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ざまぁーされる系の主人公、好き勝手に太く短く生きる!

作者: 麦酒

誤字報告感謝です(´;ω;`)投下前に確認してるのに毎回誤字る不甲斐なさ

 森の中にあるオークの集落、そこに魔法使いのローブを羽織った黒髪ロングな細身の少年……すなわち俺こと冒険者のサレールが立っている、童顔だけど十八歳だ


慎重に辺りを見渡すけど動く者はいない、寝藁があちこちにあるだけの集落には、人間より背が高い豚の魔物、オークの死体が散乱している……さながら地獄だ


まあ、俺がやったんだけどな!


 オークにやられて引きづられている時に拾った白いビー玉……職業オーブを使ったら『剣聖』だったから、最強の職業になれたんだ


 そして脱出する為にオーラをまとった手刀でオークを切り裂きまくっていたら、いつの間にか全滅させていた

普通の動物なら群れの一割も殺されたら逃げ出すだろうに、こいつらアホだから最後の一匹になるまで突っ込んできたんだよ


 おっと、オークを惨殺して酷いとか言うのは無しだぜ

だってこいつら猿並の知能しかないくせに、人間を拐う害獣だからな

因みに食べる為にじゃなく、邪神に捧げる生け贄にする為だけに拐っている……俺もその拐われた一人だ、一か八かに賭けて未鑑定のオーブを使わなかったら、今頃オークと俺は逆の立場になっていただろう


木を寄せ集めただけの醜悪な祭壇には、人間の死体が折り重なっているんだから……


 俺は蒼い聖なるオーラで剣を作ると、祭壇をたたっ斬って浄化させた


 蒼い炎に焼かれる死体から背を向けてバシッと両頬を叩く

兎に角凱旋だ!本来は魔法でオークの集落を見付けるだけの依頼だったのに全滅させたんだ、報酬はきっと色が付いて破格に違いない


憂さ晴らしに豪遊してやるぜ!


―――

――


 こんにちはサレールです、職業が剣聖になってから二年が経ちました

その間に色々な依頼を受けていたら特級冒険者の地位を得て、副賞として貴族位も貰いました


これ自慢なんだけどさ……最高に凄い事なんだぜ!


 世界に数人しか居ない最強の称号でもある特級冒険者に、二十歳の若造が選ばれたんだからな!

流石は百年に一人しか現れないと言われる職業剣聖だ、聖なるオーラを纏えるから――邪神が生み出した魔なる動物――魔物への特攻作用があって無双できたんだよ

更に身体能力や剣技もバカみたいに上がっているから、報酬がバカ高いドラゴンとかを狩りまくった

もう俺最強でいいだろ?金も力あって、更に今回権力まで手に入れたんだからな、ぶははははははははははははっ!


 ――天狗になっても仕方がないよな!


 だから……特級冒険者が最強って、それより弱い騎士って意味あるのか?毎日訓練してるんだったら冒険者なんかより強くなれよ、むしろ特級冒険者は全部騎士から輩出されるくらい頑張れよ、訓練サボってるだろ、それとも才能ないのか?国に仕える騎士のくせに態度がデカいだけで中身はカラッポなんだな


 みたいな事を王城に招かれた時に言ったら総スカンされた、解せん

王様が無礼講だって言ったから、言われた通りに酒飲みまくって思った事をわめいただけなのに、酷くね?

筋肉質なおっさんなんか切れて殴りかかって来るしよ、後で騎士団長だったとか言われてももう遅いよ、うっかりワンパンで倒しちゃったじゃないか、そういうのは最初に言っとけよ


 で現状、俺は騎士と宮廷魔法使いを監視としてあてがわれて、死の迷宮と呼ばれるダンジョンへと向かう羽目になったのだ


「ハハッ、僕の出世街道もここまでか」


「それは私のセリフですよクローさん、やっと念願の宮廷魔法使いになれたのに……しくしくしくしく」


 紹介しよう、俺のパーティメンバーもとい監視の二人だ

二人とも見た目二十歳くらいで、こっちの達観した白い甲冑姿の青年が騎士のクロー、爪みたいな名前だけど爪弾きにされた俺への当てつけなんだろうか?兜をかぶっているので顔は見えないが、中身は黒髪色黒のイケメンダークエルフだ

その隣で泣いている天パ茶髪ロン毛の褐色肌な女の子はバーデン、高級感溢れるローブ姿なのは宮廷魔法使いだからだ、元魔法使いとしては憧れの職業なんだけど……今はただ鬱陶しいだけの女だ


