ダンジョン
「ふうー……無事着いたか……」
僕は、額に滴る汗を拭いながら【ダンジョン受付所】と思われる建物を見上げた。
「ここがダンジョン受付所?」
太陽の光が反射している柚花の瞳は一直線、目の前の建物に向いていた。
「たぶんな……」
こうやって固まっていても、何も始まらないので、僕たちは入口から建物の中に入っていくことにした。
建物の内装は、まるで西洋の酒場のような雰囲気で、カウンター奥の棚には色々な種類の酒が飾られていた。
ここの世界に来てからずっと思っていたことがある。
それは、僕達以外にも、この架空現実に閉じ込められている人がいるのかどうかということ。
店内を見る限り、確かに冒険者のような格好をした人達がいるが……。
果たして、そいつらはただのモブなのだろうか……。
それとも、この人たちも僕たちと同じように囚われているプレーヤーなのだろうか……。
少し、話しかけて見ることにしよう。
僕は、いかにも冒険者のようないかつい装備を身につけているおじさんに話しかけてみた。
「すみません……」
「おおっ!?なんだぁ?」
酒が入っているせいなのか、変に陽気なテンションのおじさんは僕に笑いかけてくる。
「あの、その……あなたもこの世界の中に閉じ込められているんですか……?」
「そりゃあそうだろうよ!じゃなかったら、こんな所にいねーよ!ガハハハハッ!」
おじさん冒険者は豪快に腕を組みながら自分で言ったことに自分で頷く。
そうか……。
やはり、この世界に閉じ込められているのは僕たちだけでは無いということか……。
「え……じゃあ、ここにいる全てのひとは閉じ込められている人達なんですか?」
「まぁ、一概には言えないもんだが、大体はそんなところだな」
「なるほど……ありがとうございます」
ということは、僕たちの他にもダンジョン攻略を目指している者たちが沢山いるということか……。
一概には言えないというところが、少し引っかかるが、とりあえずそこは置いておこう。
「慶心、なんであのおじさんに話しかけたの?」
柚花は不思議がって僕を見つめる。
「ちょっと知りたいことがあってね…」
「ふーん……あ、そういえばダンジョンの受付いかないの?」
「そうだな、行こう」
受付だと思われる場所は今からダンジョンを攻略しようと、意気込んでいる人達で溢れかえっていた。
「わぁーすごい人多いぃー」
この人たちも全員、この世界に囚われているということだろう。
そう考えると、これって相当な大事件ではないのだろうか……。
あの……なんだっけ……あぁあれだ、フリーダムテックス社という会社はいったい、何を考えているのだろうか。
こんなことが、世に知れ渡ったら大分やばいことになりそうだが……。
「ねぇ慶心!早く並ぼうよ」
「そうだな」
僕と柚花は長い列の最後尾に並んだ。
なんだか、今からアトラクションに乗るかのような気分だ。
そして、実際に受付をすることが出来たのはここから、15分後のことだった。
「はい、次の方〜」
「あ、はい」
僕は曖昧な返事をしながら、カウンターごしの役員の前に立った。
「ダンジョンのご予約でしょうか……?」
役員は僕たちにそう、聞いてくる。
「……はい」
「分かりました。では、ダンジョンに関する詳しい説明させていただきます」
「よろしくお願いします」
柚花と僕ははぺこりと頭を下げた。
「はい。まず、ダンジョンは50種類あります。そして、そのダンジョン50種類を完全制覇することが出来れば、帰ることが出来ます」
「50種類っ!?ですか!?」
「はい、50種類です」
どうやら、僕は勘違いをしていたようだ。
ダンジョンは1個だけで、それをクリアすることが出来たら帰ることができると思っていたのだが、まさかの50種類とは……。
「そして、そのダンジョンは各、街に一つだけあります。つまり、ダンジョンをクリアするためには50種類の街に移動しなければいけないということです」
「えっ!そうなの!?」
目を丸くしながら話を聞いている柚花は、カウンターに体を乗り出す。
柚花の前のめりになった体を、僕はゆっくりと戻した。
「はい、そして大事なのはこれからです。『街』というものはダンジョンをクリアしなければアンロックしません。例を挙げるのなら、ここは、【始まりの街】ですが、ここのダンジョンをクリアしなければ、次の【シーサイドタウン】に行けないということです」
「なるほど……だから次の街に行くことが出来なければ、次のダンジョンをすることも出来ないってことか……」
「はい、そういうことです」
なんとなく、この世界の制度は理解出来たような気がする。