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2/ユニークスキル

 起きるとそこは、洞窟の中だった。


 ……何も変わってないことに落胆する。夢ではなかったらしい。

 体があちこち痛かった。当然だ。また床で寝たんだから。


『おはようございます、草十郎』


「……」


『床で寝るから体が痛むんですよ。次からはベッドを使ってください』


 僕より先に起きていたのか、ラピスラズリから小言をもらう。


 あの後、僕は取り合えず部屋の中を隈なく探索した。

 でも、隠し扉なんてものは一つもなかった。

 穴を掘って逃げたり、助けを呼ぼうと大声を出したりもした。

 だけど何も状況は改善しなくて、結局疲れて眠ってしまった。


 ……僕は中学一年生だ。

 明日もきっと学校がある。家族だって待っているだろう。

 こんな穴ぐらで何日も閉じ込められているわけにはいかない。


 だから何としても、ここから脱出しないといけない。


 そのためにはまず、情報だ。

 何一つとして分からない僕に唯一残された希望は、ラピスラズリだった。


 この正体不明の水晶に頼るしか、僕に出来ることはない。


「ラピスラズリさん、教えてほしいことがあるんだけど」


『……昨日あんなに声をかけても無視したのに、都合がよくなれば質問ですか』


「……悪かったよ。ごめん」


 昨日、僕が外に出ようと色々足掻いている間も、水晶は僕に話しかけてきていた。

 僕はこいつと話したくなんてなかったのでずっと無視していたが、もうなりふりなんて構っていられない。


 手を貸してもらわなければ、僕一人じゃどうすることもできないんだから。


『謝罪を受け入れてあげます。私はクールでビューティーなコアですから』


「うん、ごめん。だから助けてほしい」


『……分かりました』



 ラピスラズリは、その正式名称をダンジョンコアというらしい。

 これを中心としてダンジョンはその規模を変え、水晶が壊れればダンジョンはその機能を失ってしまう。


 僕はそのコアを操作できるプレイヤー、ダンジョンメイカーに選ばれたようだ。

 メイカーはコアを操作することで様々なことが出来る。

 ユニットの生成、ダンジョンの拡張、トラップの配置。それらを駆使して僕はやってくる敵をやっつけなければならない。


 これが僕がやらなきゃいけないことだという。


「……出られないの?」


『外に出ることは許されません。成長すればいつかは出られるようになりますが、数日程度で出られるとは思わないでくださいね』


「……」


 ……涙が出そうなので上を向いた。


 やばい、泣きそう。


 学校の勉強だって難しくなってきたところだった。

 授業に出ないのは良くないことだ。


 母さんと父さんは今頃心配してるだろうか。

 妹だって、ようやく小学校に入ったばかりだ。僕に相談事だってあるかもしれない。


 ……帰りたい。


『え、あ、あ……心配しないでください草十郎! きっと大丈夫ですよ』


「……ほんと?」


『……はい! 草十郎がメイカーとしてすぐに大成すればいいんです。私が手伝ってあげますから、頑張りましょうよ!』


 明るい声で励ましてくれて、元気が出る。


 だけど、不安は拭えない。

 僕はあんまり頭が良くないし、運動もできない。そんな僕が頑張って、この状況はどうにかなるのだろうか。


 ……でも、少しでも短くなるなら頑張らないといけない。

 大丈夫。努力には慣れてる。


 泣き言を言っても仕方ない。

 頑張るしかないのだ。


『それに、草十郎? 私も貴方と同じなんですよ?』


「……同じ?」


『はい。最初に言ったように、私は貴方の味方なんです。一心同体、運命共同体です。私は一人では何も出来ません。喋ることは出来ますし知識を持ちますが、ただそれだけです。貴方が守ってくれなければ、私は外敵にすぐやられちゃいます』


