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第9話 纏う、正義の鎧。

 「ライドが…来てる…!?」

 ビスタの遠隔透視の魔法が画面に映し出すのは、ここにいるはずがない彼の姿。


 メアリが禁呪を使ってまでここに来たのは、これ以上ライドを自分の事情に巻き込まないようにするためだ。しかし、彼はやって来た。どういう方法を使ったかは分からないが、とにかく、彼はこの建物の近くにまでやって来た。


 いや、()()()()()()()()()


 いくらライドが雑魚モンスターを一掃できるだけの力を持っていたとしても、ビスタの使役する強力な魔物に対抗できるほどではない。実際スノウ・ゴーレムへの蹴りは全くダメージが通っていなかった。


 それを、ビスタは知っている。

 確かに、メアリの強さは凄まじい。今のビスタ如きがかなう相手ではない。

 だが、何も正面から戦う必要はない。取るに足らないあの男…ライドを人質にし、多少痛めつけてやる。それだけでいい。それだけで、メアリはライドを助けてくれと懇願し、こちらの条件を飲まざるを得なくなるだろう。


 そうだ、これでいい。いや、これがいい。

 飽くまで自分がすべきことは、バーンズ家の一人娘の生け捕り。人質を取って言う事を聞かせる、これがベストだったのだ。ビスタはなぜこの考えに至らなかったのかと反省しつつ、そのプランを実行に移す。


