落胆の冒険少年の
「ちょっと、飲みもん買いに行くからお前、金くれよ」
「え……?」
珍しくクラスメイトから声をかけられたかと思ったら、こんなことだった。
「え……?じゃねーよ。金をよこせっていってんだよ」
僕から金をもぎ取ろうとしているクラスメイトは、僕の目の前にせまってくる。
金色の髪が僕の顔にかかるほどに近づいてきたクラスメイトの『来知』は瞬きもせずに僕にメンチを切ってくる。
「い…いや…あの」
断る言葉が喉でつかえて、出せないままでいる僕の周りにはいつの間にか、人だかりができていた。
「おっ、なになに〜。カツアゲしてんの?」
ここは教室なので、より多くの人の目にとまる。
しかし、この様子を見ている者のほとんどは、興味本位、つまり「娯楽」として僕を見て、楽しんでいるのだ。
たとえ、このことを快く思っていない人がいたとしても、決して誰もこの状況を注意しようとはしない。
なぜなら、注意した瞬間に巻き添えを食らってしまうかもしれないから。
あまりにも、メリットとデメリットが不釣り合いなのである。
「あ……あの…お金は……勘弁してください……」
僕は、全方向から向かってくる視線を、下を向いて逸らしながら丁寧に断った。
当然、この断りはこいつらの前で意味を成すことはなかった。
「は?お前の意見は聞いてねぇんだよ。俺が言ってんのは『金をよこせ』ただそんだけだ」
「そ……そんな…」
僕はいつから、こんなことになってしまったのだろうか……。
テストで赤点を取ったから……?
人前で話すことが苦手だから……?
否、違う。
多分、この今の状況に、理由なんてものはないのであろう。
『僕がそこに居たから』
ただそれだけ。
それくらい、今の状況は理不尽腐っていて、理解不能なものであるということだ。
「ほら、早くお金だしてよ〜」
来知の横に居る眼鏡をかけた男は、僕にやけに催促をしてくる。
「い……いやでも……」
「払う気がないんだったら、力ずくで奪いに行くだけだがな」
来知はボキボキと血管がうかびあがっている拳を鳴らす。
その音は言うまでもなく、暴力の宣戦布告を示していた。
「ま……待ってください!」
「待たねーよ!!」
来知が振りかぶった、岩のような拳は一直線、僕の顔へと向かっていった。
「……っ!」
人間の生存本能のままにぎゅっと目をつぶった僕は、純粋な恐怖のみに包まれた。
目をつぶってから、
0.1秒……。
0.2秒……。
0.3秒……。
0.4秒……。
0.5秒……。
そして、1秒が経過した。
それにしてもおかしい。
普通、この距離のパンチだったら、1秒もしないうちに着弾するはずなのだが、未だに来知のパンチは届いていない。
どういうことなのかと目を開けてみると、そこには驚愕の光景が広がっていた。
「え……ええっ!?」
目を開けると広がった光景は、来知の拳でも、教室でもなく、僕の記憶に全くもって刻まれていない、初めて見る光景であったのだ。
「なんだ……ここ……!?」
真っ先に僕の目に映ったのは、水を空高くまで飛ばしている大迫力の噴水。
その噴水を中央にするようにレンガタイルの地面が円状に広がっていた。
僕の周りには、倒れているクラスメイトがそこら中に散らばっている。
周りの様子を見る限り、少なくともここは【日本】ではないということが伺えた。
だとしたら、ここはどこなのだろうか……。
街並みは、中学生の時にやっていたRPGのゲームの風景に似ている。
どこか、中世を想起させるような―。
ただ、呆然としているだけでは話は進まないので
、倒れているクラスメイトたちを起こしてみることにした。
「おーい!起きてー!」
クラスメイトの身体を一生懸命揺らしていると、まばらではあるが、みんなは少しずつ、起き始めた。
「ん……!?なんだここ!?」
起き上がったクラスメイトたちは、みんな同じような顔を浮かべて驚いている。
なぜ、突然こんなことになってしまったのだろうか……。
多分、現代の科学技術では解明できない現象が今、まさにおこっているのだと思う。
普通に考えて、教室から急に中世の街へとテレポーテーションするなんて、ありえないことだ。
でも、現実では今、これに近しいことが確実に起こってしまっている。
兎にも角にも、一刻も早く状況を確認するのが、吉であろう。
もう一度周りを見渡してみるといつの間にか、クラスメイトの全員は目を覚ましていた。
ただ、動揺が抜けているクラスメイトは、ひとりとしていない。
もちろんだが、僕も未だに動揺を隠しきれていなかった。
果たして、僕たちはなんでこんなところにテレポートされたのだろうか……。
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