仮想現実
「どういうことだよこれ!!」
先程、僕を殴りかけた来知は起き上がって中世テイストの街に大声を響かせていた。
それと連動するかのように、周りのクラスメイトたちもざわめき出した。
僕も一緒に騒ごうかと思ったが、ここはあえて一旦、心を落ち着かせることが必要だと考えた。
考えろ……。
こんな状況が起きてしまった理由として考えられる原因は……。
なにかの拍子によって、僕たちはここに飛ばされてしまったのは確実なのだが、その『何かの拍子』がなんなのか……全くもって分からない……。
自分の中だけでは出るはずもない問題を必死に考え込んでいると、僕たち、クラスメイトの元に、1人の女の子が歩いてきた。
明らかに他の人とは、何かが違うオーラをまとっているその女の子は、両手を合わせて大きな音を鳴らした。
大きな音と共にクラスメイトたちの視線はその女の子の方に集中した。
「ごほんっ……。みなさんこんにちは。私は【オーバーダンジョン】の運営役員の『ムイ』と申します」
彼女は丁寧な自己紹介をした後に軽くお辞儀をした。
「はぁ!?もしかして……お前が俺らをこんな変な所に連れてきたのか!!」
来知はいつもの喧嘩腰で彼女に歩み寄っていく。
ところが、来知はあと少しで彼女に届くというところで倒れこんでしまった。
倒れ込むというよりかは、地面に引きつけらたといった方がいいのだろうか……。
通常の倒れる勢いの2倍くらいのスピードで来知はレンガの地面に叩きつけられたのだ。
「ぐふっ!!」
「あら。ごめんなさい、言うの忘れてましたね。私の間合いの中に入ってしまうと重力がいつもの【3倍】になるんです」
「な…………なんだそれ……」
ダメージを食らったことによってしわがれた声で来知は地面を這いつくばりながら一応、反応を示す。
来知はただの自業自得だとして、それにしても、重力が3倍になるなんてこと有り得るのだろうか……。
彼女は、「仕切り直しまして」と先程の話の続きを始める。
「貴方たちは、今から勇者としてダンジョンを攻略していってもらいます。」
「……ダンジョン攻略?保育園のレクリエーションかなんかか?」
眼鏡をかけたクラスメイトの1人はふざけた口調でそう言った。
それに合わせてみんなは一斉にくすくすと笑い始める。
だが、僕は決して笑うことはなかった。
なぜなら、今のこの状況は到底笑えるような状況ではないからだ。
逆になんでみんなはそんな呑気に笑っていられるのかが不思議でたまらない。
「そもそも、ここはどこなんだよ!ちゃんと説明したらどうだ?」
クラスメイトの1人は少し怒りを混じらせながら、言う。
「ここは、フリーダムテックス社が世界で初めて完成させた、フルダイヴ型の仮想現実です」
「フリーダムテックス?あぁあれか、【メジロンウォーズ】を筆頭にした大人気のRPGを世に送り出しているゲーム制作会社のことか」
いかにもゲームが詳しそうなそのクラスメイトは、腕を組みながらそう答えた。
「そうです。その会社がついに、フルダイヴ型の仮想現実を作り出したんです。」
「仮想現実ってことは……ここは現実世界ではないということですか?」
三つ編みをしているクラスメイトはムイをまじまじと見つめながら、質問をした。
「そうですね……。ただし、この世界の中での死は現実世界でも、連動します」
「えっ!ということは……。」
「もしも、このダンジョンを攻略している中で死んでしまえば、現実世界でも死んでしまいます」
この物騒な発言に、みんなは思わず、騒ぎ出さずにはいられなかった。
「ど……どういうことだよ!!」
来知は、騒ぎに便乗してムイに叫び声をあげる。
「そもそも、なんで俺らをここに集めたんだよ!」
それは、僕もずっと思っていた。
僕たちをここに一瞬で集める能力を持っていたとして、なぜ、僕らをここに連れてきたのだろうか……。
「それは……社長からの命令ですのでなんとも言えません」
「おかしいだろ!こっちだって知る権利はあるだろうよ!」
いつもは滅茶苦茶な来知であるが、今回だけは頷いてしまった。
「だから、私も知らないのです。知らないことを聞かれても困るだけなのでやめてください」
来知は、まだ消化不良だったようで、口がモゴモゴとしているが、これ以上何を言っても進展はないと悟ったのか、来知は言い返すのをやめた。
徐々に事の重大さに気付いてしまったクラスメイトたちは、先程と比べても明らかに口数が少なっていた。
どんよりとした沈黙を、1人のクラスメイト、否、僕の幼馴染は破るようにムイに質問をした。
「それで、元の世界にどうやったら帰れるの?」
「フリーダムテックスが用意したダンジョンを全て攻略した暁には、帰ることは出来ます」
帰れるには、帰れるのか……。
《続く》
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