「いいからさっさと行くぞ、たかが騎士団長を殴ったくらいで遠くのダンジョンへ行かされるんだ、ちゃっちゃと終わらせたいからな!」


「……普通騎士団長を殴ったら処刑なんですが……もっとも今から行く死の迷宮も生還者無しだから、実質死刑ですけど」


「それに付き合わされる私達も死刑みたいなものですね……しくしく」


「だぁぁぁーー鬱陶しい!それより言っておいた荷物はどうした、食料と酒と他諸々を買っとけって言ったよな!」


 特注のゴーレム馬車、馬無しで走れる二階建ての高級車でも半月はかかる距離を移動しなければならないから、二人には買い出しを頼んだのに、見当たらないじゃねーか


「それなら私の空間魔法の収納に入れています、とても馬車に載せれる量ではありませんでしたから……」


「移動しながら収納魔法使えるのか!流石は末席と言っても宮廷魔法使いだな」


 すげえー、収納魔法は座標指定が滅茶苦茶面倒くさいから、部屋で固定させた収納スペースを作るのだって位置計算で一苦労するんだぞ


「私は未熟なので出し入れするのに一分くらい掛かりますから、他の宮廷魔法使いみたいに戦闘では使えませんけど」


 いや、俺が自分の部屋に作った時には丸一日掛かったんだが……もしかしなくても、あの複雑な計算式を暗算でして術式に組み込めるのか、とんでもねーな


「まーいいや、準備出来てるなら行くぞ、馬車に乗り込め野郎ども!」


 出発進行ー!とゴーレム馬車へ乗り込もうとしたら、クローが手で遮った


「待ってください、この馬車から人の気配がします」


「人の気配?……本当だ」


 敵意無い上に弱々しいから気付かなかったけど、馬車の下に誰かいるな……こんな小さな気配よく気付いたな、腐ってもエリートって所か


「僕が調べますので下がってください……サレールを狙った刺客かも知れませんから」


警戒するクローを、思わず鼻で笑ってしまった


「はっ、俺に刺客なんか来るはずねーだろ、品行方正な好青年と言われてるんだぞ」


「……すいません、ちょっと黙っていてください」


 軽いジョークのつもりで言ったら、真顔で黙れと言われたでゴザル

仕方がないから、クローが馬車の下を調べるのを、少し離れて見る事にする


 クローは慎重に馬車の下を調べていたのだが、何を見付けたのか怪訝な表情になると、馬車の下に身体を潜り込ませズルズルと誰かを無理矢理引きずり出した


何者だ?と一瞬警戒したが……それは、薄汚れた服を着た小さなエルフだった


―――

――



 王都を出発して一ヶ月、途中途中で村や街の近くにいる強力な魔物とかを倒していたので予定より進んでいない

それでもそろそろ王国の支配地域を抜ける頃合いだ、この辺りまで来ると死の迷宮が近いせいか魔物が多く生息している

次に寄る砦が最後に屋根の下で眠れる場所だ、これ以上先には荒野が広がっていて人は住んでいない


 等と、ゴーレム馬車の中から景色を眺めていると、前方に大層立派な石壁が見えて来た

やっと着いたかと思いながら、俺はこの三週間で打ち解けたイチャイチャしている二人を無視して、俺に寄り添って寝ている七歳くらいの緑髪のエルフ幼女を揺り起こす事にした


「おいシイナ起きろ、そろそろ砦に着くぞ」


「うう〜ん……おはようサレール、もうご飯?」 


「寝惚けてんじゃねーよ、砦に着くって言ったんだ、ほらさっさとヨダレ拭いて降りる準備しろ」


「よ、ヨダレなんか付いてないよ!これは汗、汗なんだから!」


「はいはい、ほらこのハンカチで汗を拭け」


 ゴシゴシと口元を拭くシイナを呆れながら見ていると、バーデンがジト目で睨んでいるのに気付いた

何だ?と視線で応えたら


「サレールさん、いくらシイナちゃんが十五歳でも、身体は子供なんですからね……手を出したら許しませんよ」


「出さねーよ!節操がないお前らと一緒にすんな!」


 余りにもアレな物言いに、思わずシイナの耳を両手で塞いで言い返す


