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「ねえ、わたしと死なない?」
気がついたら、隣の席に座っていた女の子に向かってそんなことを口走っていた。
すぐに俯いて口元を抑え、今のなしね、変なこと言ってごめんね、と言おうとした。
ああ、また変なことを言ってしまったな。変な子だと思うよね、でも私だってほんとうは周りと違う変な子だから、たぶん。
ちょっと後悔しながら顔を上げ、その年不相応な落ち着きのある顔立ちを見て、やっぱりきれいだな、と思ってしまった。
だからこそ、彼女の口から紡ぎ出された美しい声がわたしの耳に届いたとき、わたしは音声情報を言葉として知覚するまでに相当な時間がかかってしまったと思う。
「もちろんです。せんぱいと一緒なら、いつでも」
ふふっと笑われてしまったような顔で、さもこれから渋谷の喫茶店でパフェでも食べに行かない?という問いに答えるかのような声だった。
さも口笛でも吹くような軽さで答えられてしまった。
まさかそんな、人生の一大事というか終わりをこんな先輩のために使ってしまっていいのかと逡巡しながら、それでも即答してくれたことがちょっと嬉しくて。
なんて返したらいいのかすごく長い時間考えてしまって。
「あ、ありがとう」
なんて、そんな通り一遍の挨拶で返してしまった。
頭の中をぐるぐると回っていたから忘れていたけれど、いまは部活中なのだ。
譜面合わせの最中だったことを思い出し、フレーズを歌に乗せていく。
すぐに教室中に女子高生らしい清澄なソプラノの声が満ち、そぐわないわたしの邪な感情は一時的に隅っこの方に追いやられてしまった。
本当のわたしはこんなに綺麗なソプラノの声みたいなんかじゃなくて、後輩の女の子を悪の道に引きずりこんでしまうような悪い子なんです。
そんなことを思いながら、まったく身の入らないパート練習へと無理やり自分を嵌め込んでいった。
開いていた窓から、今にも稜線の向こうに隠れそうな太陽の光が差し、冬の訪れを感じる強い北風が吹きつけた。
野球部のランニングのかけ声が遠くに聞こえ、わたしは歌うふりをしながら、彼女の歌声に耳を澄ませていた。