表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二択  作者: 牧村エイリ
7/24

ファイル7  宿命

医師…長谷川正流は、友人と再会した。



檻の中で。


もう1人の主人公、


もう1人のニ択者…


幾多流登場。


  




2人の男を隔てる机の真ん中に並んだ…二枚のカード。


それは、罪と罰。


噴火を描いたカードと地獄を描いたカード。


「へえ〜」


長谷川の前に座る男は、そのカードを懐かしそうに見た。


それから、軽く吹き出した。


「――失礼…プッ」


謝ったが、また軽く笑ってしまった。


そんな男を、長谷川はただじっと見つめていた。


真剣な長谷川の視線に気付き、男は肩をすくめて見せた。


「そんなに恐い顔するなよ。正流」


馴れ馴れしく話しかけてくる男の両手には、手錠がかかっていた。


長谷川は…ため息だけを発した。


「…」


しばし無言になってしまう。


普通なら、質問をしなければならないが、この男には、無意味だからだ。


なぜなら、今回の事件そのものには、意味がないからだ。



幾多は…、自分に会いに来ただけだからだ。




クスッ。


幾多は笑うと、机の上に手錠をかけられた両手をのせた。


「これじゃあ〜選びにくいよ」


苦笑し、にたっと口許を緩める幾多に、長谷川はやっと口を開こうとした。


その瞬間、唇の動きだけでそれを見抜いた幾多は、口をはさんだ。


「噴火は感情…罪を表し。地獄は罰を意味する」


幾多は長谷川の目を見つめ、微笑んだ。


「懐かしいなあ〜。君が、最初にニ択したときのカードだ」


「…」


長谷川は口を閉じ、ただ幾多の目を凝視した。


「だけど…」


幾多は、手錠のかかった手で二枚のカードを掴むと、長谷川から視線を外さずに言った。


「罪や罰…そんなカードなんては、無意味だ。僕なら、ナイフを一本用意する」


「それが、今回の真相か?」


長谷川は、幾多を睨んだ。


「恐い顔をするなって」


幾多は机の上に左肘を立てると、頬杖をついた。


「皺になるよ」


右手で、二枚のカードをひらひらさせた。


もう彼の手からは、手錠が消えていた。


長谷川は、手錠が外れたことに驚くことはない。


幾多は自首して来たのだ。


だとすれば、何か仕込んでいることは確かだったからだ。


「君のニ択は、まどろっこしいよ」


幾多はカードを置くと、立ち上がった。


「今、ナイフがあったら、説明して上げるんだけど〜ねえ」


そして、長谷川の横に立つと、顔を近づけ、ウィンクした。


長谷川は幾多に顔を向けると、睨んだ。


「おお〜こわっ!」


大袈裟に、飛び退いて身を反らす幾多。


「先生!どうしました」


突然、長谷川の後ろのドアが開き、2人の刑事が飛び込んで来た。


二十代の男と三十代の女。


2人は、自首してきた幾多をここまで連行した刑事であった。


男は、手錠が外れている幾多に気付き、


「貴様!どうやって、外した」


慌てて銃を抜いた。


幾多はにやりと笑い、長谷川に言った。


「いい例えが、来たよ!正流!今が、まさに罰だ!警察という国家権力が使うやつさ!」


嬉しそうに、話す幾多に、男は妙な悪寒を感じた。


だから、引き金に指をあて、


「いいから!座れ!」


意気込んで見せた。


「正流!そしてね」


いたずらっ子ぽい口調に、長谷川ははっした。


「や、やめろ!」


椅子から立ち上がり、男に向かって振り返った。



「え」


激しい銃声が轟き、狭い部屋に硝煙の臭いが漂った。


「い、幾多!」


長谷川は前を向き、幾多を睨み付けた。


「正流!これが、罪だ!」


幾多は両手を広げた。


男の刑事は…額から血を流し、そのまま、 床に倒れた。


「く!」


長谷川は、顔を逸らした。


男の刑事は、隣にいた女の刑事に撃たれていた。


「よくやったよ」


幾多は女に向かって、拍手した。


女は無表情で、幾多に向かって頭を下げた。


「わかったかな?正流」


幾多は拍手をしながら、後ろで起こった惨劇に、震える長谷川の横をすり抜けると、女に近づいた。


女は深々と、幾多に向かって頭を下げた。


幾多は、長谷川の震える背中に目を細めると、少しため息を吐いた。


「特別だよ。正流」


幾多は女に向かって、手を差し出した。


女はその手に、拳銃を差し出した。


シリンダーが回る音に、長谷川ははっとした。