 「残しておいて正解だったな、使役できる魔物をなぁァァ!!」

 ビスタは魔力をかき集め、【深闇門(アビスゲート)】を発動させた。


 ライドの映っている画面を埋め尽くしたのは、白銀の巨体―スノウ・ゴーレムだ。

 「こいつでじわじわと握り潰して、やろうかァァァァァッ!!!」


 よりにもよって、ライドが実際に歯が立たなかった魔物が彼の目の前に現れた。

 強大な力を前に、ライドは何もすることができないだろう。


 今から向かうのはもう無理だ。とても間に合わない。

 「ライドっ…逃げて!!」

 届かないと分かっていても、メアリは叫んでいた。


 「ざぁんねんだったなァ、バーンズ家のお嬢様ァ!クカックカカカカッ!!!」

 大きく拳を振りかぶるスノウ・ゴーレム。

 ライドにゆっくりと避けられない絶望が迫り、そして、





 ―――閃光。


 「クカカカッ……は??」

 ビスタの馬鹿笑いが止まる。


 『ったく…こんなんで足止めのつもりかよ?あんまり"俺"を舐めてくれるな』

 ()()()()()()()()()()スノウ・ゴーレム。ライドは、ただの一蹴りで勝負を決めたのだった。


 「…嘘」

 閃光の如き蹴り。"俺"。メアリは、一つの可能性に行き着いた。いや、それは確信と呼ぶべきものだった。

 メアリは多少騙されやすい性格だが、ここまで共通点があって分からないほど勘が鈍くはない。


 そして今、彼は施設の中へと飛び込んだ。


――――――――――――――――――――――――――――――


 「メアリ!…無事、みたいだな」

 ライドは安堵の息を吐く。…しかし、メアリの様子がおかしい。一言も発さずにこちらをじっと見つめている。

 そして。

 「ライド。ちょっといいかしら」


 「…?ああ」

 メアリは深く息を吸って、尋ねる。

 「あなたは…何者?」

 メアリは、直球で行った。


 「…どうした、急に。生い立ちでも知りたくなったのか?」

 その質問の真意に気づかないふりをし、はぐらかすライド。しかし。

 「…見たのよ。あなたが、閃光のような蹴りで、一撃で魔物を粉砕したところ」


 「!!」

 ライドは必死に考えを巡らす。もう少し誤魔化し続けられないか。なにか言い訳できないか。…だが。

 「…そもそも、この山に来られた時点でもうおかしいんだよな」

 よく考えてみれば、ライドは最初からばれることを覚悟の上でここに来たようなものだった。


 ため息を吐くと、改めてメアリを見据える。

 迷いのない目だ。

 もう逃げることはできないな…

 「"俺"は…結局のところ、怖がってただけなんだ。誰かに真実を明かすことから、逃げていた…平穏な暮らしが、なくなってしまいそうで」


 ライドは独白する。

 「今までの暮らしに満足してた。薬草を採って、町の人と触れ合って…ギルドは大概うざったいけど、それも含めて、生活の一部だった。…けど」


 メアリは真剣な顔でこちらを見つめていた。

 「それじゃあ、意味がない。例えどんなに強い力を持っていても、使わなきゃ誰一人として救えない。平穏な生活に、俺はだいぶ甘えすぎていたみたいだ」


 真実を明かす前に、ライドはメアリに尋ねる。

 「ここから先は、自己満足だ。英雄の名を借り、正義の味方を気取っている、ちっぽけな男の。…今ならまだ、見なかったことにできる」


 途端に、メアリは笑い出した。

 「ふふっ…ここまで全部聞いて、今更なかったことになんてできないわよ、普通」

 それに、とメアリは優しい眼差しでライドを見つめる。

 「ライドはもうとっくに、本物の英雄(ヒーロー)じゃない」


 その言葉にはっとする。

 ――誰かがお前のお陰で救われたって思ったなら、その瞬間、お前はその誰かにとっての英雄(ヒーロー)ってことなんだよ――

 遠い記憶が、ライドの意思を確固たるものにした。


 もう逃げられない?…違う、逃げる必要なんてなかった。最初から…英雄譚に憧れた頃から、今の今まで、ずっと…俺は、もう英雄(ヒーロー)だったんだ。


――――――――――――――――――――――――――――――


 突如として、奇声が響く。


 「…キサ、キサッ、貴様ァァァッ!!!なぜ、なぜあの、あのスノウ・ゴーレムを!!!」

 ライドは声の主へ目を向ける。

 「いいところで邪魔してくれるじゃないか。そのなぜを、これから解説する予定だったんだが」


 しかしビスタは答えを求めてなどいなかった。

 「時間は足りていない…が、自らの身を捧げれば…クケッ、クカカカ…」

 そう呟くと、床一面に禍々しい魔法陣が現れた。

 「やってやるぞォォォ!!この力さえあれば、貴様らなど、敵ではないッ!!!」

 ビスタは、魔法陣の闇の中に消えた。


 ――刹那、どす黒い負のエネルギーが渦巻き、何かが姿を現した。


 それは、この世の邪悪を凝縮したような気配を放ち、こちらを射殺さんばかりに睨みつけていた。

 魔物とも、人とも違う気配。それは、強いて言うなら、悪魔。



 『『我が名ハ、ジャドー。この世全てヲ憎み、妬み、そしテ破壊さんト欲す者』』



 大地を震わせるような声が、負の感情と共に溢れ出す。

 「時間、稼ぎ…奴は、この厄災を呼び出すために…」

 メアリの手は、小さく震えていた。


 「あいつは一体…」

 ライドはメアリの手を両手で包みつつ尋ねる。


 「あれは、負の感情の集合体。人が負の感情を抱く限り存在するから、存在自体を滅ぼすことはできない。…ただ、取り憑くことでしかこの世に干渉できないから、対処法はあるわ」

 落ち着いたのか、メアリがゆっくりと喋り出す。

 「でも今のアイツは半ば暴走状態。ビスタが身体もろとも差し出したから…とても今の私じゃ…」


 メアリの話を手で制し、ライドはジャドーと向き合う。

 「つまり、纏めるとこうだ。…俺"達"なら、勝てる」

 メアリは驚いたようにまばたきしたが、すぐにいたずらっぽく笑う。

 「ええ…でも、鎧、足りてないんじゃない?」


 ライドは振り返り苦笑した。

 「本当にバレてんだな…しゃーない、一丁決めるか!」


 次の瞬間、彼は異空間から奇妙なベルトを取り出した。


 腰に巻き付けボタンを押すと、ベルトから音声が流れる。

 『"Ride(ライド) on(オン)! …Ride(ライド) on(オン)!…"』

 ガシャッと音を立て、何かが挿入される。

 『" "Rise(ライズ)"! HOLD(ホゥルド) ON(オン)!!"』

 ハンドルを横に展開し、回す。1回、2回、3回。


 そして、ライドは高らかに叫ぶ。

 それは、負けるつもりはないという宣言。それは、必ず守るという意思表示。


 ―それは、憧れの英雄に近づくための一言。




 「――変身!!」


 瞬間、彼の体に赤く輝く線が走る。見る間に黒い布に包まれた彼は、更に上から鎧を纏う。

 顔は奇妙な仮面で覆われ、素顔は完全に隠れた。

 そしてどこからともなく真紅のマフラーが巻き付き、風もないのにバサリとはためいた。


 そこに立っていたのは、赤い複眼にすっと伸びた2本の触覚の付いた仮面、角ばった暗い緑の鎧に身を包み、幾多の敵を"跳ねるだけ"で葬った奇妙な男。


 「ライド…あなたは」

 メアリの呟きに、ライドは答える。

 『俺は…いや』

 振り返り、ポーズを決める。


 『俺が、奇面ライダー…ホッパーだ』

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