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魔王さまと王子さま  作者: ぼんさん
5/10

4話目

ぞろぞろと列をなして帰っていく国の代表達を先程と変わらない場所から見下ろしながら、この先のことを考える。


そう、今、私の、膝の上にいる子についてだ。


「ぼうや」


びくっと体が揺れる。可愛い。

その瞬間、両脇で伏せっていた2頭の狼たちがこちらに歯をむきだして威嚇する。


「こら、ご主人様に対して威嚇するな」


注意をしても、威嚇を止めない。

グルルルルと低い唸り声を出し始める。

本格的に怒っているのが見て取れる。

今にも飛びかかってきそうに見えるが、こちらとて仮にも契約を結んでいる主である。さすがにそれは無いだろうと踏んできたが、抗議の引っ掻きくらいはしてきそうな勢いだ。


「まさか、お前ら…」


そう、おそらく、そのまさかである。


「ぼうや、そこに立ってごらん」


両脇に手を入れて、膝の上から降ろしてやる。

指定した場所で立ち止まると、その脇に2頭が向かう。こちらを睨みつけながら。おい、私がご主人様だぞ。

しかし2頭は彼の横から動こうとせず、『我らの主を傷つけるものは何人も許さん』という姿勢を崩さない。


急に近づいてきた狼たちが怖いのだろう、顔が真っ青になっている。


「おい、お前ら。主を変えるのは全く構わないが、新しいご主人様が怖がっているぞ」


ハッとした表情を見せ、一瞬にして項垂れる。耳は垂れ、尻尾も垂れ、この世の終わりのようなしょぼくれ方をする2頭はチラチラと彼の顔色を伺っている。

だが、急に落ち込み始めた2頭にどういう風に接すればいいのかが分からず狼狽える彼がめちゃくちゃ可愛い。自分の夫が可愛すぎる。


ずっと見ていたいがそれだと彼が可哀想だな。仕方ない、前の主として最後の手助けをしてやろう。


「ぼうや、その子らの頭を優しく撫でてやってくれないか」

「え、いいの…?」

撫でてもらえるかもしれないという淡い期待感が尻尾に出ている。左右に小さく振り始めた。分かりやすいぞ、可愛い犬っころめ。


「いいぞ、私よりもぼうやに撫でてほしいんだと」


「うん…」


自分の身長を座りながらでも優に超す狼たちに勇気を振り絞って撫でる。あ、踵浮かせて背伸びしてる、可愛い。

2頭も身長差に気付いたのか、伏せをし彼が撫でやすいように体勢を変える。


「ふかふかだぁ」


片方を撫でていると、もう片方が自分も撫でろと言わんばかりに彼の体に頭を擦り付ける。


「片方が拗ねているぞ?」

「う、うん」


両手でそれぞれを撫でてやる。

おいおい、腹を上に向けかねないなお前ら。


「名前をつけてやってくれないか」

ガバッと顔を上げる2頭のせいで、手を頭に置いていた彼がその反動で後ろによろめく。


「一応護衛として契約を結んではいるんだが、名前は付けてない。名で紐付けてしまうと、この先本当の主を見つけた時苦しむのが目に見えてるからな」


「名前?」


「そう。たかが名前とは思うんだが、名前をつけるという行為は、ぼうやたちが魔族と呼ぶ私たちにとっては命すら投げうることになる重い契約なんだ」


「そうなんだ」


撫でてる手が止まっているのが気に食わないのか、彼の手に自分らの頭を擦り付けて催促のおねだりをする2頭。


「この人のために生きたいとか守りたいとか、この人と一緒に過ごしたい、と思った人に名付けてほしいんだ、魔族ってのは」


だから名付けてやってくれ、と続けると、彼は考え始めた。思案顔も可愛い。


「じゃあ、キミが『クロ』ね」

右側にいる黒毛がクロ。

「キミは『シロ』ね」

左側が白毛でシロ。


2頭の額に契約の紋が浮かび上がる。


「契約が済んだようだな。これからこの2頭がぼうやを守ってくれる護衛になる。この領土でぼうやを害するものはいないとは思いたいが、何があるか分からない。用心するに越したことはない。どこか行く時はよっぽどの事が無い限りは一緒に連れて行ってくれ」


「うん、分かった!」


今日一番の大きな返事と笑顔。眩しすぎる、可愛すぎる。後光すら見えてきそうだ。


「では、私達も移動しようか」

「どこに行くの?」

「これから2人で住む家だよ」

「いえ…」

急に気持ちが沈み、彼の表情も暗くなる。

おい、私に威嚇するな馬鹿ども。

こちらが睨んでも怖気づかない。それでこそ護衛だ。幼いとはいえ、力量が測れない種族では無い。格上の力を持つ者であれ、直ぐにそれを表面に出さないのは合格点をくれてやろう。ただ魔王に対しては少々不敬のような気がするが。しかし夫の身の安全を一番に守るのは文字通りこのわんこ達だ。後で躾は私がしてやろう。


「ぼうや。行けば分かるが、この地においてぼうやは魔王の夫だ。この意味が分かるか?」


「ごめんなさい、分からないです…」

今にも泣き出しそうな表情に悪化する。

だから止めろ犬ども。攻撃姿勢を取るな。


「誰もぼうやを傷つけるものはいないってことだ。皆がぼうやを大切に扱ってくれる。もし意地悪されたら、その護衛に相談してやれ。直ぐにそいつを倒してくれるよ」


「でも…」


「ん?どうした」


クロとシロに抱きつく。ふわふわな体毛に埋もれる。可愛い。


「でも、クロとシロが傷ついちゃうよ。それはダメだよ…。やっと、僕に友達ができたんだもん…」


尾っぽがちぎれてしまいそうなほど振り回している。嬉しそうな顔をしやがって。


「そうか。それなら、大切な友達を守れるようにぼうやも強くならないとな」


彼の頭を優しく撫でてやる。


「うん!」







本日2度目の可愛い笑顔に大きな声を頂きました。ほんと、天使。





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