故に
「彼女は生きる為に、努力をしていた」
久沓は、建物を破壊する火柱を見つめながら、呟き睨み付けた。
「しかし、多くの人間は生きる為に努力をしているのか?」
久沓は、破壊する対象を病院に決めた。
「今の医療現場は、腐っている。治る見込み…良くなる見込みのない高齢者に金を使い、未来のある若者に道をつくらない」
久沓は、下らない政党のチラシを手に取り、
「選挙権のない。選挙にいかないだけで、彼らは摂取されなければならないのか?」
それを破り捨てると行動を起こした。
破壊するものを、老人施設や年寄りをターゲットにした病院に決めたのだ。
次々に爆破される病院。
マスコミは、久沓のテロ行為を非難した。
痴呆症の老人や寝た切りの高齢者を狙ったテロを、マスコミはこぞって批判した。
しかし…。
「やあ〜」
遠くから火柱を見つめる久沓の後ろに、幾多が姿を見せた。
久沓は振り返ると笑い、
「僕を否定しに来たのかい?」
無表情の幾多を見つめた。
「自分の家族をどうにかしてほしいというエゴと、どんな人でも自分の病院に来るなら救うという医療のエゴ。さらに、票を取りたい…権利のエゴ。それらこそが、自分勝手の巨悪とは思わないかい?」
「…」
幾多は答えない。
「人間が真にやるべきことは、これから生まれてくるものの未来をつくり、守ることだろ?未来なきものに、どうして金を使う?」
しゃべり続ける久沓に、幾多はただ息を吐くと、背を向けた。
「人は、潔く生きるべきだ」
久沓は、燃える施設を見つめながら、頷いた。
「…」
無言で去っていく幾多には、目を向けずに…。
「幾多様」
久沓に何も言わなかった幾多に、女は頭を下げながらも、眉を潜めた。
「彼は、あなたと違い…抵抗できない弱い存在を殺しています。その行為は、あなたにとって、悪ではないのですか?」
女の言葉に、幾多はフッと笑った。
「幾多様?」
「人間は…本能が狂っている。数が多くなれば、自ら海に飛び込みネズミよりも劣っている」
幾多は、空を見上げ、
「第二次世界対戦後…世界は人権を尊重してきた。しかし…生物としての本質を理解することができなくなっている」
幾多は自嘲気味に笑い、
「種の存続は、どれだけその種が続いていくかだ。それは、新しい命こそ尊重されるべきだ」
女の横を通り過ぎた。
「俺は…まだ甘いな。やつほど潔くはない」
「幾多様…」
「人間は勝手に、滅ぶかもしれないな。新しい命よりも、しがみつく命を重んじているならな」
そのまま、幾多はその場を去った。
「人間は自分勝手で、見識も狭い」
久沓は、思い出していた。
「彼女は、生きる資格を得る為に努力をしていた。人間に生きる権利はあっても、生きていく権利はない」
久沓は、彼女を思い…涙した。
「金と偽善…の為に命にしがみつく者達に制裁を!」
「幾多様?」
女の声に、幾多は足を止めた。
「なあ…知っているか?」
「はい?」
「この世界の食料は、すべての人間を食べさす量はない。なのに、この国は…福祉の名のもとに、死にゆく人々に垂れ流している」
幾多はせせら笑った。
「すべての人間の幸せを考えるならば!食料を確保するべきだ。国ではなく、地球単位でな」
幾多は、頭をかいた。
「でも、それはできないよ。人間だからな」
「すべての人間が生きれない世界で、綺麗事を語るな!」
久沓は、新たなる爆破を敢行した。
「この国は、選択したのさ。今生にしがみつく人間から、金を搾取することを。未来のことを考えずに」
幾多は、女に振り返った。
「こんな世界で、君は子供も生むのかい?生物の本質ではなく、自分の子供の未来を憂っても」
そして、新たに舞い上がった火柱に目を細めた。