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二、傑作書いてます

「今回応募したやつ、落選だったよ」


 玄は夕方近くになってもいっこうに闇を見せない陽光の下で友達である額田(ぬかた)公平(こうへい)とともに学園からの帰り道をたどっていた。


「ふうん」


 公平が相槌を打つ。


 それに応じて続きを口にする。今日は言葉が滑らかに出る。公平は自分より頭一つぶん背が高いので、自然と見上げるかたちになる。


「やっぱ今はキャラクター小説の時代だからな。

 僕みたいな、ストーリー性を大事にする作風は受けいれられないんだな、やっぱり。

 みんな『このキャラが良い』『このキャラは立ってない』とかなんとか、キャラについてのことばっかりで、肝心のストーリーが読み込まれてないっていうか。

 今回応募した僕の作品も緻密な構成が売りだったんだけど、そういう複雑な話はきようびはやらないんだな、きっと。

 そういうところが、落選の理由なんだよ。

 難解だって思われた、っていうか」


「凝ってるからな、志水の小説」


 公平は嬉しいことを言ってくれる。


 やはり理解者はここにしかいないのか。


 数少ない友達が示す友情に涙がこぼれそうになり、歩みを速めてごまかす。


 国道のアスファルトから漂う熱気が汗を誘ってきて、これから先の夏本番はいかに灼熱地獄になるかを予想させられた。


「そうなんだよ!

 むしろキャラクターはストーリーのパーツとして扱うべきだっていうか、あくまで従属的なものであるべきなんだよ。

 だから、昨今のキャラクター性重視の時代とは僕はあってないんだよな。

 生まれてくる時代を間違えたんだな、きっと」


「十年くらい昔になら?」


 言われ、少し考える。


「いや、もっとさ。

 ひょっとしたら、未来には受けるかもしんないけど

 長さについても考える必要があるかもしれない。

 パッと読んでパッとすぐわかるような長さである必要があるのかもしれないな。

 キャラクター性が重視されるのも、パッと見てすぐにわかることが受けいれられているからっていうか、すぐにわかるものじゃないと駄目なんだな、今の時代」


「うんうん。

 ていうかさ」


 と、こちらが気持ち良く話をしているのに、なぜか公平は話の腰を折ってきた。


「白根さんへの告白、どうなったの」


「……それを訊かれるのが嫌だから僕の小説の話をしてたんじゃないか!」


 公平の両肩を掴んで前後に揺さぶる。公平もこれだけ背が高ければバスケ部やバレー部にでも入れば良いのにと思うのだが、運動神経は良くないらしく自分と同じく帰宅部に甘んじている。


「わかってるよ」


「わかってるなら良い」


 公平の肩を放した。


「良いのか。

 で?」


 公平がこちらの肩をぽんぽんと叩いてくる。


「たぶんうまくいってないんだろうけど、一応聞いてやるよ」


 意地悪げに、くく、と笑っている。


「見透かされてるのが怖い……!

 ていうか、振られてはいない!」


 そこは譲れなかった。未知はその場で一言も発していないのである。結論はまだ出ていない。


「どういうことよ。

 説明してみ」


 玄は今日あったことを説明した。


 特に、佳がいかに邪魔であったかを念入りに描写した。


「あの女、頭おかしいよ!

 なんでいくら白根さんの友達だからって、告白の現場に割り込んでくるかな!

 自分がいかに人の道を外れているかって自覚がないから、平気で他人を傷つけるような言葉を吐けるんだよ」


 言いながらも、母親のことを「ママ」と呼んでいることが知られていることは伏せた。


 公平との間で、それは禁句だった。


 前に公平を家に呼んだときに、たまたま家にいた母親のことをそう呼んでしまったのである。


 公平はそのことについて何も言ってこない。からかってくるそぶりすら見せない。


 言葉にすれば友情が壊れる、そんな危うさが互いの間に暗黙の了解を結ばせたのである。


「じゃあさ」


 公平は純粋に疑問に思ったかのように言ってくる。


「これであきらめてしまうわけ?」


「まさか!

 白根さんが直接僕のことを振ったって話じゃないからな。

 あの馬鹿女が暴走してああいう結果になったってだけで、本人から直接の返事はもらっていないから、もらえるまでアタックは続けるつもりだよ」



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