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魔王さまと王子さま  作者: ぼんさん
6/10

5話目

「まあまあまあまあ!!可愛らしいぼっちゃまですこと!!」


そうだろうそうだろう。可愛らしいだろう、私の夫は。

うんうんと首を縦に振り、肯定の意を表していると、不意にローブをくいくいと引っ張られる。


「だあれ?」


だあれ?真ん中の伸ばす『あ』が可愛すぎやしないか?


「あぁ。彼女はこれから住む家で色々やってくれるメイドさんだ」


「初めまして、リーナと申します」

リーナがお辞儀をすると彼に彼女の耳が見えた。


「猫の耳?」


「はい、そうでございます。猫の血が入っておりますよ」

にっこりと笑う彼女をまじまじと見ている。

「うわあ…。僕、亜人の方を初めて見ました…」

「左様でございますか。ここで魔王様の身の回りのお世話をしている者は大体が亜人族の者でございますよ」


「ぼうやは亜人族に対して偏見は無いんだな」


「あの、その…」

モジモジと何かを言いにくそうにしている。

「父上には亜人族とは付き合うなと言われていましたが、耳やしっぽがあって、かっこいいなとずっと思ってたんです…」


亜人族への偏見はやはりある。もちろん亜人族から人族への偏見も強い。だいぶ昔からお互いがお互いを嫌いあっているのだ。私からしたら何にも変わらないのだがな。少しばかりの身体的特徴と身体的能力の違いくらいだ。


