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1/3

1/始まりは洞窟の中で

 起きるとそこは、洞窟の中だった。


 背中が痛い。

 手をついて起き上がると、ザリっとした感触が伝わってくる。


「ここ、どこだ……?」


 自宅でないことは確かだ。

 地面は剥き出しの土であり、目に入るのは岩ばかり。


 ……誰かに拉致されたのだろうか。

 僕は別にお金持ちでも、身分ある人間でもないのだけれど。


 周りに人はいなかった。特に拘束もされていないので、起き上がって、身に異常がないか確かめる。


 学校の制服は着ているし、靴も履いている。ケガもない。

 変なところで寝ていたせいか体が妙に強張っているが、問題ないだろう。


 あたりを見渡し、軽く散策する。

 が、数分歩いたところでやめにした。


 壁、壁、壁だ。

 そこそこ広いものの、全面がゴツゴツした岩で覆い隠された密室だった。出口すらない。


 ただ、一つだけ、異様なものが部屋の中央に浮いていた。


「……」


 ダイヤのような、八面体の水晶体とでも言えばいいのだろうか。

 その蒼色の石は光り輝いていて、この部屋を淡く照らしてくれている。


 ……不気味だった。

 僕がこの部屋に入ってきた以上、出入り口があるはずなのだが、そんなものは見当たらない。この水晶だけが異彩を放っている。


 少し悩むが、他に手掛かりになりそうなものもない。

 おそるおそる、右手で水晶に触れてみる。


『――――起動確認。システム認証。クリア。正規ユーザー確認』


「!?」


 いきなり音声が聞こえたためビックリした。

 思わず手を放して後ずさる。


 ……水晶に触ったら聞こえたので、多分機械か何かだろう。

 僕の家にはないけれど、確かにそういうものもあると聞いたことがある。


 その声はしばらくの無音の後、流暢(りゅうちょう)に喋り出した。


『新たなダンジョンメイカー、嶽野(だけの)草十郎(そうじゅうろう)様。貴方を第十二のマスターとして認めます。権限参照。第一段階までの情報を閲覧可能です』


「え、――――」


『手短にいきましょう、草十郎。私はダンジョンコアのラピスラズリ。そして貴方は、貴方は私の王――――栄えあるダンジョンメイカーが一人』


 その水晶は――――ラピスラズリは、蒼く麗々と輝きながら、告げる。


『貴方へ課せられた使命はただ一つ。ダンジョンを育成し、襲い来る試練を乗り越え、ダンジョンメイカーとして成長することです』


「ちょ、ちょっと待ってよ」


『驚く気持ちは分かりますが、まずは話を聞いてください。時間がないんです』


 その後、彼女は重ねるようにして、『僕のしなければならないこと』を説明する。


 この世界は、僕が前いた世界とは別の場所らしい。

 剣と魔法のファンタジー。空想ではなく、今いるこの世界こそがソレだという。


 ダンジョンメイカーとは、そのコアを使って迷宮を創る者。

 コアによって生み出されるモンスターを使役し、コアを外敵より守る義務があるとのこと。


『草十郎、貴方は迷宮の王にならなければならない。成長を続け、そしてやがては極坐(きょくざ)へと至るのです。それこそが私たちの天命に他なりません』


「…………」


『さぁ、惚けている暇はありませんよ。思考し続け、努力を重ね、一秒ごとに強くならなければなりません。大丈夫です、なにせ私がついていますから。常に貴方の良き隣人として、その道しるべを示し続けます。そうですね、まずは『窓』の使い方から――――草十郎?』


 捲し立てるようにして膨大な情報量をぶち込んでくる石ころを無視して、部屋の探索を始めることにする。


『あの、草十郎? 聞こえてますよね?』


 見渡す限り出口らしきものはない。四方八方が土くれで覆われている。


 けれど僕が中にいる以上、入ってくるのに使った場所があるはず。

 隠し扉を探さなければいけないだろう。


『……そうだ、固有能力(ユニークスキル)とか興味ありませんか? 男の子だったらこういうの好きですよね? ね? 草十郎?』


 ラピスラズリの声はどこに居ても耳元に届くようで、部屋のどこにいても聞こえてくる。

 それを無視しながら、手探りで周囲を探っていく。


 ……訳が分からない。


 僕がしなければならないことは、彼女の話に付き合うことなどではない。

 一刻も早く、こんなところから脱出することこそが僕のやるべきことだ。


 早く、帰らないと。

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