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二択  作者: 牧村エイリ
13/24

ファイル13 悪の罠

この世に、正義はない。


あるのは、悪の罠だけ。

「君は、この世に…正義があると思うかい?」


幾多流は、笑いながらきいた。


「物語や…もしかしたら、君の中にはあるかもしれない。だけどね」


幾多は頬杖をつき、


「社会にはないのさ」


僕を見つめた。


「あるはずがないよ。あるのは、権力だけだ」






昨今増え続けている凶悪犯罪。


未解決事件が増え、検挙率が減っていく。


そんな状況を重く見た警察は、あることをし出す。


検挙率を上げる為、はたまた…警察のデータベースの資料を増やす為に、軽犯罪の一斉検挙である。


有名なのが、大阪の電動自転車の検挙である。


ある日、あまり大々的に人々に報せることなく、始まったこの検挙は、昨日まで普通に乗っていた人々を…今日から無免許と呼び、捕まえた。


自転車の違反も突然、厳しくなっている…。


知り合いがくれた自転車が、盗難車の場合…貰った者も罪に問われる。


指紋をとられ、写真を写される。


その時、警察はこう言う。


「本当は…控訴になるはずですが…大した罪でないので、今取った資料は…警察以外には、漏れない。前科もつかないと」


まあ....貰った自転車を確認しなかったのは、悪いが…それが拘束される理由になるのだろうか。


あまりにも行き過ぎだと思い、弁護士に相談したとしても、控訴されていない場合…裁判にかけることができない。 事件になっていない。警察で止まるからだ。


つまり、警察を訴えることができないのだ。





普通の日常を過ごしていた…河東は、ある日…警察に止められた。


ラッパーに憧れる彼の格好は…確かに、目立ってはいたが…。


普段は真面目に過ごしている河東は、週末だけは…Bボーイ系の格好をして、クラブに通うのが好きだった。


ノリノリで帰る彼が近道をしょうと、大きな公園に入った時、三人の警察に呼び止められたのだ。


体につけた貴金属が、警官の持つライトに照らされた。


「何をしてる?」


少し高圧的な警察の態度に、何もやましいことはない河東はムッとした。


だから、こう言った。


「ただ…帰ってるだけです」


その言葉が、一人の警察をいらつかせた。



「ちょっと鞄の中を見せてみろ」


「どうしてですか!」


その言葉が、反抗的に思ったのか…警官は反無理矢理、鞄の中を物色しだした。



「これは、何だ?」


そこにあったのは、ナイフの形をしたキーホルダーだった。


勿論、切れる訳がない。


なのに、警官は河東を銃刀法違反で捕まえた。


「切れる訳がないでしょ!」


河東の言い分が、通るはすがなかった。



「詳しくは、署で」


ここで、河東の罪は決まった。


もう逃げることはできない。


銃刀法違反となるのは、刃の長さ6センチを超えるものが対象となるが、それ以下でも軽犯罪となり....拘留できる。


警官の判断で。


河東の件は、それに当たるだろう。


警察署に連れていかれた河東は罪を認めない為、何時間も拘留された。


日が変わり...朝が近づいてきた時、気弱になってきた河東に別の警官が告げた。


「今なら...大した罪にならないよ」


写真と指紋を取ることにはなるけども。


「それで帰れるよ。後...誰か身元保証になる人がいたら」


警官がそう言った時、取調室に他の警官が顔を出した。


「この子の知り合いが来たようです」


「え!?」


河東は驚いた。勝手に、誰かに連絡したのだろうか。


大学生である河東の自家は、県外にあったので...親はすぐに来ることができなかった。


それに、わざわざ夜中に迎えに来てくれる友達に心当たりもなかった。


「じゃあ...写真と指紋を取ろうか」


河東は、別の部屋の連れていかれた。


そこは、パソコンの並ぶ…小さな部屋だった。


四人の男がいた。


まずは写真。


「お前がやってみろ」


ここの責任者に言われ、若い不慣れな男が、写真を取る。


失敗が多い。


前や斜めなど数カット撮り、今度は指紋。


画面に指を押し付けられ、回転させられ...くまなくとられる。


目の前の、ディスプレイに...自分の指紋が映り、データがとられていくのがわかる。


その時も、若い男がやり…何度も失敗。


落ち込んでいる河東には、拷問のような時間だった。


上手くいかないから、ついに他の男に変わった。


その時、河東の耳に信じられない言葉が飛び込んできた。


失敗した若い男が、河東を捕まえた警官に言っていたのだ。


「練習したいから、もっと捕まえて下さいよ」


背中越しに聞いたその言葉が、河東の落ち込んだ心を怒りに変えた。




すべてが終わり...最初の部屋に戻った河東は、見知らぬ男に会う。


「大変だったね」


席に着き、河東を見上げたのは...幾多だった。


「わざわざ..来てくれたんだぞ」


警官に促され、幾多の隣に座る河東。


後は、河東と身元保証人である幾多が、書類にサインをするだけだ。


幾多は、前に座る警官にきいた。


「この子が持っていたものを、見せてくれますか?」


「....これです」


警官は、ビニール袋に入ったキーホルダーを見せた。


「これですか」


幾多は手を伸ばさず、顔を近づけると、ニヤリと笑った。


「こんなもので....」