「だ、誰が節操無しですか!」


「毎回毎回村に泊まる度に、ギシギシアンアンしてるお前らだよ!」


 旅を始めて、だんだんクローとバーデンの仲が良くなっていったのだが、一週間くらいで引っ付いて、俺の護衛そっちのけでイチャつき始めたんだ

いや良いんだけどよ、俺は護衛なんか必要ないくらい強いんだから……でも、シイナの世話を俺に押し付けてる癖に、その物言いは許されないだろ


「し、仕方ないじゃないですか、私達はもうすぐ死ぬかもしれないんですよ、子孫を残そうと生存本能が100になって止まらないんですよ」


「死なねーよ、高々ダンジョン攻略するだけなのに、死んでたまるか!」


 耳を塞いでるとはいえシイナが聞いてるんだぞ、不安にさせるような事を言うんじゃねーよ

ほら、シイナが泣きそうな顔で俺を見詰めてるじゃねーか


「サレール……大丈夫だよね?パパやママみたいに、居なくなったりしないよね」


「大丈夫に決まってるだろ、このダンジョンボスを倒したらシイナの両親も探さなきゃならないんだ、死ぬ暇なんかねーよ」


「……約束だよ、絶対帰って来て」


「分かった分かった、約束してやるから安心して砦で待ってろ、俺の為にもさっさと片付けて帰って来てやるからよ!」


 シイナが差し出した小指に小指を絡めてから強気に微笑んでやる

それでやっと安心したのだろう、そそくさと外していた荷物を身に付け始めた


 ……さっきの会話から察した人も居るだろうが、馬車の下から現れたシイナは両親とはぐれていたのだ

旅をしていた際に魔物に襲われて、驚いたシイナは川に落ちて流されたらしい 


 その話を聞いた俺は“使える!”と思ったね

言わなくても分かって貰えると思うが、金と力と権力を得たのなら、次は名声を欲しがるのが人間だ

そんな俺の前に両親と逸れて絶望している少女が現れたんだぞ、利用しない手はねーだろ!


ふっふっふっ、俺を称える声が聞こえるぜ


 ――剣聖は両親と逸れて死にかけている少女を無償で保護して、更に両親を見付けるのを手伝ったそうだぞ

 ――剣聖様って心までイケメンなのね、ステキ抱いて!


なんて美談だ、絶対に大衆受けする!


 両親を見付けたら吟遊詩人を集めなきゃな……いや待てよ、劇団に話を持って行くのもいいな、きっと連日満員御礼だろうからな!

グヘヘヘへと喝采を浴びる未来を妄想していたら、今度はクローがジト目で俺を見ているのに気付いた

こいつにも、何だ?と目で問うと


「なんでシイナはこんなクソ野郎に懐いているのですかね、僕には理解不能です」


 クソ野郎っておまっ……二人揃って酷い言いようだ

そんなの知るかよ、三人には美談の為に保護すると全部ぶっちゃけたのに、何故かシイナだけは喜んでるんだからな……因みにクローとバーデンはドン引きした


「やらない善よりやる偽善ってやつじゃねーのか?」


「それに善意が1%でもあるのなら、僕も文句は言わないのですけど」


「俺に見ず知らずのガキを助ける善意なんかあるはずねーだろ?そんな金があるなら身内に使う!」


「ほんとクズですね、そんな性格だと、その内痛い目に遭いますよ」


「ふっ、その心配は無用だ、人に恨まれるような事はして無いからな」


「……僕達は今まさに、誰かさんが騎士団長を殴ったせいで、死の迷宮へ行かされてる途中なんですけど」


「正当防衛だ、俺は悪くない」 


 自信満々に言い切ってやると、クローは「こいつだけはいつか殴る!」というような顔になったが、知った事ではない!

と、そんな些細な事より大事な事があった


「それよりもクロー、そろそろ砦に着くからのぼりを立てろよ」


「またですか……止めませんかあれ、恥ずかしんですよ」


「却下だ、ほらさっさとやれ」


「はぁ~~」


 ため息で返事しながら立ち上がるなよ、俺のハートは繊細なんだからな、仲間に馬鹿にされると傷付くんだぜ

おい、シイナは手伝おうするな、動いてる馬車の上は危ないんだぞ!



