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「せんぱいは、どうして死にたいと思ったんですか」


それだけはずっと気になっていたこと。

私はとうの昔からせんぱいのために身を投げ出す覚悟はできていた。

愛でもなく、恋でもなく、それはきっと自己陶酔のため。

別に相手なんて誰でもよくて、たまたま近くにいて、いちばん綺麗な人だと思ったから。

私が誰かと一緒に死ぬとしたら、これほど美しい死に方のできる人はほかにいないと思ったから。

せんぱいと違って、私は決して特別かわいいわけでもなく、クラスにも一人はいるくらいの容姿で、ちょっと性格が歪んでるだけのどこにでもいる女。

せんぱいは私なんかと違って、それはもうとんでもなくきれいだと思う。出るところに出ればそれなりの地位にまで、きっと辿り着けるはず。

勉強も人よりできて、人付き合いもソツなくこなす。

そんなせんぱいがどうして死にたいなんて思ったのか。

その言葉を聞いた時のせんぱいの瞳を見たら、わたしの目は吸い寄せられてしまった。

いくら冗談みたいな言葉でも、それは冗談のようにはどうしても聞こえなかったのだ。


「この歳のわたしたちがいっしょに死んだら、きっと綺麗だと思ったんだ」


せんぱいは壁かけ時計の秒針が一周するくらいの長い時間考えたうえで、ブラックのコーヒーを一口こくりと飲んでからそう言ってのけた。

やっぱりせんぱいが何を言ってるのか全然わからなかった。

それでどうして私を選んだのか。死んだ後のことはどうするのか。親は悲しまないのか。聞きたいことは山ほどあった。でも最初に口をついて出たのはこんな疑問だった。


「自殺するとして、どうやって死ぬんですか」


今度は壁かけ時計の秒針が半分回ったくらいのところで、またブラックコーヒーを一口こくりと飲んでからせんぱいは言った。


「飛び降りよ。あんな美しい死に方、ないでしょ?」


二人で手を繋いで、空のむこうに飛びたつの。

そんな言葉があとに続いた。

昔のアイドルだって飛び降りで自殺してるし、確かにそれは悪くないかなと少し思ってしまった。

この世のものではないくらい美しいせんぱいと並んで空のむこうに飛びたつことができるのであれば、私もきっと多少は美しい存在としてせんぱいに近づくことができるのだろうか、とか。

そんなことをずっと考えていた。

そこから、わたしもせんぱいも一つとして口を利くことはなかった。

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