そして、立ち上がると、


「警察は、本物を知らないようですね」


幾多は腕を警官に向けた。


何のない手の袖口から飛び出してきた刃が、警官の額に突き刺さった。


「これが、危ないナイフですよ」


幾多は微笑みかけると、素早く机を回り、椅子から転げ落ち…悲鳴を上げる警官から拳銃を奪った。


「これからは、身元保証に来た者もチェックしたらいい!」


「どうした!」


防犯カメラで様子を確認し、警官の悲鳴を聞きつけた他の警官が、部屋に飛び込んで来た。


幾多は発砲した。


「この国には、警官を裁く機関がない!だから、権威の悪意が生まれる!」


署内に、警報が鳴り響く。


駆けつけた警官を撃ち殺した幾多。


「残念ながら...君達より、経験が多くてね」


倒れた警官から、拳銃を拾うと…撃ち尽くした拳銃は服の中にしまった。


下から、凄まじい音がして、建物が揺れた。


幾多の配下の女達が、待合室を爆破したのだ。


混乱が、署内に広がった。



「ヒイイ!」


混乱の中、パニックになっていた河東に、幾多は近付いた。


「君には、選択権がある」


幾多は、机の上で頭を抱えている河東に、銃口を自分に向けてから…銃を差し出した。


「僕とは無関係と主張し…このまま日常に戻るか?それとも」


幾多の言葉に、恐る恐る顔を上げた河東は、銃口を睨みながら、


「無関係と言って、警察は信じてくれますか?」


幾多にきいた。


「さあ〜。気分次第じゃないかな?」


幾多は笑った。


「だったら…」


立ち上がった河東は、幾多から銃を受け取った。


「うわああ!」


それから、幾多は写真と指紋をとられた部屋に向かった。


幾多の仲間は、大勢いた。


銃撃戦と爆破の煙の中、逃げようとしている男達に、河東は銃を向けた。


若い男を撃ち殺した。


他の三人は、幾多が殺した。


そして、河東は、指紋をとられたパソコンの画面を撃った。





すべてが終わり、爆破の音だけが響く警察署を後にした河東と幾多は、河東が捕まった公園に来ていた。


「で、どうする?」


幾多の質問に、河東は笑ってこたえた。


「もう戻れませんから」


「そうか…」


幾多は頷き、銃口を向けた。


「君の選択を叶えよう」



銃声が、深夜の公園に轟いた。






「終わりました」


「ああ…」


公園の入り口に止まっていた車の後ろに、幾多は乗り込んだ。


静かに、発車する車の中で...ハンドルを握る女がきいた。


「男性を助けなかったのですか?」


その質問に、幾多は苦笑した。


「無理だよ。警察に捕まった時点で、助からない。後は、警察の言う通りにするしかないよ」


「不当な逮捕として、訴えたらどうですか?」


「裁判になっていないのに無理だ。すべてに、罪がないとは言わないが.....今回のような件でもね。起訴されない軽犯罪のほとんどが、泣き寝入りだよ」


幾多は、煙が上がっている方を眺めていた。


「それに...あの男は、感情を選び...銃を撃った。そして、警察も感情で捕まえた。まあ〜もともと警察は感情の生き物だから、大した事でなければ見逃すこともある。だけど、不平等なのは...警察を裁く組織がない」


しばしの無言の後、女は再びきいた。


「警察は、正義でないのですか?」


幾多は即答した。


「正義が、金を貰うかね?検挙率を気にするかい?データを集める為に、逮捕するかい?例え、犯罪が起こった時に、犯人を特定しやすいとしてもね!それは、つまり....すべての民衆を疑っているということになる」


そう言った後、ため息をつき、


「捕まえる犯罪者がいないと、存在しない組織が正義とはいえないよ」


「....」


「法は正義だというが、単なる力だよ」


女は前を見つめ、


「だったら....正義はどこにあるのですか?」


幾多は前を向くと、バックミラーに映る自分を見て、


「少なくても、ここにはない。勿論....この国にもね」


幾多の言葉に、女は瞼を落とし、


「どうすれば.....何事もなく過ごせるのでしょうか?」


「そうだな...」


幾多は笑いながら、悩む振りをして、


「どこにも行かずに....引き蘢る。それもある意味正解だな。でも、一番の答えは...」


女は、バックミラーに映る幾多に目をやった。


幾多は無表情になると、


「ないよ」


とこたえた。


「え?」


驚く女に、幾多は微笑んだ。


「だから....強くならないといけない。心を鍛えなくてはならない。何事にも負けない心を持つ。例え…相手が法に守られていてもね」


「.....」


「敢えて言うと....自分の信念を持つ。それくらいかな」


「幾多様」


女は潤んだ目で、幾多を見た。


幾多はシートにもたれると、車の天井を見て、


「今の質問…今度、秀流にきいてみよう。なんて、こたえるかな」


楽しそうに笑った。


そして、近づいてくるパトカーと遠ざかる消防車のサイレンを聞きながら、


「政権が変わった…この国。本当に何が変わるのか…楽しみだよ」


ゆっくりと、次の戦いに備えた。



完。




P.S


「そういえば、知ってるかい?仮面ラ○ダーに出て来るショッカーって組織の目的は、人類に番号をつけて、管理することだったらしいよ!はははは!」


幾多は笑い、


「残念だったね!ショッカー!」



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