 【剣聖様御一行】と書かれたノボリをはためかせながら砦に入ると、俺たちは在中兵士総出で大歓迎を受けた

大歓声の中、多分責任者なのだろう、壮年の女性が鎧姿で近付いて来る

それを見た俺達も馬車から降りて、笑顔で対応する事にした


兜を片手に持つ女性は、日焼けした顔を笑顔で染めて会釈する


「ようこそ御出おいでくださいました剣聖殿、私はこの砦を指揮するディー・フェンスと申します」


「堅苦しい挨拶はいらねーぞ、おいバーデンさっさと配ってやれ、この砦で最後だからな、余る分は全部出していいぞ」


「いや挨拶くらいしましょうよ……はぁー、今更ですね」


 バーデンは半ば諦めた顔をしてから、収納魔法に入れていた食材や調味料等を取り出し始めた


「おお!塩や新鮮な肉と野菜がこんなに、そしてこの樽は酒ですか!ありがたい!!」


 そして出される大量の品を見てディーが喜びの声を上げると、その声を聞いた他の兵士も歓声を上げた

どいつもこいつも「剣聖様最高!」叫び、称賛の嵐が吹き荒れる


 グフフフフ、大成功だな

実は死の迷宮へと行くように言われた時に、俺に殴られた騎士団長が嫌味ったらしく言ったのだ

「あの周辺は魔物が多く商人すら近付かないから補給は出来んぞ、せいぜい大荷物を担いで行くのだな」と


 俺はそれを聞いて“なんて最高のシチュだ!”と思ったね

だってそうだろ?ギリギリで生活している村とかに生活必需品を施したらどう思われると思う?


 ――絶対に感謝されるに決まってるだろ!


 だから俺は途中立ち寄る村や街に配る為の、大量の調味料や食材等を買い込んだのだ

もちろん食べ物だけじゃないぞ、鍋とかの細々とした物資を省くとしても、他にも安物だが大量の布や糸、そして病気や怪我に効くポーションとかも渡している


 その結果どうなったかは、噂を聞いたであろうここでの歓待が物語っている

どの村の奴らも滅茶苦茶感謝しまくっていたからな、本来なら高い護衛料を上乗せされた商品を買うしか無かったのだから、本当にギリギリの生活をしていたんだ

この砦の奴らも同じだ、最低限の物資しか届けられていないと聞いている

多くの荷物を運ぶには多くの護衛が必要だからな、そうなると運ぶ回数を減らす為に保存が効く塩辛い食べ物が主流になり、酒なんかの嗜好品は運ばれてないだろう


兵士達が剣聖様サイコー!と叫び続けているのが何よりの証拠だ


 もう喜びを隠そうともしないディーに案内されて、この日俺達は大宴会で持て囃された


そして翌日の昼過ぎ、不安な顔のシイナをディーに預けて、俺達は死の迷宮へと旅立った

もし誰も帰れなかったら、シイナに特注ゴーレム馬車と中の荷物を譲る旨を書き残して……



―――

――



 携帯型魔法通信機というものが有る

空間魔法の応用らしいが、異空間で二つの魔法道具を繋げて映像と音を届ける装置だ

録画はもちろん、空間魔法を使える魔法使いが居るなら転移ゲートとしても使える優れ物でもある


 さて、そんな素晴らしい通信機で何をやっているかというと、死の迷宮のマッピングや出現する魔物の情報を送っているのだ

今まで生還者がいないダンジョンだからな、砦に置いておいたゴーレム馬車に設置している通信機に、バーデンが定期的に連絡を入れて、それを砦の兵士が記録しているのだ


 定時連絡を終えた所で、バーデンがいつものように俺に通信機を渡すと、いつものように空中に投影された画面に緑髪の少女、シイナが心配そうな顔で映っていた


『サレール怪我大丈夫?ご飯ちゃんと食べてる?無理してない?』


「お前は俺の母ちゃんかっ!大丈夫に決まってるだろ、今日は二十階くらい降りたけどかすり傷一つ負ってねーよ」


 嘘だけどな!

流石は生還者無しの死の迷宮と呼ばれるだけはある、出てくる魔物は少ないが、どれもがドラゴン並みに強い

お陰で身体中傷だらけだし、連戦で身体バッキバキでボロボロだよ


『頭から血が出てるのは、かすり傷じゃないの?……約束したんだからね、絶対に帰って来てよ』


「まるで帰って来れないような言い方するんじゃねーよ、それより俺が帰るまでに一人でも夜トイレ行けるようになっとけよ、また寝小便されたら堪らないからな」


『ね、寝小便なんかしてないもん』


「悪い悪い、あれは汗だったな」


『もー!』


 無理矢理話題を変えて茶化してやる

ガキの泣きそうな顔なんか見ても一銭の得にもならないからな、せいぜい笑顔にさせて俺の気力を奮い立たせる役に立ってもらうぜ


 散々シイナをからかって笑わせた通信が終わると、クローが難しい顔で俺に話し掛けて来た


「サレールに提案があります……これ以上の探索は諦めて帰りませんか?ダンジョンボスを倒して迷宮を消滅させてはいませんが、これまで不明だった死の迷宮の情報をこれだけ得たのです、きっとサレールの罪も許されると思います」


 横を見るとバーデンも頷いている

言いたい事は分かる、俺達はもう限界なんだ、だいたいたった三人でダンジョン攻略するのが無茶なんだよな、セーフティエリアを確保する人員も居ないから、碌に眠れてすらいない


