幼なじみ
幼馴染
「ゆ……柚花、お前…みんなと一緒に行かなかったのか?」
僕が驚いた顔をしてそう言うと、柚花は首を大きく左右に振って、僕に微笑みかける。
「『慶心』を置いてくことは出来ないよ」
「柚花……」
慶心というのは、僕の名前だ。
殴られたあとなので、柚花の優しさが余計に心に沁みてしまう。
なんだか泣きたくなったが、出てくる涙を必死に堪えて、僕はあえて普通と同じように返事をした。
「気持ちは嬉しいけど……柚花はみんなの元に戻ったほうがいいと思うよ」
「え?なんで?」
マリアナ海溝にも引けを取らない程の、深い深呼吸をした後に、僕は一息に言った。
「なんせ、僕と一緒にいたら、確実に元の世界に帰れる可能性が低くなるからな」
その言葉を聞いた柚花は、1秒も持たないような、そんなスピードで即レスした。
「それでもいいから、私は慶心と一緒にいるよ」
「え……なんで?」
「だって、仮に帰れたとしても慶心が居ない世界なんて、楽しめるわけないもん」
その柚花の言葉を聞いた瞬間、僕の中の何かが弾けたような気がした。
曇天の空が一瞬にして、青空に変わって行くかのように、僕の心模様は一変したのだ。
「……そうなのか?」
「当たり前でしょ!私、慶心と何年一緒に歩んで来たと思ってるの」
「……そうか」
なんだか、殴られたことなんて、クラスメイトにハブられたことなんて、どうでも良くなってきた。
いくら、クラスメイトに嫌われて、避けられていたとしても、柚花がいるだけで何とかなりそうな気がしてきたのだ。
「よし……じゃあ2人で絶対に元の世界に戻ろう」
「うん!がんばろ」
僕と柚花は、互いに互いを鼓舞した後に、中世の街に響き渡るほどのハイタッチを交わした。
すると、唐突に僕と柚花のそれぞれの目の前に空間液晶が映し出された。
それは、本当に突然のことで僕は目を丸くした。
「うわっ!なにこれ」
目の前に、映し出されている空間液晶はいかにも、近未来を想起させるものだった。
近未来もなにも、ここは仮想現実だから、なんでもありだとは思うけれど……。
「なんだぁー?」
柚花は、目の前の空間液晶に軽いジャブを入れていた。
もしかして、これが柚花なりの威嚇態勢なのだろうか……。
聞くまでのことでは無いので、真相は謎に包まれたままだ。
「多分、これでステータスとか見れるんじゃないか?」
僕は興味津々を体現しているかのように、空間液晶を見つめた。
「そうなの?」
「多分ね……」
空間液晶を指でタップしてみると、突拍子な効果音と共に液晶の画面が変わった。
画面には案の定、ステータスが映し出されていた。
勇者名 【ノーネーム(未設定)】
LV. 【001】
所有スキル【なし】
称号 【なし】
装備 【なし】
まさに、RPGの始めたてのようなすっからかんのステータス画面。
実の所をいえば、少しだけ、この画面をみて心を躍らせてしまっていた。
まぁ、確かに小さい頃からずっとこのステータスは見てきたもんな……。
「やっぱり最初はこんな感じなのか……」
「私、こういうゲーム全くやった事ないからあんまり分からない」
柚花は未だに身構えていて、空間液晶に威嚇体勢を保ったままであった。
「柚花、空間液晶は噛み付いてきたりとかしないよ」
「……ほんとに?」
柚花は首を傾げ、髪を触りながら、キョトンとした顔をしている。
「あぁ、ほんとに」
「ならいいけど……」
柚花は肩をゆっくりとすくめて、警戒から由来した体のこわばりを解いていった。
「とりあえず、ダンジョンの場所を確認しないとな」
ダンジョンを攻略すれば、帰ることができるとは言っても、そもそものダンジョンが見当たらなければ、元も子もない。
果たして、どこにダンジョンがあるのだろうか……。
「なんか、地図とかないのかなぁ……」
すると、突如として空間液晶の画面はカラフルな地図へと移り変わった。
「おおっ、地図に変わった」
どうやら、この空間液晶には音声認識の機能が付いているようだ。
「わぁーすごい!地図って言ったら、ちゃんと地図が出てくるんだ」
僕の肩に痛いほどに寄りかかって来ている柚花は前のめりにながら、僕の画面を凝視していた。
「うーん……地図によれば、今ここは【始まりの街】の【中央公園】らしい。それで、ここから北に2キロくらい歩いたところに【ダンジョン受付所】があるみたいだな」
「なるほどぉ……。あんまり遠くはないんだね」
「まぁな」
ということで、僕たち2人はここから2キロ先の【ダンジョン受付所】に向かうことにした。
僕の拙い作品を4話まで読んでいただき、本当にありがとうございました!
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