8話目
ぎゃあぎゃあと鳴き声が聞こえ、少しずつ頭が起きだす。まだ重い目蓋をほんの少し開ける。
見慣れていない天井や壁、家具やベッド。あそこよりも暖かい部屋。
そうだ。僕、あの国からでられたんだ。夢じゃなかったんだ。
昨日のことをぼやっとした頭で思い出す。
窓を覆うカーテンは日差しをほとんど遮っているが、その裾からは魔王様の白いローブと足が見えている。
「会わせろ会わせろ言われても、まだ寝てるんだよ。もう少し時間を考えてくれ」
ぎぃぃぃぃ
低い不満声だ。
「まおうさま…?」
僕が声をかけるとカーテンが開く。
朝日が目に入る。眩しくて目が細くなってしまう。
それと同時に何かが僕に突進してきた。
「うぐっ」
お腹に軽い痛みが走る。寝起きの僕はその力に勝てるはずもなく、そのままもう一度ベッドに押し倒される。
柔らかなベッドのおかげでボフンと体が沈む程度で済んだ。
「お前なあ…」
僕は頭だけを起こして、お腹を見てみる。
僕のお腹の上にいたのは、茶色い、鳥?
ギィギィ!ギィギィ!
僕のお腹の上でぴょんぴょん飛び跳ねながらくるくる回っている。重くは無いけど、何が何だか分からないから動けない。
「お前、求愛のダンスをするな。私の夫だぞ」
ギィィィイ!!
魔王様に向かって文句を言っているように聞こえる。翼を広げ、頭を低くし、威嚇のポーズを取っている。やっぱり怒っているみたいだ。
「おはようぼうや」
「おはようございます」
「朝から騒々しくてすまない」
ギィィィイ!!
怒ってる。目が鋭くなって、魔王様を睨んでいる。
「ここの後ろの森に住んでるイッシュウハヤブサって鳥だ。ぼうやを一目見たくて朝から押しかけてきたんだ」
魔王様に興味が無くなったのか、またくるくると跳ね出した鳥さんは先程の鳴き声よりワントーン高くなった甘い声でキィキィと歌い出した。
「本格的に求愛し始めたぞ、コイツ…」
大きなため息をひとつついた魔王様は、そのまま鳥さんの首を摘んで、窓にポイって放った。すぐさま窓を締めて鍵をかける。
ガンガン足で窓を蹴っている。すごく怒ってる。
「うるさい。お前の嫁に言いつけるぞ」
その言葉を理解したのか、一瞬にしてしょぼくれた。そして、僕の方を見ながら窓から離れていった。おそらく巣に戻って行くのだろう。
「本当に朝から騒々しい…」
「えっと、お疲れ様です」
「いや、あいつも悪いやつじゃないんだがな。少しぼうやが特殊なんだよな」
「僕が特殊…?」
「その話もしなくちゃな。その前に」
チラリと扉を見ると、ちょうどコンコンとノックされた。
「リーナが起こしに来たし、服を着替えて朝ごはんを食べに行こうか」
「はい」
僕、何か、特殊…。
なんなんだろう。