国も見つかるかもしれません。けれど現状は、隣にいる家族や友人を連れて行く侵略国です。想像してください、家族や友人が突然に消え去るのです。別れの挨拶もなしに、唐突にです。そして亡くなったのか、無事なのか、それすらも分からないのです」

 軍服の男は、ゆっくり拳を握る。

「残された家族、……行方不明になった人間を持つ家族がどうなるか、ご存知でしょうか?」

 崩壊の二文字を男は紡いだ。

「転移を望む人間にとっては、転移は好ましい状況なのかもしれませんが、現実に転移した人の中で望んだ形で転移した人間はそう多くありません」

 と、憤った様子の軍服男。悲しそうな眼差しは過去を見ていた。

 会場内は静かになっていく。

「少なくとも、我が国では、異世界転移は犯罪です」

 男がそう言いきる。

「いかなる世界、いかなる国家、いかなる異世界の行政機関の、どのような事情も状況も加味

しません。個人の、これまでの生活や人生を破綻させるその行為は、犯罪に他ならない。国際組織犯罪的な、それなのです」

 男には、顔の傷跡が蠢いたように感じる。男の顔が苦しそうに歪んだ。

「かつて私も、とある世界に召喚され戦術的戦闘行為に従事しました」

 静かだった会場が動揺する。

「人を殺め、知能レベルの違う生物を数多く殺めました。若く幼く、思考する……考える力を持ち合わせなかった私の愚かな行為で多くの人を、苦しめた。いまは、その贖罪を繰り返す日々です」

 カメラのシャッター音が連続して、男は眼を細めた。

「呼び出した彼らの言い分は、強制的かつ利己的で……蠱惑的です。英雄になれるぞ、と囁きかけてきます。精神汚染を促す状況や装置、手法があるのかもしれません。それらは、これからの研究課題になるでしょう」

 とりあえず、質疑応答を。と軍服男が発した言葉がきっかけで何人もの手が上がった。

 軍服の男は質問に答えていく。

「異世界があることはわかりましたが、話し合いで解決はありえませんか?」「ありえません、DD発足当時、交渉人の方向性も模索しましたが失敗しています」

「転移の目的は?」「敵対勢力への牽制、もしくは報復、そして侵略が大体です。他には婚姻関係を結ぶため、労働力の確保、技術向上等もあります」

「向こうから、こちらにやってくる可能性は?」「ないとは言い切れません。ただ、今現在のところ把握している異世界の文明レベルは、こちらよりも低いため、転移システムの一部分しか把握していないと思われます」

「昔貴方のことを、詐欺師呼ばわりした人たちに何かありますか?」「ありません」

「先の都立第4高等学校での対応は、現場判断として正しかったとお思いですか?」「現場に到着したとき40名中、二名が既に転移し終わった状況でした。向こうの転移技術は、まだまだ未完成で身体が消えかかっているような途中で、介入阻止してしまうと身体に多大な負荷がかかり欠損、もしくは死につながる恐れがありました。向こうの転移システムへの介入を確認、安全に切断する確保、手順としては正しかったと思います」

「その結果、五名の転移を救出に向かったわけですが、彼らの救出結果は公表されていませんが、それはどういうことですか?」「プライバシーの保護が優先されたのだと思います。救出は成功して、五名はこちらの世界に戻って、現在心身のケアのため入院しています」

「それは、身体の欠損があったのでしょうか?」「ありません」

「その転移システムは、軍事利用されることはありますか?」「ありません、とは私の口からは言えません。使ってほしくはありません」

「向こうの……幾つかの世界の中で、亡命を希望する人間がいた場合、政府としてはどうされるのでしょうか?」「亡命を希望される人物は既に存在します。少人数ですが。外務省と連携がまだとれていないので、こちらで保護……している状況です」

 時間が押し迫り、終了が宣言され軍服の男が礼をする。


 記者の一人が立ち去ろうとする男に投げかける。

「恨んでますか?」

 男はその質問に立ち止まった。

「恨むに決まっているでしょう」

 その顔は酷く歪んでいた。

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