男の経歴
普通になりたい。
そして、その願望は男をことあるごとに苦しめた。
本を読み、調べることが好きだった。納得ができるまで調べつくした後、物事に取り組むとたいていのことは上手くいくとわかった。
しかし、本当に欲しいものは手に入らなかった。それは、いくら学んでも手に入るものではないのかもしれない、と男は感じていた。
トラウマを抱えて生きてきた。両親に心配をかけまい、ともともと集団行動は苦手であったが、会社員になった。精神衛生上のことを考え、居心地の良い会社に変えていった結果、世間ではそれなりに名の知れたところで勤めることになった。
すると、さらに自分のスキルに磨きがかかったような気がした。会社員という職業は、どのように知識を活用すれば仕事上の問題に対して実現可能か、と常に考える習慣を持つことが重要である、と悟った。
人の役に立ちたいと思い、組織のためにデータと知識に基づいた提言をした。始めは上手く説明できなかったが、回数を重ねるごとにどのように伝えればよいのかがわかっていき、少ないが理解者もできた。
そうなのであるが、良くも悪くもそこは多数決の世界。結局、男は嫌われて異動を命じられる。そして会社を変える。これの繰り返しにうんざりしている。
納得できなければ指摘してほしいのだが、相手が感情的になり、諫めているのだが嫌われてしまうようだ。
ただ人と分かり合いたいだけなのに、それを追い求めるほどに遠ざかっていくことに辟易していた。神経質な性格も相まって、自死を考える程度には疲れ果てていた。
声が聞こえる。
悪口を言っているように感じるのだ。