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第四章「赤緑の塔」その3

「大丈夫か?君はエドナだね?」


 立ち上がったそのレプティリアンの大きさは、俺とさほど変わりなかった。琥珀色のきめ細かい鱗と、サファイアの様に輝く大きく青い瞳。細くしなやかな手足と尻尾。顔立ちは、爬虫類というよりもどちらかと言えば鳥類に近い。


 オルトロが美しいと表現するのも頷ける。ただひとつ変わったところは、背中に大きな翼があること。それも鳥の様な羽ではなく、所謂ドラゴンの翼というやつだ。


「確かに私はエドナです。人間?しかも日本語……どうしてこんなところに、そもそも私は何故、塔の外に?」


「落ち着いてくれ、俺は大星 護。オルトロに頼まれて君を助けにきたんだ。代わりに彼は捕まってしまったが。でも安心してくれ、これから助けに行くから」


「オルトロが、私を?」


 エドナは納得がいかない様な表情をしている。


「馬鹿なことを!皆んなで話し合って決まったことだからと、あんなに言ったのに……」


 その言葉に、俺は少しカチンと来た。自分を助けにきてくれた者に言うセリフじゃない。


「エドナ。そんな言い方はないんじゃないか?彼は貴女を想って、遥々日本まで俺を探しに来たんだ。それもと、貴女は彼のことが嫌いなのか?」


 エドナは俯き、首を振る。


「いいえ、彼は優しく素敵な方です。助けようとしてくれたことは正直嬉しいです。でも、これは皆で話し合って決定したこと。今更、私達の我儘でやめるわけには行かないのです」


 彼女の目は、涙で潤んでいた。よっぽどレプティリアンの掟のようなものは厳しいのだろうか。しかし、奴らは邪神崇拝者だ。そんな奴らの言いなりになる必要なんてない。


「周りが勝手に決めたことだろう?そんなのに従う必要はないよ」


 エドナがこちらを見上げ、俺を睨む。


「貴方に何がわかるのですか!皆で苦悩しながら決めたことです!私1人の命で事足りるならと、私も覚悟を決めたのです!」


 エドナは急に怒り出す。何に怒っているんだ?この娘は自分から生贄になりたいと言っているのか?もう既にこの娘も狂信者の一員なのか?


 エドナは潤んだ大きな目で俺を睨み続ける。その目からは、悲しみと覚悟が伝わってきた。とても気が触れている者の目ではない。


「そもそも何の関係もない人間の貴方が、何故オルトロの頼みを聞いて、わざわざこんなところまで!このままでは、貴方達人間もただではすみませんよ!」


 俺の頭の中で、ある仮説が浮かぶ。いや、そんな筈は無い。オルトロの心はダンタリオンで……


「お主よ、これはもしや……」


 アスタロトも同じ考えのようだ。


「早く塔に戻らなければ!チャンスはもう今日の満月しか無いのです!邪神が顕現してしまいます!早く生贄を捧げて術式を解かないと!」


 嫌な予感が現実になってしまった!


「そんな馬鹿な!俺は君が邪神召喚の生贄にされると、オルトロから聞いてきたんだ!」


 エドナは驚きのあまり息を呑んだあと、落ち着いて話し始めた。


「そんな、彼がそのような嘘をついてまで私を……」


 いや、嘘な訳が無い。オルトロの心はダンタリオンで読んだ。しかし、俺にはエドナが嘘をついている様にはどうしても思えない。


「どうして、エドナは生贄に?」


「それは、私が古代種の血を引いた、魔力を宿すレプティリアンだからです」


 エドナは翼をばたつかせ、話を続ける。


「あの塔は、数ヶ月前に突然ここに現れて。調べたところ異世界から邪悪な何かを呼び寄せる術式かかけてあることがわかったのです。だから私達は塔の周りを城壁と5体の像で封印し、満月の夜に私の血を捧げて、術式を消滅させようとしていたのです」


