十一、告白
「確かにこう……、変わった感じはあるけどな」
佳がいつも通りサンドウィッチを口にしながら言った。
「書き手がこの女に興味がないってのがありありと伝わってくるのが何とも言えねえな」
言う佳の横で未知もうなずいている。
いちおう未知も軽くではあるが玄の小説に目を通してくれてはいるらしい。
「小手先で書いた?」
「う、そう言われると、うなずきたくないけど、否定はできない……」
上目遣いで未知が訊いてくるのに対して、うつむいて答えざるを得なかった。
「今まで書いたことのない性格を機械的に判断して、この人物像ならこういう発言や行動をするだろうという予想のラインから一歩もはみ出ることがなく書かれていて、最後の裏切りもやっぱそうするだろうという感じだったし、これならまだ前のほうがよっぽどましだったな」
裏拳で佳は机の上の紙束を数度叩いた。
「そ、そうかな」
「あたしが悪かった」
ぽんぽんとこちらの肩を叩いてくる。
「お前はお前の好みの女ばかり書いてるべきだったな。
余計なアドバイスだった。
忘れろ」
優しい笑みを浮かべてくるが、どこか馬鹿にしているのはやはりわかってしまう。
それから数週間後、玄は再び最新作を提出した。
「ちょっと、良くなったな。
ヒロイン、格好いいじゃん!」
佳は珍しく褒めてくれた。
「ほんと?」
「喜ぶなよ」
睨みつけられた。
「今度は話の内容がメタメタだからな。
人物描くことばかりに追われて、話の内容が何も面白くないんだよな」
「それは、キャラクター小説ってのを目指してみたんだよ」
「キャラクター小説だからって話の流れがダメで良いってわけじゃないだろうがよ。
そもそもキャラクター小説って、お前、筋を曲げたのか? そういうの好みじゃないって言ってただろ」
以前にキャラクターの印象が弱いことを指摘されたときに、その話をしたのである。
「まあ、時代に合わせたというか……」
目をそらす。
「ハアン。
筋を曲げた結果、良いところもなくなったわけだ」
「うう……」
「筋を曲げて成功できる力量があるならそれもいいけどな、できなければもともとの得意を活かしつつ新しいことも両方やるってくらい貪欲じゃないとやってけないんじゃねえの?」
その横で、未知が、
「このヒロイン、どっかで見たことあるような……?」
と首をかしげていた。
ありとあらゆる物語が溢れる現代社会である、どこかしら似た感じのキャラクターは既に生み出されている可能性はないとは言えない。そういうことだろう。
それからまた数週間後の新作のことである。
「ふうん。
前のヒロインと同じ感じで、今度は話の流れを頑張った感じね」
「そうそう!
何も前回のヒロインを捨てて新しくやる必要はないんじゃないかって思って。褒められた箇所は残しつつ話の構成にも凝ってみたんだ!」
「でもなあ。
話の構成に振り回されて、ヒロインが無理してる感じがしねえか、これ?
話の流れに合ってるかどうか考えた? ミスマッチを狙ったって言うならはっきり言って外してんな」
「またダメ?」
「やり直し!」
紙束を玄の頭の上に載せてきた。
「やっぱ見たことあるヒロインのような……」
未知がこだわっている。
そしてまた更に新作を書き上げて提出し、翌日の昼休みに佳の教室に向かおうとすると、佳がこちらのクラスにやって来た。
「今日はこっちでな」
「ああ、珍しいね」
「うん、まあ……」
佳にしてはほんとうに珍しく歯切れの悪い話しかたをしている。
空いている玄の隣席に佳が腰かけ、弁当をひろげた。
「白根さんは?」
不在を疑問に思いつつ自分も弁当をひろげる。
「みっちゃんはねえ……、気になる?」
未知のことを普段呼ばないような呼びかたをして、佳は訊いてきた。困ったような顔を
している。
「そりゃあ、いつも一緒だったから気になるだろ?」
まさかいきなり未知が妊娠でもしたという話を聞かされるのだろうかと冗談交じりに思った。
佳は髪の毛をかき上げながら、
「お前、未知にまた告ったろ?」