慌てて振り向いた長谷川の目に、


女に銃口を向ける幾多の姿が映った。


「や、やめろ!」


長谷川の絶叫を無視して、幾多は女に笑いかけ、きいた。


「どうする?」


女は顔を上げ、潤んだ瞳で幾多を見つめ、


「…幾多様の…思うがままに」


ゆっくり目を閉じた。


「幾多!」


長谷川が、止めに走ろうとしたが、 それより速く、幾多は引き金を引いた。


「今が罰だ!そして…」


部屋に銃声が、こだました。


鮮血を撒き散らしながら、恍惚の表情で倒れる女。


幾多は無表情で、倒れた女を見下ろした後、


「今…罪になった」


長谷川に顔を向けると、にこっと笑いかけた。


「き、貴様!人の命を何と、思ってるだ!」


怒りで我を忘れた長谷川は、銃を持っている幾多に飛びかかろうとした。


「だから、君はぬるいんだよ」


幾多は、長谷川に銃口を向けなかった。


それよりも、つまらなさそうにため息をついた。


「幾多!」


しかし、長谷川は幾多に近づくことはできなかった。


撃たれた女は、最後の力を使って、長谷川の両足を掴んでいたからだ。


「な!」


長谷川は、その行動に驚いた。


バランスを崩し、尻餅をついた長谷川足に、血塗れの女が絡み付いた。


幾多はそんな2人を、見下ろしながら、


「君も、相手を支配し、選ばせるという方法を取っていながら…君のニ択は甘過ぎる」


冷ややかな視線を送った。


「罰を与える警官も、簡単に罪を背負える。そんな単純な心理で、真実は見いだせない」


幾多は大袈裟に、首を横に振った。


「貴様!」


長谷川は何とか動こうとするが、出血多量の女が気がかりで、邪険にどかせられない。


「特別に、教えてあげるよ」


幾多はゆっくりと、銃口を長谷川に向けた。


「罪も罰も!意識も無意識も、関係ない!人の真理は、生と死だけだ」


「幾多!」


「僕は、生と死しか…選ばさない。所詮、罪も罰も…人の感情も、すべて生ある中に存在するもの。僕には、分類する意味もない。ただ…生きるか、死ぬかだよ」


冷たく言い放つ幾多に、長谷川はキレた。


「生きるか死ぬか…人は、そんな単純ではない!」


「下らない…」


幾多は引き金に指をかけた。


「君の口から、そんな言葉…聞きたくなかったよ」


「幾多!」


長谷川は視線を幾多に向け、目を逸らすことはない。





「馬鹿らしい…」


幾多は、銃口を下ろした。


そして、長谷川に背を向けると、


「君がいつまで、そんな下らないことを言えるのか…楽しみにしてるよ」


歩き出した。


「幾多ああ!」


長谷川の絶叫に、幾多は足だけを止めた。


「残念だけど…殺してあげないよ」


幾多は、女に撃たれて死んでしまった男に目をやると、


「君は、死んでもいいと思ったからさ」


近づき、腰を下ろした。


そして、体をまさぐると、上着の内側に銃を発見した。


「最後の選択は、僕に決定権がある。それが…」


幾多は、男の銃を左手に持つと、


「僕のニ択だ」


また歩き出した。


「さて〜」


幾多は大きく欠伸をすると、


「帰るかな」


部屋を出た。



「幾多あああ!」


長谷川は足を掴んでいる女を振りほどいて、立ち上がろうした。


力を入れたが、簡単に立ち上がれた。


女は笑顔のまま…絶命していた。


「え?」


立ち上がった瞬間、


長谷川は動けなくなった。


その女の笑顔は、幾多の笑みよりも、長谷川には、理解できないものだったからだ。






幾多は逃げる途中、数人の警察官を撃ち、まんまと脱出に成功した。


撃つことに一瞬でも躊躇う人間が、幾多に勝てる訳がなかった。


彼の撃つ行為は、彼が与える死の選択でしかないからだ。








あれから、数年経ったが、彼は捕まってはいない。


指名手配はされているが、彼は堂々と生きている。


なぜならば、彼にとって、警察はもっと殺すべき存在らしいからだ。


彼は、警官をよく狙った。


自らの生け贄として。


時には、裁判官も。


それは、罰を与える者は、自分だけだと誇示するかのように。



そして、彼はなぜか…女にモテた。


今も、どこかの女のもとにいるのだろう。







「ふぅ…」


長谷川は用意したカードを見つめながら、


深く息を吐いた。


(それでも)


長谷川は歩き出した。


次の事件に向かって。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