「何?城壁の5体の像?」


 その瞬間、塔の方で大きな爆発音が鳴り響く。城壁に目をやると、黒い煙が5つ立ち昇っているのが見えた。


「あれは……」


 それを目にしたエドナは、塔の方へ走り始めた。俺もその後を慌てて追う。


「お主よ、あの娘の心も読んでおくか?」


「いや、どの道、答えはあの塔の中だ。行くしかない」


 俺達はエドナに続き、城壁に入り階段を登る。廊下に出たところで、エドナは止まっていた。


 それもその筈、その先にはレプティリアンが……いや、レプティリアンの形をした何かが何匹も立ち塞がっていた。


 例えるなら黒いホースが何本も絡み合って、レプティリアンのシルエットを形作っているのだ。そのホースは常にウネウネと蠢いている。この嫌悪感を抱かせる存在……間違いなく邪神だ。


「これは……やっぱりさっきの爆発で像が!」


 エドナは姿勢を低く奴等に突っ込み、先頭の脇腹を掴み壁に叩きつける。そのまま壁を突き抜けて黒い塊は、落下していった。

 そのままの勢いで、尻尾を薙ぎ払い、攻撃体制に入っていた2匹目も城外に吹き飛ばす。

 翼を広げ、腕を突き出し突進したかと思えば、残りの奴らも全員纏めて、壁を突き破りながら夜の暗闇に消えてしまった。


 あっという間の出来事で、俺は召喚札を取り出す暇なかった。


「足手まといには、ならないでくださいね?」


 そう言って走り出すエドナに、俺は必死でついていく。


 塔へ続く通路の前までやってきた。像のあった円形の部屋は壁が吹き飛んでおり、像は跡形もない。


「やはり、像は破壊されていましたか……」


 エドナはすぐに塔への通路を走り出す。早すぎて、着いていくだけで精一杯だ。


「お主、情けないぞ?」


 アスタロトの煽りに、反応する余裕も無い。


 塔に入ると、エドナは下に向かおうと階段を降り始めた。


「ちょっと待て!下に行ってどうするんだ?」


 エドナは立ち止まり、振り向く。


「今からでも祭壇で、自決します。それで今溢れている邪悪なものも消える筈」


「駄目だ!それは奴らも予想しているだろ!待ち伏せされているぞ!それに!」


「それに?」


「例え、邪神の顕現を防ぐためだとしても、死なせやしない。エドナは俺が死なせない!それが俺の役目で、そのためにここに来たのだから!」


 エドナは、俺の言葉に少し考える素振りを見せたが、やはり地下へ降りようとする。


「でも!ほかに方法はない!」


「ある!」


 自信満々の俺の言葉に、エドナは再び立ち止まる。


「だろ?アスタロト?」


「そうじゃ、さっきの様な雑魚ならともかく。邪神本体となれば、顕現に門となる依代が必要な筈じゃ。お主もわかってきたではないか」


「どうするんですか?」


「邪神の依代を探して破壊する」


 召喚札を右手に持つ。


「コール!ヴァサゴ!」


 左手の甲の三角陣に、赤いローブを着た銀髪の女性が浮かび上がる。


「私はソロモン72柱が一柱。地獄の大公 ヴァサゴ。私の権能は、隠されたり、失われたものの発見。自転車の鍵を無くしたときに便利よ」


 何とも緊張感の無い魔神だ。


「冗談を言ってる場合じゃないんだ!この近くにある邪神の依代を探してくれ!」


 ヴァサゴは目を閉じて唸る。


「うーん……この建物にあることは間違いないわ。でも正確な場所がいまいちピンと来ないわね。下の様な、上の様な……」


「ここから下にはあの祭壇しかないぞ。エドナ!あの祭壇に依代らしきものはあったか?」


「あの祭壇は、もともとこの塔にはなかったもの。邪神封印のため、我々が後から作ったものだから


「と言うことはもう上しかないな!上に登ろう!」


 俺たちか階段を上がろうとすると下から誰かが上がってきた。


「やぁ、エドナ!無事だったんだね。護も」


 それは、オルトロだった。

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