 正直一回帰って、最低でも人数を増やして再挑戦が最適解なんだろうが……それは出来ないんだよな


俺は痛む身体を誤魔化しながら、きっぱりと断った


「駄目だ、このまま降り続ける」


「何故ですか!もう十日は潜り続けてるんですよ、階層だってもうすぐ二百階です、もう十分じゃないですか」


 当たり前のように抗議するクローを、俺は自分でも怒ってるのか泣いてるのか笑ってるのか分からない、曖昧な表情で頼み込む


「あと三日だけでいいからこのまま進ませてくれ……俺の中の剣聖が、ダンジョンボスまでもう少しだと言ってるんだ」


「それは……本当なんですか?」


「ああ本当だ」


 本気で残念だけど本当なんだよな

邪悪な気配で、聖なるオーラが溢れそうなくらい剣聖の職業が活性化してるんだ

肉体強化も死の迷宮に入る前とは段違いで、すでに俺は人間を越えているだろう


 そんな俺の言葉に考え込んでいたクローは、ため息を吐くと怨みがましく俺を見詰めて言った


「分かりました、ならあと三日だけ付き合います……でもダンジョンボスと出会っても戦いませんからね、姿を確認したら一旦帰って増員を要請します、それが精一杯の妥協点です」


「ああダンジョンボスとは戦わない、悪いな無理言って」


 嘘だけどな!

ボスは俺の名声の為に必要なんだよ……多分それくらいしか持ちそうにないしな

覚悟を決めた俺は笑って承諾した



 ――そんな話をした翌日、俺達は辿り着いてしまった


 五階層降りた先にあったのは、まるで巨大な教会ような建造物……ただしその建築材料は、全てこの世界の生き物で出来ている

人、動物、魚、鳥、様々な生き物を混ぜ合わせ、脈動する肉で形作られた赤黒い教会


 遥か上空の屋根に取り付けられているのは、邪神のシンボル

考えるまでもない、この教会は世界に仇為す邪神を崇拝し、復活させる為の施設なのだろう

そしてそれは復活している、巨大な扉の前に居るだけで、俺達は邪神の邪悪な気配で息苦しくなっている


「か、帰りましょう、これは私達には荷が重すぎます!」


 バーデンはそう口早に言うと、空間魔法を唱え出した

まだ中を確認していないが、俺とクローも頷き合い、バーデンがゲートを開ける間に襲撃がないか周囲を警戒する事にした

俺が持ってる通信機のゲートは使わないので数分は時間が掛かるはずだ、こっちは一度使ったら使えなくなるから勿体無いんだよ


 何事もなくバーデンが呪文を唱え終えゲートが開くと、楕円形の光の輪の向こうに、砦に残したゴーレム馬車が見えた……久しぶりの太陽の光に安堵を覚える

逃げるようにバーデンとクローがゲートを潜り地上に出るのを見送って、俺は片手に持った通信機を起動させると最後の別れを切り出した


「じゃあな二人とも、シイナの事は頼んだぜ」


「「は?」」


 未だゲートを潜らずダンジョンに居る俺を、二人は間抜けな顔で驚いている


「悪いなここまで突き合わせて、実はさ……俺はそろそろ死ぬみたいだから、最後に伝説を残そうと思ってるんだ」


「な、何を言ってるんですか、馬鹿な真似はよしてさっさと出て来てください!温厚な僕でも本気で怒りますよ!」

「そうですよ、何が伝説ですか!シイナちゃんも待ってるんですから、早くこっちに来て下さい!」


 クローとバーデンが俺を引きずり出そうとゲートに潜るのを、聖なるオーラで壁を作って阻む


「俺は魔法使いの職業を持って産まれたんだよ、前衛職の剣聖とは対極のな」


「それが何だって言うんですか!サレールが残る理由にはなりません!」

「そうです、お願いですから出て来て下さい!」


「それがなるんだよ、俺の貧弱な身体は剣聖の職業に耐えられなかったんだ……何もしなくても、あと数日で死ぬ」


 言いながら服を捲ってやる、俺の腹が二人にも見えたはずだ……まるでヒビ割れたかのように、蒼いオーラが溢れ出す壊れた身体が


「「っ!……」」


「だからさ、最後は死の迷宮のボスと刺し違えてやろうと思ってな……ほら、復活した邪神を一人で倒すとか、歴史に残る偉業だろ!」


「出来るはずありません!この強大で邪悪な気配をあなたも感じているはずです、命を捨てるだけです!」

「数日でもいいじゃないですか、せめて最後はシイナちゃんと一緒に居てあげて下さい」


 オーラの壁に阻まれた二人は、泣きそうな顔で悔しそうに俺を見ている


「俺も勝てるとは思ってないんだけどよ……この中の奴を最低でも弱らせておかないと、俺が死んだ後に、お前らが住む世界が大変な目に合いそうじゃないか」


「そんな綺麗事を最後になって言わないでください!他人にかける善意なんか無いと言っていたじゃないですか!あなたは自分の心配だけしとけばいいんです……この壁を……解いてください」