「まあまあ!私たちが怖くないのですか?」

「怖いとは思いません」

緊張が解けてきたのか、表情がどんどん出てきている。

「魔王様…」

「なんだ、リーナ」

「良い男性を捕まえましたね」

「お前な、もっと他に言い方があるだろ。だが、否定はしない」


ウフフと笑う彼女に呆れながらも、自分の夫の適応力の高さを見誤っていた。

彼の家族が呪縛であったのかもしれない。


「さあさあ、立ち話もなんですし。おぼっちゃまはお疲れでしょう。お部屋にご案内しますね」

いつの間にか、ぼうやの手を繋いでいる。

「そうしてくれ。わたしは少し竜舎の方を見てくる」

「そうですね。もう少しでお産まれになりそうですもの。シルヴィア様も魔王様が傍におらず不安そうにしておりました」

「そうか。後を頼む」

「かしこまりました。あ、魔王様、仮面とローブは取って行った方がよろしいかと」


迂闊だった。

リーナに言われた通り、ローブの留め具を外し、仮面を取る。

こちらへ、と言わんばかりに手を出して待っている彼女に2つを渡す。


「……い」

「ん?なんだ?」

「ううん!なんでもないです!」

ぶんぶん顔を振ってる。可愛い。


「ぼうや、少し私は離れるがリーナが世話をしてくれる。何がが欲しい、何かしたいなら遠慮なくリーナに言え」

頭をぽんぽんする。可愛いな。

「魔王さま…」

「どうした?」

「直ぐに戻ってきますか…?また、会えますか…?」


心臓を鷲掴みにされ、握られたような激しい動悸が起きる。

不安からの涙目だろう。それすらも私にとっては武器になってしまう。末恐ろしい子だ。


「直ぐに戻るよ、安心しろ。私の方から、ぼうやから離れることはしない」

「分かりました」

しょんぼりした顔をする彼を慰めるようにクロとシロが体を擦り付ける。


「さあ、ぼっちゃま。リーナと一緒にお部屋へ行きましょう。まずはお着替えからしませんか?」

リーナ、良い仕事だ。物理的に引き離してくれなければ私の精神が病むところだった。


2人を見送った後で竜舎へと足を運ぶ。

古城の裏手にある竜舎には5頭の騎竜がいる。その内の1頭が今卵持ちである。そろそろ産まれる時期に差し掛かっているのだ。


「シルヴィア」

私の声に反応を示し、柵の方まで歩いてきてくれる。

「そろそろ産まれるだろう。傍にいてやれずすまんな」

不安を瞳に滲ませてこちらに甘えてくる。首筋を撫でてやると幾分落ち着いてきた。


「あんれ、魔王様でねえか」

「心配で来てしまった」

竜舎番を頼んでいるゴルがお湯やタオルなどを持ってきた。お産の準備だ。

「いいやあ、ありがてえよ。さっきから落ち着きが無くなってきてて、そろそろかあと思ってたところだ」


横の区画にいる番の方もさっきからウロウロしている。


「魔王様!」

呼ぶ声で分かるが。

「ぼうや、どうした」

まさかここに来るとは思っていなかった。服も式典で着ていたものとは替えて、かなり軽装になっている。

「あ、あの。さっき、魔王様がしたいことがあればリーナさんに言いなさいって言ってくれたので、魔王様のところに連れて行ってってお願いしました…。お邪魔でしたら、戻ります…」

入口で待機しているリーナを見やると、どうやらその通りらしい。彼のお願いを叶えたのだと口の動きがそう告げている。その横にいるワンコどもは『悲しませたら許さん』と言わんばかりに不機嫌さをアピールしている。


「いや、大丈夫だ。これからこの騎竜に子どもが産まれそうなんだ。それを見守ろうと思ってこっちに来ていた」


「赤ちゃんが産まれるんですか?」


「いや、この竜は卵生だ。卵で産まれるんだが、何せ初めてのお産になるから、こっちも心配でな」


そう、このシルヴィアは私と共に育ってきた大切な騎竜だ。


「ぼっちゃま、このシルヴィア様は魔王様の相棒なのですよ。小さい頃から一緒に過ごしてきたそれはそれは大切な騎竜なんですよ」


「ぼうやを連れてきてもよかったんだが、やはり少しは血なまぐさい場面もあるから誘いにくかったんだ。すまんな」


「僕、邪魔じゃないかな… 」

「応援してやってくれ。初めてだからシルヴィアも心細いはずだから」


そうこうしているとお産が進み、何事も無く無事に出産が終わった。

ゴルが後産の処理をしてくれているので、シルヴィアの前足に抱えられている卵に触る。

さすがにぼうやは警戒されるかと思っていたが、シルヴィアはぼうやが触れることも許した。産後はだいたい気性が荒くなるはずだが、こうも呆気なく許してくれるとは。

「うわあ、温かい」

「そりゃあ、この中に赤んぼの竜がいるわけだからな」

つるりとしている手触り。少し黄色味がかった色。

「凄いですね。こうやって、産まれるんですね」

何か思うところがあるのか、ぼうやは卵を撫でながら呟く。

「シルヴィア。この子をぼうやの騎竜にしてもいいか?」

まだ産まれてもいないが。でも彼女はそのつもりであったのか、クルクルと優しい声を出してくれた。

「いいってさ。ぼうやに騎竜をやろう」

「ぼ、僕、乗れないですよ」

「乗れると色々と便利だ。少しずつ練習しよう」

「本当にいいの?シルヴィア…」

礼儀正しい子だ。ちゃんと自ら了承を取ろうとしている。

ペロリと頬を舐める。

「うわああ」

尻もちをつき、目をぱちくりさせている。可愛い。

「2、3年もしたら成竜と同じ大きさになる。それまでに騎竜術を身につけような」

「頑張ってみます」

はにかむ笑顔を向けられると鼻血がでてしまいそうになる。可愛い。


「さて、戻るか。ゴル、後を頼む」

「はいよ、魔王様」

「シルヴィア、よく頑張ったな。明日もまた顔を出しに来るよ」

産卵に体力を使い切ったのか微睡んでる彼女にバイバイをするぼうやの愛いことこの上ない。


城までの道のりで見える夕日はオレンジ色に輝いている。

「僕…」

ふとぼうやが立ち止まる。

「僕、魔王様のお婿さんになれて、本当に良かったです」

魔王に怖気付くことなく真っ直ぐに自分を見つめてくれる存在とはこんなにも嬉しいものとは知らなかった。

「私もだ。こんなに可愛らしいお婿さんを迎えられて嬉しく思うよ」


自然に絡む指。

もう少し大きくなったら指輪でも作ってあげよう。お揃いの石を入れたり、模様を彫ったりしてもいいな。


歩幅を合わせて、城までの帰り道を楽しんだ。





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