「そうなの?」


『そうです。非力なのです。ですから草十郎、私を守ってください。男の子が女の子を守るのは世界のルールです』


 ラピスラズリは自分のことを女の子だという。


 確かに声は女性のようには聞こえるが、そもそも見た目からしてただの綺麗な石だ。

 一体コレが何なのかは分からないが、人の形をしていない以上、判別はつかない。


「うん、分かった。ラピスラズリさんのためにも頑張るよ」


『これからは互いに呼び捨てでいきましょう』


「……頼りにしてるよ、ラズリ」


『はい草十郎!』


 やる気を出して立ち上がる。


 ……立ち上がったところで、お腹が鳴った。

 そう言えば、ずっと何も食べてない。


『まずはご飯にしましょうか』


 恥ずかしい……。



 ご飯を食べながら、ラズリからダンジョンメイカーについての説明を受ける。


 ダンジョンにはDP(ダンジョンポイント)というポイントがあるらしい。

 僕は『窓』と呼ばれる、空中に現れるインターフェースを操作することで、そのDPを色んなものに変換できるのだという。


『DPは全て等価交換です。低いDPでは価値の低いものとしか交換ができません』


「僕が食べてるこのカレーライスは何ポイントなの?」


『1ptですね。なので一日5ptもあれば最低限度の生活はできます』


 ご飯を食べながら話を聞く。

 何の変哲もないカレーライスだった。特筆すべき点はないけれど、普通においしい。空腹が満たされていくのを感じる。


『草十郎はカレーが好きなんですか?』


「うん、好き。学校でも出るし、部活の打ち上げでもたくさん食べる。……でも母さんのカレーの方がもっとおいしい」


『……そうですか』


 二杯目を食べ終わって、お腹がいっぱいになった。

 牛乳を飲んで口の中をスッキリさせる。


「食事の他には何を買えるの?」


『生活に必要なものは大体揃います。水も木材も買えますし、ベッドや枕もあります。全て1ptですよ』


 安くない?

 というか、1回の食事とベッドが同じ値段ってのもおかしい。

 等価交換の基準、間違ってないかな。


『そしてDPには基本収入があります。1日100pt、日付の変わる午前零時に自動で手に入るようになっています』


「え、そんなに? ご飯って1ptでしょ?」


『そうです。最低限度の生活をするだけなら何もしなくても余裕です。ただ、ここから先の話が本当のDPの使い道になります』


 ラズリは真面目な口調で話し出す。


『DPの主な用途はダンジョン防衛――――つまりコアである私を守ることに使用してもらいます。さっき説明したように、私が壊されると全てのダンジョン活動は停止します。勿論DPの生成も消費も出来なくなってしまいます。そして、私には自己防衛機能がほとんどありません』


「え……困るよ。何かの拍子に落ちちゃったら壊れちゃう」


『流石にそんなに脆くないです!』


 怒ったように水晶が言う。


 なんだろう。硬さにプライドを持っているんだろうか。


『まったく……続けますよ。今この部屋は密室になっていますが、一日後――――正確には一日と三時間八分後に、この部屋と外部とが繋がれます。ですから草十郎にはそれまでに、私を外敵から守るための準備をしてほしいのです』


「外部って、穴の外側ってこと?」


『はい。穴はこことは違う場所と繋がるようになっています。ちなみにですが、出ることは禁止されています。それに、もし出てしまうと……草十郎は死んでしまうかもしれません』


「え」


 死んじゃうの!?

 それは大変だ。絶対に外に出ないようにしよう。


『そしてもう一つ、貴方には大切なことをお教えします』


 そう言って、水晶は薄紫色の窓を空中に出現させた。


 僕がさっきカレーライスを買った時に使ったものだ。

 その窓の画面が切り替わり、違う窓が宙へと浮かぶ。


『一つ、貴方には貴方だけの固有能力(ユニークスキル)が与えられます。どんなものが与えられるかは貴方の素質によりますが、強力なものです。これからの貴方を……助けてくれるはずです』


 何やら少し言葉を濁しながら、水晶が窓をくるりと回した。


 そこにはこう書かれてあった。




固有技能(ユニークスキル)死活用(リサイクル)

 ・訓練・戦闘で得られる経験値補正:小

 ・生物の殺害時、経験値補正:中

 ・■■■■■■、■■に比例して経験値補正:極大

 ・死体の価値に応じた武器を生成する。』

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