「似合いません、サレールにそんな言葉は似合いません……だからお願いです……ぐすっ……一緒に……帰りましょうよ」


 涙を流し始めた二人に背を向けて、剣を抜く


「悪いな……一ヶ月も一緒に旅したお前らを、俺はもう身内としか思えねーんだわ……見殺しになんか出来ねーよ」


 次第に小さくなるゲートを背に、俺は溢れ出すオーラを剣に纏わせて教会の巨大な扉を斬り裂いた

中へと進む前に、手に持っていた通信機をセットする、少しでも邪神の情報を伝える為だ

ゲートは消えるその瞬間まで、二人の声を届けていたが……もう俺は応えない


 ただ見据えるのは巨大な邪神の右手

笑えない事に、これだけの邪悪なオーラを放っていて、右手一本しか復活してなかったみたいだ

もしこのまま放置して身体全体が復活したら、弱らせる事すら出来ないだろうな


 十メートルはありそうな巨大な右手に、俺は聖なるオーラを全身に纏って駆け出した


 ――ちゃんと録画しといてくれよ……俺の最高で最期の戦いを!



―――

――



 わずか十数分の戦い、それは正に光と闇の死闘だった

邪神の指はそれぞれが多彩な攻撃を仕掛けて来た、小指は無数の鎖となり、薬指は猛毒の霧となり、中指は獣を吐き出し、人差し指は魔法を唱え、親指は巨大化して、広大な教会を埋め尽くさんばかりに襲って来た

俺はそれを受け流し、躱し、斬り裂いて、蒼いオーラを邪神に叩き込んだ


 わずか十数分、たったそれだけの時間で、邪神の右手は輪郭がボヤけるまでに衰弱し……俺の身体の大半は聖なるオーラへと変わってしまった

ヒビ割れた身体は剥がれ落ち、蒼い炎がこの身体を形作っている

もう痛みすら感じない、多分この炎が心臓まで達したら……俺は死んでしまうのだろう


 だけどもう一撃だ!聖なるオーラによる攻撃は、予想以上に邪神に効いている 

これならあと一撃、全力で攻撃できれば邪神の右手を倒せる確信がある

それまで保ってくれよ、俺の貧弱なボロ身体ボディー


 そう決意して剣に更なる力を注いだ時、邪神の人差し指にある口が、始めて呪文以外の意味ある言葉を発した


【剣聖よ待て、このままではお互い滅んでしまう……取り引きをしないか?】


「……」


 油断せずに剣を構えたまま聞き流す、邪神との取り引きとか信用出来ねーからな

無言で剣のオーラが増大する様を見て、人差し指は焦ったように言葉を続けた


【ここで引いてくれるならば、汝が望む全てを与えよう、もちろんその身体も癒やしてしんぜる、富も権力も名声も思いのままだ】


「……名声か」


 ジリジリと慎重に進みながらも、俺は予想外の提案に、つい聞き返してしまった

途端に人差し指の口は笑みを形作る


【そう名声だ!この世界を滅ぼした暁には、全ての魔物から崇拝される存在へと作り変えてやろう】


「……ぶっ、ぶははははははははっ!」


 おいおい笑わせるなよ!真剣勝負の真っ最中なのに爆笑しちまったじゃないか!


【な、何が可笑しい】


「これが笑わずにいられるかよ、いいか、一度しか言わねーからよく聞いておけよ……この戦いは俺の仲間や砦の兵士達も聞いてるんだよ」


【それがどうした、今なら汝の身体を治し…】

「必要ないね!」


 言葉を遮るように、残った全ての力を使って高速で飛び込む

蒼いオーラに包まれた剣は、邪神が咄嗟に出した鎖を容易たやすく弾きながら、その口に突き刺さった!


「ここでお前の提案に乗ったら、俺の名声は失墜するんだよ……せっかく邪神おまえを倒して歴史に名を残す英雄になれるのに、そんな口車に乗る訳ねーだろ!」


 だからさ、俺に名声をくれるっていうなら――……一緒に死んでくれよ!


 残っている全てのオーラを注ぎ込む

口から内部を破壊された邪神は、断末魔を叫ぶ事すら許されず、その身を蒼い炎に焼かれて消滅した



 邪神が完全に消滅したのを確認した俺は、ポロポロと崩れる身体を何とか動かして、通信機へと辿り着いた

画面に映っているのは涙でぐしゃぐしゃになったシイナと唇を噛み締めているクロー

バーデンも鼻声で空間魔法を唱えている、呪文から察するにこの通信機をゲート化する気みたいだ


 勿体無い事をするなーと思いながら、崩れゆく足を隠すように座り、俺はシイナにお別れを言う事にした


「ようシイナ、邪神は倒したから、これでゆっくりと両親を探せるぞ」


『サレール……帰って来るんだよね!約束したもんね、一緒にパパとママを探してくれるって!』


 ポロポロポロポロと身体の末端から蒼い光へと変わって、空中へ溶けて消えて行く


「あーそれな……シイナには言ってなかったんだが……俺は平気で嘘をつくクソ野郎なんだ」


『違うもん!サレールは嘘なんかつかないもん!……私には、嘘なんか……付かないもん』


 もう身体の大半はない、バランスを崩して斜めを向いてしまうが、支える手足は存在しない


「いいや大嘘吐きさ、こんなクソ野郎の事なんか忘れて、シイナは幸せになれよ」


『サレール……やだよ、消えちゃやだ』


 どんどん視界が低くなる、もう腹まで消えているんだろう


「おっと、クローとバーデンは俺の活躍を世界に広めとけよ、英雄として名が残らなかったら化けて出て……」


 声が出なくなった、蒼い炎が心臓まで焼き尽くしたみたいだ

急速に崩壊する身体は、不思議な事に心臓が無くなっているのに意識を保たせている


『サレール!お願いだから消えないで!サレール……サレェェーールゥゥゥゥゥーー!?』


 消え去るその瞬間まで、俺は笑みを絶やさなかった

身内に苦しみながら死んだなんて思って欲しくなかったから……だからさ、泣く必要なんかねーぞ、俺は好き勝手に生きれて――満足して死ぬんだからな!



★★★



 バーデンの呪文が完成し、通信機はゲートへと変化して繋がった

ダンジョンへ駆け寄った三人が見たのは、今にも消えそうな小さな蒼い炎、もうサレールは欠片すら残っていない

シイナが火傷するのをいとわず、その炎を拾い上げるが……手の平で瞬く間に消えて行き、残ったのは白いビー玉のような剣聖の職業オーブだけであった


 それが何か理解したシイナは、瞬間立ち上がってオーブを掴んだ右手を高く掲げる


「こんな物のせいでサレールは……」


 そして激怒の感情のままに、足元へと叩きつけた

クローとバーデンもそれを見ていたが、責める気にはなれなかった

例え百年に一度しか現れない剣聖だろうと、例えそれが邪神に対抗出来る職業オーブだろうと……これのせいでサレールは死に、もう戻って来ないのだから


 地面に叩きつけられたオーブは天高く跳ね上がり、ゆっくりと落下してくる

とても残念な事に、自身の無力さに嘆く三人は、それに気付いていない

ヒューンと落ちて行く先はクローの真上、コツンと頭に当たって跳ね返り、泣いているバーデンのお腹に当たって……スルリと服を透過して中へと入った


「え!」


 それに気付いたバーデンは、途轍もなく嫌な予感に襲われた


―――

――



 ・・・十五年後

王都のレストランで、結婚したクローとバーデンとその息子のサレール、そしてバーデンの弟子となったシイナが食事をしている

年月が経っているが、クローとバーデンは二児の親とはとても思えない二十歳くらいの姿のままである

エルフの長い寿命を持つクローと宮廷魔法使いの技術で老化を止めているバーデンは実年齢は不詳だ

サレールは長い黒髪のエルフ、今年十四歳になるが成長の遅いエルフの為に見た目は生意気な顔した七歳児くらいである

シイナは見た目十五歳くらいになった、ショートカットの緑髪が活発な性格に似合っている

  

 今日は十五年前に邪神を倒した、剣聖サレールの舞台を観てきた帰りである

クローとバーデンにはもう一人娘が居るが、まだ小さいので屋敷で働いてもらっているシイナの両親に預けてある


 さて、そんな家族団欒の食事だが、サレールはデザートを食い終わると、さも今思い出したかのように母親であるバーデンへと質問を投げかけた


「なあ母ちゃん、俺って父ちゃんとも母ちゃんとも顔が似てないけど、浮気相手の子供なのか?……いってぇぇー!」


 そしてすかさず頭を殴られた


「家庭崩壊を招くような言動を外でしないで下さい!あなたは正真正銘私とクローの子です」


「えーでも、父ちゃんはダークエルフで母ちゃんは褐色肌なのに、俺だけ肌白いじゃん、それに顔も全然似てないしよー」


「そんなのあなたの職業が剣聖だからに決まってるでしょ、剣聖は先代サレールみたいな、思わず殴りたくなる顔になるんです」


「殴りたくなる顔って…………なあ母ちゃん、妹やシイナ姉ちゃんにはだだ甘なのに、俺にだけ厳しくね?」


「仕方ないでしょ、あなたは厳しく躾けないとクソ野郎になるのが確定してるんですから」


「確定してるの!」 


 驚愕する息子を眺めて思わず苦笑したクローが、助け舟を出すべく話題を変えてやった


「それよりサレール、今日はお前が楽しみにしていた剣聖と邪神の演劇を観たんだ、何か感想はないのかい?」


「あーあれね……父ちゃん達から聞いてた話と違ったから、何か釈然としなかった、特に最後は最悪だったな」


「ん?過分に脚色はされているけど、最後はほとんど事実のままだぞ」


「いや有り得ないよ!もし俺が邪神を倒した剣聖なら、自分の命を優先するね!」


「ほぉー……ならサレールは、自分の命と仲間の未来なら、自分の命の方を取ると言うのですか?」


 クローがジト目で問うと、サレールは胸を張って言い切った


「当たり前だろ!自分が一番可愛いに決まってるからな!」


「嘘ですね」

「泣いて止めても、自分を犠牲にしますね」

「黙って命を捨てて、みんなを悲しませるんですよ」


 そして総口撃を受けた


「ちょっ信用してよ!普通は最後の邪神との取り引きだって、自分の命欲しさに応じるって!」 


「でもサレールはしないんですよね」

「爆笑しながら斬り掛かるんですよね」

「そして自分だけ満足そうに、笑顔で消えるんですよ」


「なんか辛辣すぎね!」


 更なる口撃にタジタジになったサレールに、シイナがいたずらっぽく口を開く


「仕方がないじゃないですか」


「何が仕方がないんだよ、少しは信用してくれよ」


「信用なんか出来ません、だってサレールは大嘘吐きのクソ野郎なんですから」


「シイナ姉ちゃんまで酷いよー!」


 拗ねるサレールを見て、シイナはくすりと笑って笑顔を向けた


「冗談ですよ、みんなサレールの事は信用しています」


「ホントに?」


 今だ拗ねるサレールに、微笑みながらシイナは小指を差し出す


「ええ本当ですよ、だって……サレールはちゃんと約束を守ってくれたのですから」


 ――結んだ指は燃え尽きて無くなってしまったけど、その魂は新たな命となって帰って来た

 ――約束通り、サレールは私の元に帰って来てくれた


 嬉しそうに微笑むシイナと、約束って何だ?と困惑するサレール

そんなサレールが可笑しくて、そんなサレールが愛しくて

三人は小指で突き出し、新たな約束を迫る


「「「だからもう、勝手に死んだら駄目ですよ」」」


「死なないよ!」


 驚くサレールが咄嗟に言った言葉を三人は笑って噛みしめる

口を揃え「約束ですよ」と誓った言葉は、新しい契約となって紡がれた






サレールは五歳頃に王都で匂いに釣られ迷子になる


サレール「にくー」

エルフ男「いや、うちは野菜焼きの屋台だからお肉は無いぞ……親御さんはいないのかい?」

エルフ女「あなた、この子迷子じゃない?」

サレール「にくー!」

エルフ男「……みたいだな、すまないが辺りを探してくれるか」

エルフ女「ええ、私達みたいに子供を探してるでしょうしね……」

サレール「にぃぃぃーーくぅぅぅぅーー!!」

エルフ男「分かった分かった肉だな、焼いてやるからちょっと待て……こいつエルフと思えない肉食っぷりだな」

サレール「きゃっきゃっ」


 こうしてサレールを探していたシイナとエルフの夫婦は出会う事になる

サレールは、両親を探す約束を守ったのだ……その嗅覚と食欲で!

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― 新着の感想 ―
[良い点] サレールカッコイイ(≧∇≦)b こういう主人公好きですヾ(≧∇≦) [一言] ディー・フェンスで、スラダンが頭をよぎってしまい、ニヤついてしまいました( ̄ー ̄)
[良い点] 死よりも自分のやりたいことを貫いたサレールはとてもカッコ良かったです! [一言] シイナを保護した理由を本人にも言っちゃうのが笑っちゃいました。 読んでいてとても面白かったです!
[良い点] ラストバトルが凄かったです。とてもいい話でした。
2021/04/08 10:10 退会済み
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